エネ庁:今度はクリアランス制度の破壊の相談
6月21日の原子力規制委員会。議題3「原子力発電所の解体廃棄物の集中クリアランス事業に関する今後の対応」。自宅でオンラインで聞いていると、資源エネルギー庁(以下、エネ庁)が現時点では違法となる原発ゴミの取り扱いについて、規制庁に相談を持ちかけているという話。これはいかん!と家を飛び出した。
福井県の廃炉ラッシュ
順を追って簡単に言うと、福井県は原発立地県として、敦賀原発1号機(日本原子力発電)、美浜原発1、2号機(関西電力)、大井原発1、2号機(関西電力)の5機の廃炉原発を抱えている(参考:経産省「原子力発電所の状況」2023年6月22日現在)。
そしてこの度、エネ庁が、その福井県に代わって、「集中クリアランス事業」なる事業を可能にしたいので「意見交換をする場を設けて」くれないか、という相談を原子力規制庁に持ちかけてきた。
クリアランス制度とは
今ある「クリアランス制度」とは、原子炉等規制法第61条の2で定めている制度。原発敷地内で使った「クリアランス・レベル」(たとえば放射性セシウムなら100ベクレル/kg)を下回る金属やコンクリートについては、原子力事業者等が、放射能濃度を測定・評価して原子力規制委員会に提出し、委員会の確認を受けて、初めて「核燃料物質によって汚染された物でないものとして取り扱う」、つまり再利用しても良いものとして原発敷地外に出せるという制度だ。
原子力規制委員会の確認がなければ、原子力事業者等は、「核燃料物質によって汚染された物」を勝手に敷地外に出すことはできないし、誰も再利用できない。「放射線による障害の防止」のためだ。
原発によって利益を受けた汚染者(原子力事業者等)が責任を持って、放射性廃棄物とそうでないものをクリアにする規制制度だ。
「意見交換」という名のクリアランス制度破壊
ところが、エネ庁はこの規制を緩める方向を模索している。
エネ庁は、「集中クリアランス事業」なるものを新たに創り出したい。
エネ庁は、(主語を福井県として)福井県が設立する「新規事業主体」が、原発で使われた金属やコンクリートで再利用できると思われるものを「クリアランス推定物」として呼んで引き受けさせたい。そして、分別・除染・切断・溶融して、クリアランスレベルを下回ったものを再利用、下回らなかったものは原発事業者にお返しする、ことができるようにしたい、という考えだ。
エネ庁と原発事業者と福井県が三位一体で、汚染されたものも一緒くたに「クリアランス推定物」と称して、混ぜて溶かして薄め、原発ゴミを減らし、再利用できるものをビジネスにするにはどう規制緩和すればいいか。規制庁への「意見交換」という名の相談だ。
規制庁がすでにエネ庁に寄り添い規制緩和案提示
「この相談に乗ってもいいですか?」と原子力規制委員たちに問うことが議題3の趣旨だが、既にエネ庁の意向に寄り添うには何が課題かという視点で論点が整理されている。(議題3 P 2~3)
・福井県の「新規事業主体」を、原子炉等規制法のどこに位置付けてあげましょうかねぇという論点。
・福井県の「新規事業主体」は、分別・除染・切断・溶融後にクリアランスレベルを下回らなかった「放射性廃棄物」を返還すると言っているので、「放射性廃棄物」を引き受ける原発事業者は、廃棄物業者の許可を取得しなければなりませんねぇ、という策。
違法な点を「技術的な論点」と誤魔化す規制庁
その後で、「技術的な論点」として初めて、「現行のクリアランス制度は、発電用原子炉設置者が、クリアランス確認を受ける前に溶融処理を行ったり、複数の原子力発電所からクリアランス対象物を集めたり、ある発電用原子炉設置者ではない他者にクリアランスを実施させるようなケースを想定していない」(つまり違法である)と書いている(議題3P3~4)。
まともな規制者なら、これは相談に乗る筋の話ではないと判断すると、筆者は考える。では原子力規制委員たちはこのエネ庁と規制庁の規制緩和策についてなんと言ったのか?
