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未知の領域:60年以上の老朽化原発の規制基準の行方(の前に全体像)
福島第一原発事故後、国会は、安全規制として、「運転期間」(原則20年+1回だけ最長60年)を導入した(*0)。
しかし、2023年通常国会には、原発の停止期間を、最長60年に上乗せできる改正法案(GX脱炭素電源法案)が提出され、現在、参議院で審議されている。
事故後に導入された新たな規制基準をクリアする対策に長い時間がかかり、停止期間は儲けが出ない。「運転期間」通りに廃炉すると「投資が回収できない」(*1)という原子力業界の要請を受けた法改正案だ。
原子力規制委員会では、改正案(資源エネルギー庁と規制庁職員が「頭の体操」と称して昨年夏から作り上げたもの)に反対したのは、石渡委員のたった一人(*2)。
他4委員は賛成し、老朽化原発の規制基準を議論するチーム会合が、原子力規制委員会のもとで開かれるようになった。このチーム会合の設置に反対のも石渡委員一人だ(*3)。
今日(5月18日)も第6回が開かれる。
・・・と、ここまで18日に書いたのだが、いきなり60年以降の老朽化原発の規制基準の行方を書くよりも先に、チーム会合と改正法案との関係を示しておきたい(5月20、21日加筆)。
規則から炉規法に格上げするためのチーム
チームの名前は「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」。
チームの目的は、現在の原子炉等規制法(以後、炉規法)第43条の3の32の「運転期間」(原則20年+1回だけ最長60年)が削除され、代わりに後述する「発電用原子炉施設の劣化の管理等」が取って代わった後の準備だ。
この「発電用原子炉施設の劣化の管理等」は、実は既に「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」(以後、規則)に定められている(「経産省令」とされたままであることがモヤモヤするがここではそれを横に置く)。
その規則を法律に「格上げする」ための準備がこのチームの目的だ。
この「格上げ」がどんなものかを、まず視覚的に見ていただきたいと思う。文字は小さくて見えないと思うが、下の表を見てください。
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現在の炉規法第43条の3の32
下段が、現在の炉規法第43条の3の32。「運転期間」(40年)の定め。
最長20年の延長が1度だけできるとし、その申請許可と許可基準を「原子力規制委員会規則」、つまり規則で定める。だから規則という文言は2回出てくる(赤線)。
改正後の炉規法第43条の3の32
上段が審議中の法案。新たに炉規法第43条の3の32「発電用原子炉施設の劣化の管理等」を定める。文書量が増える。定める規則も11カ所に増える。
運転期間で「はい、おしまい!」となるのに代わって、「劣化」を「管理」することを法律に格上げする。しかし、結局、その中身は規則で定める。
格上げしても結局は規則
つまり、法律案では30年目以降、10年以内ごとに「劣化」を「管理」しますよ、と定める。しかし、何が劣化するのか、どう管理するのかは、原子力規制委員会が規則で定める。
とはいえ、原子力規制委員会がゼロから決めていくわけではなく、原子力規制委員会が設置した「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」で下打ち合わせをする。
ここからが驚きなのだが、チーム会合が始まってみると、それを原発事業者の意見を聴きながら定めていっている。まだ一回も、現在の規則やその運用について批判的な意見を持っている人の意見は聞いていない。
では、どんな流れで何を「検討」してきたのかを次に書いていきたい。
【タイトル写真】
5月18日「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」にて筆者撮影
*0 「発電用原子炉の運転可能期間を「40年」または「60年」と定める技術的根拠等に関する質問主意書」(2012年高市早苗衆議院議員提出)への政府答弁書で「原子炉設置許可の審査において、重要な設備、機器等について中性子照射脆化等の設計上の評価を運転開始後40年間使用されることを想定して行っていることが多いことを考慮」、「安全上のリスクを低減するため発電用原子炉の運転期間を制限することとした」と答弁。
*1 原発の運転期間の延長「要は、お金の話なんじゃありませんか、委員長?」ー衆予算委2023年2月20日
*1 岸田内閣:原発「運転期間」の削除の立法事実 2023年2月26日
*2 GX基本方針閣議決定に待った!2023年2月8日
*2 石渡「科学的、技術的な新知見なし」←山中「誤解」「心情」 2023年2月17日
*3 2023年2月15日原子力規制委員会議事録p19石渡委員「私は、論理的必然性で、法改正そのものに反対しましたので、これ(設置)には反対をいたします」**3明日から作る老朽原発の規制の中身は? 2023年2月21日