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汚染土壌の再利用基準案(パブコメ)の肝
エネルギー基本計画案へのパブコメを昨夜、書き終わったが、2025年1月17日に別のパブコメが2月15日〆切で始まっていた。福島民友が報じていると福島県民から知らされてビックリした。多くの声を上げてもらいたいが、何重にもヒドイ、史上最悪のとっつきにくいパブコメなので、まずはとっつき方だけを書く。
なんのパブコメか?
東京電力の福島第一原発が爆発して飛び散った放射性物質に汚染された土壌等を除去して双葉町と大熊町に中間貯蔵している「汚染土壌」(政府は「除去土壌」と呼び、福島民友は「除染土」と報道)を再利用する基準等を含む規則案や告示案へのパブコメだ。
ここでは「汚染土壌の再利用」
以後、「汚染土壌を再利用する基準等を含む規則案や告示案」という言い方をここではさせてもらう。というのも、環境省が「復興再生利用」と最近になって使い始めた(2024年9月17日の環境省の会合で突然、環境省が「『再生利用』という言葉は、この言葉でふさわしいか検討したい」と言い出した(既報))が、どんな言い方をしようとも、実質的には汚染土壌の再利用だからだ。
長い名前のパブコメ
冒頭に何重にもヒドイと書いたが、今回はまず、さらっと、①規則案や告示案の提示の仕方のヒドさと、②規則案の肝と、③告示案の肝についてだけ、書いておく。
環境省は、再生利用は「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」第41条第1項の「除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行う者は、環境省令で定める基準に従い、当該除去土壌の収集、運搬、保管又は処分を行わなければならない」の「処分」にあたると拡大解釈してきた。
今回も、その延長でこの特別措置法の施行規則の一部を改正する省令案等という形で、「等」に汚染土壌の再利用の基準も「告示」案を(案という言葉すら入れずに)含めて、長い名前で「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等」として、パブコメを出している。
① 規則案や告示案の提示の仕方の酷さ
そのパブコメページ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等に対する意見募集について」を開くと、ズラッと13ファイルも並んでいて、まずたじろぐ(でも、たじろぐ必要がないようにこれを書いている)。
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一番上の「1.放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部を改正する省令 」をクリックすると、縦書きの案が(少なくとも私のパソコンでは)横に表示される。
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首を傾げたままでは読めないので、ダウンロードしてなんとか縦に直した。↓
環境省は今年4月から、汚染土壌の再利用を全国で進めたい
全部で19ページ。すでにある省令改正なので、新旧対照表が付いている。よく読むとこれが「汚染土壌を再利用する基準等を含む規則案」だと分かる。最後のページに「この省令は、令和7年4月1日から施行する」とある。
なんと!環境省は今年4月から、汚染土壌の再利用を全国で進めたいのだ。
②汚染土壌の再利用基準案(規則案)の肝
さて、肝心の中身だが、最終処分の基準案なども含まれているのだが、ここでは汚染土壌の再利用基準案だけに注目して抜粋する。
1.放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部を改正する省令 の肝
P 15
第58条の4 法第41条第1項の環境省令で定める除去土壌の処分のうち復興再生利用(事故による災害からの復興に資することを目的として、再生資材化(除去土壌について、用途に応じた必要な処理をすることにより、盛土、埋立て又は充填の用に供する資材として利用することができる状態にする行為をいう。)した除去土壌を適切な管理の下で利用すること(維持管理することを含む。)をいう。以下同じ。)の基準は、次のとおりとする。
一 復興再生利用は、次のように行うこと。
イ 第26条第1項第1号ロ及び第9号の規定の例によること。
ロ 公共事業又は実施主体及び責任体制が明確であり、かつ、継続的かつ安定的に行われる事業において行うこと。
ハ 除去土壌が飛散し、及び流出しないように、その表面を土砂で覆う等必要な措置を構ずること。
ニ 復興再生利用を行う場所であることの表示がされている場所で行うこと。
ホ 事故由来放射性物質についての放射能濃度を環境大臣が定める方法により調査した結果、復興再生利用によって受ける一般公衆の実効線量が1年間につき1ミリシーベルト以下となるものとして環境大臣が定める放射能濃度の除去土壌を用いること。
二 復興再生利用を行う際には、除去土壌の適切な管理のため、次に掲げる者と協議の上、復興再生利用に係る工事の施工及び維持管理に関する基本的な事項として環境大臣が定める事項を定めること。
イ 事業実施者(前号ロの事業に係る工事の施工を自ら行う者又は工事の発注者をいう。)
ロ 当該復興再生利用に係る施設若しくは工作物を管理する者又は復興再生利用を行う土地を管理する者
三 復興再生利用を行う場所において、放射線の量を第15条第11号の環境大臣が定める方法により7日に1回以上測定し、かつ、記録すること。ただし、復興再生利用に係る維持管理を開始した場合にあっては、定期的に測定し、かつ、記録すること。