原子力規制委員たちの見解
原子力規制委員の中で一番に口を開いたのは、田中委員。「技術的な論点としては、現行のクリアランス制度では希釈行為を想定していないということ等もございます。というようなことで(略)まずは技術者、関係者と意見交換することが必要」と。
伴委員は、「意図的に濃いものと薄いものを混ぜることで、溶融したものがクリアランスレベルを超えるようなことができてしまうのではないか(略)。クリアランスレベルが本当にそれ以下であるかどうかというのを確認するのは、測定・評価だけで行うわけではなくて、その対象物の使用履歴とか、そういった情報を加味して総合的に評価されるものなので、混ぜてしまうと、そういったことができなくなる(略)、今言ったような問題をどのように克服しようとしているのか。少なくともその点について、話を聞く必要はあろう」
石渡委員は「3月28日に面談を行ったということなのですけれども、このときには福井県の担当者というのは同席していたのですか」という確認から初め、「資源エネルギー庁が責任を持つということで、福井県からの担当者は同席させずに、自分たちだけで来たと解釈できるのではないのですか」と質問。
規制庁の志間安全規制管理官が「利用政策上の位置付けとして、きちんと責任を持って福井県の事業を推進するということを資源エネルギー庁に明確に、明示的に確認したい」と、相談に乗る気満々。
杉山委員は「発電所を出ていく時点で、クリアランス推定物ということで、ある程度の評価なり、分別はされているという想定なのですか」「ただ、これによって原子力事業者の手間が減るのかどうかがよく分からなくて」「そもそも事業者というのはこの制度を望んでいるのかな」と、原発事業者の立場で質問。
志間安全規制管理官が「そこのところも要確認事項だと考えておりまして、どの程度まで汚染の程度を確認しているのかが全く分からない状況でございますので、意見交換によって福井県なり、資源エネルギー庁なりに確認したい」「発電用原子炉設置者も一緒に意見交換したいという希望があれば、そちらの方々にも参加してもらって、話を聞くということはしたい」とやはり相談に乗る気満々だ。
「利用側」との相談独断を石渡委員が阻止
ここで、ミスター元エネ庁の片山原子力規制庁長官が、「それはまさしくこのプロジェクトを推進している資源エネルギー庁と福井県なりに確認をするということだと思いまして、そのプロジェクトのプレーヤーそれぞれに我々が直接アプローチして、何か、本当にこの事業をやるつもりがあるのかと聞くというのは我々の仕事」と、側面支援。
エネ庁は、やりたいから意見交換したいと言ってきているのに、「本当にこの事業をやるつもりがあるのかと聞く」という茶番発言。
ここで石渡委員が「ただ、こういうものは、一度話を聞くと、そこからもうだだっと進んでしまうということもなきにしもあらずなので、これは、要するに、今まで事業者がやっていた廃棄物の取扱いを、別の事業主体がかなりの部分を請け負うことになるという計画だと理解している(略)。やはり事業者が望んでいるのかどうなのかと、その辺も含めて、やはりプレーヤーの意見というのはあらかじめ聞いておくべきなのではないか」
これにミスター元エネ庁の片山原子力規制庁長官が「それはまさしく利用側が考えるべきことではないか」と、またぞろ、原発の運転期間を原子炉等規制法から削除して、電気事業法に持って行くときの論理を展開。そして、「次のステップをどうするのかは(略)原子力規制委員会にまたお諮りをする必要があるかどうか、事務局の方でも判断をしたい」と、ここから先は事務局(規制庁)にお任せあれ、という態度。
これに石渡委員が「まだ海のものとも山のものともつかないというような話(略)。こういうものは、一度正式に話を聞くと、もうそれであとはどんどん進んでしまうという可能性もありますので、そのようにならないように、ステップを踏んでやることが大事」と釘を刺し、山中委員長が妥協案として、『最後の対応の「必要に応じて」というのは、これは取ってもらいましょうか。必ず報告するということでどうでしょう』ということで以下のようになった。
規制庁が資源エネ庁が相談して、独断でクリアランス制度を破壊することを石渡委員が阻止した形になった。
山中委員長会見に滑り込んで質問
午後2時半からの山中委員長の会見に滑り込んだ。以下、そのまま抜粋しておく。
と、ここでゲホゲホ咳込んでしまった(コロナでも肺炎でもないのに長い咳が続いていた)が、最後にもう一度、続きを質問。
【タイトル写真】
会見中の山中委員長(2023年6月21日筆者撮影)右後ろのポスターは原子力規制庁の人材募集。(「マサノさん、応募してはどうですか?」と某氏に冗談で言われた)