崩壊する原子力災害時の”屋内退避”の前提(2)
忙しい方は、目次から「ここからが本題」へ飛んでください。
避難も屋内退避も無理な最悪のシナリオから議論が始まるべきところ
能登半島地震から10ヶ月。道路崩壊、家屋崩壊、通信断絶、電気・水道などのライフライン喪失、救急・消防、警察、自衛隊からの孤立。人命救助のタイムリミット72時間の過酷さも、9月の能登半島豪雨で再び思い知らされた。
原子力災害対策指針は、新規制基準が奏功する前提で、PAZ(原発から5km圏)からは避難、UPZ(5〜30km圏)では屋内退避することになっている。
本来なら、能登半島地震を受けて、避難も屋内退避もままならない最悪のケースから議論が始まるべきところ、この検討チームは屋内退避の指示をいつ解除するのかを検討しようという楽観シナリオから始まった。
具体的には第1回の資料でこう書かれている。「屋内退避は、長期にわたる継続が困難であり恒久的な措置ではなく、いずれかの時点で解除や避難への切替えを判断しなければならないものであるが、原子力災害対策指針では(略)屋内退避の解除や避難への切替えの判断は示されていない」。
しかし、第4回までの質疑応答により、原発事故時に
・新規制基準が奏功しているのかは「不確定要素」が多くて判断が難しい。
・屋内退避の開始のタイミングを判断するのすら困難だ。
そういう当たり前のことが露呈した。
(ここまでの話は、崩壊する原子力災害時の”屋内退避”の前提で乱雑に記録)。
そして、第5回で、対策が奏効せず、大規模な放出があった場合も議論された。
第5回で問題になった、特筆すべきこと
そこでは、自治体のマンパワーと屋内退避をしている間の備蓄の問題が改めて浮き彫りになった。新規制基準が奏功しなかった場合(上図P9)のことをJAEA丸山氏が質問した後の10分程度のやりとりだ。
規制庁側から回答が行われた後、伴委員が「格納容器破損に至ってしまったとしてもどこかで終わる。終われば解除ということになるが、終わったとうのをどうやって判断するのかということだ」とまとめようとする。規制庁側でさらに回答する者、「それは違う」と反論する者、「同じことを言っている」と言い返す者と意見が割れた挙句に、杉山委員が「仮定を重ねた議論をしても意味がない」と次へ行く(以下動画をクリックすると該当箇所。1時間28分〜同40分目あたり)。
(議論が迷走しているとは言え、ここでは↑格納容器が破損しても、5km以遠の住民を避難させず、屋内退避→解除という議論になってしまっている)↓
第5回原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム(2024年09月30日)
議論は明らかに迷走
繰り返すが、会合第1回目までは、新規制基準が奏功しなかった場合は検討の対象ではなかったはずだが、第4回でも、この点には疑問が内閣府から呈される。奏功は「100%ではない」のではないかと質問されて、杉山委員が「残りの失敗に終わったケースのために、今、我々、議論している」と答えた(既報 または第4回議事録 P15)。検討対象ではなかったにもかかわらず、議論の結果、対象となったことになる。原子力規制委と規制庁の「机上の空論」が現実に1ミリ近づいた。
ここからが本題
さて、新規制基準が奏功した事態においても問題がある(疑義が呈された)ことと、それに対する規制委・規制庁の認識の軽さを記録しておく。
自治体のマンパワー問題
家屋倒壊や道路崩壊は、規制庁シナリオでは想定外。
だが、電気・ガス等の喪失により、屋内退避が続けられないケースは想定することにして、「屋内避難を継続できる期間」について議論した場面だ。
できれば動画で生で聞いて欲しい。屋内避難を継続できる期間は、国が自治体からの情報を受けて、総合的に判断するという点について質疑が行われる場面だ。
第5回原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム(2024年09月30日)
流れは以下の通り。
宮城県が、ライフラインについて「どう情報収集していったらいいか」質問。
規制庁(山本哲也 放射線防護企画課 放射線防護技術調整官)が、「供給物資が行き届いているかの情報収集は市町村職員、電気水道は事業者」と回答。
これを受け、市町村職員が情報収集する点に関する要点とその流れは次の通り。
敦賀市が、「住民生活の状況把握には多くの課題がある」「一般家庭に加え、介護・医療が必要な方、水・食糧の備蓄日数の違い、家屋の被災状況に加え、自治体職員による確認の体制・方法(電話か現場か問合せ窓口か)、原子力災害時は実際には複合災害が想定され、避難所運用の対応などで圧倒的なマンパワー不足が心配」と国の協力について質問。
規制庁(児嶋洋平 長官官房審議官(放射線防護グループ長))が「複合災害、自然災害ありきの原子力災害が想定されて、実働機関(警察、消防、自衛隊)も動く、110番、119番もある。情報収集の体制は十分なものがある」と回答。
規制庁(黒川陽一郎 放射線防護企画課長)が「目安がこんな風だと言っておいて、目安が使えない状況があるかどうか特別な情報を得たい」
規制庁(元光邦彦 放射線防護企画課 原子力防災専門職)「特別な情報収集のフレームワークを作るわけじゃない。既にあるフレームワークの中で、情報が落ちなく災害対策本部にあげていただく(ペロペロペロ・・・)」
伴原子力規制委員が「防災基本計画によれば、国・地方自治体等は、最低3日間、推奨1週間の備蓄」「これが目安」(ペロペロペロ・・・)。
丸山結 (日本原子力研究開発機構 JAEAフェロー)「目安を与えたとして、目安を超える状況になったとき、どうなるのかが住民にとっては安心感につながる」
規制庁(山本哲也 放射線防護企画課 放射線防護技術調整官)「国・自治体からの物資供給。それぞれ責任をもってやるのが地域の防災計画などに明記されている。医療・介護への人の支援も必要」
坪倉正治 (福島県立医科大学 医学部 放射線健康管理学講座 主任教授)「老人ホームで人が足りないのは事実。それぐらい決めておいてくださいよというのは医療者なら思う。飲食物の摂取制限が続く(なら)うち農家なんですけど食べちゃダメなんでしょということへの答えぐらい前もってくださいと多分思う。屋内退避が議論の目的になっている。副作用と伴う、政府が人の権限を制限しての公衆衛生への介入だから、倫理上正当性が必要。言いにくいところを自治体に言わせてはダメ。一番嫌なところを国が持たなければ。
規制庁(黒川陽一郎 放射線防護企画課長)「今後の報告書のまとめ方の話」
規制庁(元光)「(ペロペロ)」、伴委員「(ペロペロ)」、杉山原子力規制委員「(ペロペロ)」、規制庁(黒川)「(ペロペロ)備蓄は3日はお願いしますと」
自治体は「複合災害前提」3日間の備蓄が尽きたら?
