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運転期限の上限撤廃を「最小限の改正」と書く発想

2月3日の原子力規制庁定例ブリーフィングは、通常5分程度で終わるところ、2時間の長丁場となった。記者会見のよいところは、他の記者の質問で気付かされることがあったり、初見の資料を読み込み、頭を整理する時間が与えられたりすることだ。「ない」と言って「あった」行政文書の開示手続を原子力規制庁がエネ庁に「移送」の続き)

法制作業の初期段階3枚の紙

今回は、計14枚の資料2「運転期間の見直しに係る経緯に関し、公表する資料の一覧」を会見中に読み込むこととなった。

エネ庁の資料は開示が先延ばしされるため、肝は以下の3枚、原子炉等規制法で「運転期間」に関する条文をいじる3案だ。

作成日と作成者を尋ねたが、その後、聞く記者が変わるたびに微妙に変化した。会見後、黒川報道官に、この3枚の作成者は「法令審査室」を併任する「原子力規制企画課」の西崎崇徳企画調整官か?とピンポイントに尋ねたら、そうだという。

以下、作成日と作成者と最大の特徴を整理し、黒塗りの中身と意味を解説する。

① 資料P8
作成者:原子力規制企画課及び法令審査室
作成日:2022年8月23日
特徴:「メリット デメリット」が黒塗りになっている

出典:2022年2月3日規制庁資料P8

② 資料P9
作成者:原子力規制企画課及び法令審査室
作成日:2022年9月13日
特徴:「最小限の改正」とある

出典:2022年2月3日規制庁資料P9

③資料P10
作成者:原子力規制企画課及び法令審査室(②と同じ)
作成日:2022年9月13日(②と同じ)
特徴:「小幅改正」とある

出典:2022年2月3日規制庁資料P10

規制庁の頭の体操は「運転期間」を削る案3つだけ

以下、黒塗りの中身と意味を解説する。

8月23日の①の案の1と9月13日の②は同じものだ。これは原則40年と定めた原子炉等規制法第43条の3の32の「その満了に際し」「1回に限り延長することができる」という条文から、「1回に限り」を削る案。すると何回でも延長ができるので、運転期間の上限撤廃ということになる。

9月13日の③は、8月23日①の「案の2」と「案の3」を合体させたものだ。これは、原則40年と定めた原子炉等規制法第43条の3の32の「運転期間」をバッサリと削り、その代わりに現在は規則で定めているPLM(高経年化技術評価)を法律に昇格させるというもの。

どれも「運転期間」を原子炉等規制法から削る案だ。黒川総務課長は、原子力規制委員たちには①②③は見せていないという。委員たちが公開で議論を始める前の段階を、原子力規制庁は「頭の体操」だと述べてきた。体操メニューの中には、「運転期間」は立法政策であると突っぱねるという選択肢はなかった。

黒塗りの特徴

①の「メリット」「デメリット」、②「最小限の改正」と③「小幅改正」の黒塗りは関連している。

①「メリット」「デメリット」
記者たちに繰り返し「黒塗りには何が書いてあるのか」を問われ、黒川課長は、①の「案の1」の黒塗りの例として「『文字面上、変わっていないように見える』などおよそ組織の考え方とはかけ離れた職員個人の考え方が書いてある」と明かし、「恥ずかしい内容だ」「法案の条文を詰めている大詰めの時期にこんなことが明らかになっては」などと黒塗りにした理由を述べた。

ぶら下がり取材で、結局、黒塗りになっている「メリット」「デメリット」は誰の目から見たものかと質問して、メリットの発想がさらにはっきりした。メリットとはこの文書を作成した規制庁職員から見たものだった。

規制庁の「メリット」発想

②「最小限の改正」
①の案の1と②は同じ内容なので、『文字面上、変わっていないように見える』という発想は同じ。つまり「1回に限り」の5文字を削るだけなら「最小限の改正」に見えるという国民を馬鹿にした発想だ。一方、削って終わりなら、原子力規制企画課及び法令審査室の改正作業は最小限で済む。さらに言えば、改正案が実現すれば、延長審査の認定という仕事もなくなる。

つまり、見え方も作業量も最小限だという、規制庁職員から見たメリットだ。

③「小幅改正」
③は原子炉等規制法から「運転期間」を削って電気事業法へ移す代わりにPLM(高経年化技術評価)を法律に昇格させる案は、最終的に残った案だ。これが「小幅改正」と書かれた意味を考えてみた。国民にとってはもちろん「規制」としての運転期間がなくなるので大転換であり「小幅改正」ではあり得ない。

そして、現在のPLM制度がズサンなだけに、PLMの法律への昇格は、その検証から始めて真剣にやれば、本来は大変な作業となる。しかし、③には「可能な限り小幅な改正とすることにより、規制リソースへの負担増を抑制」と書いてある。

すると、ここは状況証拠(既報)も加味しての私の憶測だが、「小幅改正」とは、現在のズサンなPLM制度をあまり変えないまま法律に昇格したいという発想の現れではないか。

①②③とも、メリットは規制庁職員の仕事がラクだというもので、国民にはデメリットだ。なぜなら、どんな機械でも、時間が経過して老朽化が進めば、故障率は高まると考えられているからだ。(以下、バスタブ曲線(「岸田政権による原発回帰がもたらす10の問題」(メモ)」より再掲)

出典:後藤政志氏資料から再掲

ラクに仕事をしようとすることは悪くない。しかし、1000万点もの部品からなる原発を規制する組織に、このような発想が昨年8月、9月にあったことは、忘れるべきではない大事件だと思う。

なお、黒川課長によれば、①②③の資料のまとめ方は規制庁の中でもボツになったという。しかし、提出されるであろう法案は今のところ、③そのものである。

【タイトル写真】上限撤廃を意味する頭の体操

出典:2023年2月3日、原子力規制庁定例ブリーフィング資料2(P9より)

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