四 次に掲げる事項の記録及び復興再生利用を行った位置を示す図面を作成し、当該復興再生利用に係る措置が終了するまでの間、保存すること。
イ 復興再生利用に係る工事の計画及び設計に係る情報
ロ 復興再生利用に係る除去土壌の事故由来放射性物質の濃度及び復興再生利用に係る除去土壌の量
ハ 復興再生利用に係る工事において再生資材化した除去土壌による盛土、埋立て又は充填を開始及び完了した年月日並びに復興再生利用に係る維持管理を開始した年月日
ニ 引渡しを受けた再生資材化した除去土壌に係る当該除去土壌を引き渡した担当者及び当該除去土壌の引渡しを受けた担当者の氏名並びに運搬車を用いて当該引渡しに係る運搬が行われた場合にあっては当該運搬車の自動車登録番号又は車両番号
ホ 復興再生利用に係る除去土壌の管理に当たって行った測定、点検その他の措置(前号の規定による測定を含む。)
汚染土壌の再利用基準案に関するところのみ抜粋
規則案の中身の肝で気づくこと
先述したように「復興再生利用」という言葉を使い、ここで括弧( )の中で、それが何かを説明(定義)している。本来なら特別措置法を改正して、「処分」とは別に「復興再生利用」とは何かを定義すべきだ。
「再生資材化」という言葉は、「復興再生利用」を括弧( )の中で説明する中で、さらなる括弧( )で解説している。その説明が「除去土壌について、用途に応じた必要な処理をすることにより、盛土、埋立て又は充填の用に供する資材として利用することができる状態にする行為をいう」と抽象的で曖昧だ。
③汚染土壌の再利用基準案(告示案)の肝
次に「2.(4)復興再生利用に用いる除去土壌の放射能濃度」を開く。そこに原子炉等規制法でいうクリアランスレベル100ベクレル毎キログラム(セシウム134と137の合計)の80倍であり、二重基準だと批判される濃度案8000ベクレル毎キログラムが記載されている。
「2.(4)復興再生利用に用いる除去土壌の放射能濃度」の肝
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則第58条の4第一号ホの環境大臣が定める放射能濃度は、事故由来放射性物質であるセシウム134についての放射能濃度及び事故由来放射性物質であるセシウム137についての放射能濃度の合計が8000ベクレル毎キログラム以下とする。」
告示案の肝で気づくこと
今まで、環境省は、クリアランスレベルは放射能汚染物質として扱わなくてよいものとして定められた一方、汚染土壌の再生利用は「適切な管理の下で安全に行うことを前提」としたものだから別物だと主張してきた。しかし、今回、バラバラと提示してある以下の省令(案)や告示(案)を見ても、「適切な管理」が必要ではなくなるクリアランスレベル(100ベクレル毎キログラム)にまで減衰するまでに、誰がどう管理し続けるのかが、一切、具体的に書かれていない。
1.放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部を改正する省令
2.(5)復興再生利用に係る工事の施工及び維持管理に関する基本的な事項
2.(6)除去土壌の事故由来放射性物質による汚染の状況の調査方法
環境省は、IAEAの助言を蹴飛ばしている
こちらでも書いたが、環境省は 2024 年 9 月に、国際原子力機関(IAEA)に汚染土壌の再生利用について「IAEA の安全基準に合致している」とお墨付きをもらった。しかし、様々な助言も受けていた。
今の日本の政策決定のやり方において、最も欠けていることは市民参加制度だが、こちらでも強調したように、 IAEA 報告書では「目指すべき線量レベルは、地域住民や市町村などの利害関係者と協議して決定することを制度に明記する」と書かれているのに、法律にも諮問文にも、明記されていない。そして、今回の「汚染土壌を再利用する基準等を含む規則案や告示案」でもまったく、明記されていない。
ちなみに、今回、改めて、このIAEAの助言部分を再確認すると、驚くことが確かめられた。
IAEAの専門家と環境省は3回の専門家会合をもったのだが、IAEA は第2回専門家会合の報告P.12で「第1回IEMにおける専門家チームの助言に基づき、最適化アプローチによって目指すべき線量レベルは、利害関係者との協議によって決定されることを制度に明記することが検討されている」としていた。
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そして、IAEA専門家会合の最終報告書p24では、「専門家チームは、最適化アプローチによって目指すべき線量レベルは、地域住民や自治体などの利害関係者との協議によって決定されると認識している」としていた。
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IAEAは、地域住民や自治体などの利害関係者との協議によって決定されることが、制度化されるという認識のもとで、汚染土壌の再利用にお墨付きを与えた。にもかかわらず、特別措置法にはもちろん、今回、環境省が提示した規則案にも、告示案にも、拘束力を持つ「法令」には、地域住民や自治体などの利害関係者との協議が、いっさい、書き込まれていない。少なくとも、お墨付きは返上しなければならない。
既に以下に書いた以外にも、問題は山積なので、
「除去土壌の再生利用はありえない」①
「除去土壌の再生利用はありえない」②
続きをいくつか書いた後で、私自身はどんなパブコメを出したいのかを、最終的にまとめていきたい。
【タイトル画像】
「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案等」に対する意見募集について」ページをスクリーンショット