宮城県「今の3日の観点で。我々、複合災害を前提で考えている。自然災害が発生して原子力でトラブルが発生して放出と。すると今日、シミュレーションでGE(全面緊急事態)から屋内退避するとあったが、GEの前、自然災害のときから食料は使い始めている。すると3日目は原発事故が進展している最中で、食料が尽きているじゃないか」
規制庁(黒川)「(引きつった顔で)そこは引き取らせてください」
規制庁(山本)「物資の供給、対応次第」
伴委員「貴重なご指摘。場合によってはGEになった瞬間に屋内退避ができなくないことが十分にありうる。その場合の見通しも示す必要がある」
敦賀市「3日間の備蓄、1週間の推奨は市民の皆さんに呼びかけている。能登半島を受けて市民アンケートをした。6割の方は何らかの備蓄。備蓄がない方も一定数おられる。第3回会合で申し上げたが「屋内退避とはどういうことか、行動制限はどういうものか」と、今の「屋内退避をするために何が必要か」は難しい議論。11ページにあるようなフローを肉付けすれば理解が進む。」
宮城県「放出前に3日の食料が尽きて、逃げる場合、今は避難待機時検査場所を通過して逃げるスキームだが、避難のルールが変わる。その周知の問題がある」
規制庁(山本)「避難はPAZが優先だが、(UPZも)備蓄が尽きれば避難に切り替えざるを得ない。一斉避難ということではなく(ペロペロ)物資の供給体制が(ペロペロ)。単純な判断ではない」
では、それを誰が判断の責任をとるのかという振り出しに戻る。
伴委員「ちょっとこれから1時間はベントをかけるから、出ないでいただきたいというのが13ページの提案。屋内退避中でもこれはしていただいていいというホワイトリストを作って、特定の時間だけはこれもしないでということでどうか」
規制庁(本間 俊充 放射線防護企画課 技術参与)「ホワイトリストの件、屋内退避の解除後の食品摂取制限の話、タイムスパンが必要だが、プルームが通過したあとは摂ることは控えるメッセージは必ず必要」
伴委員「ブラックリストも必要だということ。(略)一通り材料が揃った。意見も割れているところは特にない。次回、合意を得られたところのまとめをしたい」
規制庁(黒川)が、次回はまとめ、残った議論は次々回を開催すると日程を発表。これに対して、宮城県が「14ページの考慮してもらいたい点はあるかということは、地域の実情があるので、他の県や市町村にも照会してもらいたい」と要望。
規制庁(黒川)が、UPZ内の全自治体に送ると回答。
30km圏内住民や、避難者受け入れ自治体は無視か
避難に切り替わったら、30km圏外の自治体が避難者を引き受けることになるが、「UPZ内の全自治体に送る」ということは、UPZ外の自治体は、この検討過程に参加させないということになる。さらにはUPZ内の住民にも意見を聞かないということになる。
(略)の代わりに(ペロペロ)の意味
個人的には「マンパワーが圧倒的に足りない」と言われているのに、規制庁が「実働機関(警察、消防、自衛隊)で十分だ」と回答。それがいかに空疎な回答であるか、気づいていない様子であることに、衝撃を受けた。また、伴委員の屋内退避の想定の一つで「ちょっとこれから1時間はベントをかけるから、出ないでいただきたい」という言葉の軽さに驚いた。なお、(略)の代わりに「(ペロペロ)」と書いたのは「ペロペロ」と舌先で言っているようにしか聞こえないと思った私の心象による。
【タイトル写真】
2024年9月30日 第5回原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム会合にて筆者撮影。左から
福井県敦賀市 市民生活部危機管理対策課長 藤村弘明氏
宮城県 復興・危機管理部原子力安全対策課長 長谷部洋氏
原子力災害時の屋内退避の運用に関する検討チーム
第1回 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100001253
第2回 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100001895
第3回 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100003168
第4回 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100004483
第5回 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100005285
第6回 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100005693