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欠陥のある原子炉の設計:規制基準に取り入れるのか、入れないのか?

原子力規制委員会は、福島第一原発事故から得られた新たな知見を規制に取り入れるための「作業チーム」を抱えている。


新たな知見を規制にどう取り入れるか

そして、1月24日、原子力規制委員会は、メルトダウンして原子炉下に落ちた燃料が、「補機冷却系統」の配管等(以下、配管)を損傷し、放射性物質が外に放出される知見が得られたと原子力規制庁の報告を受け、それを規制にどう取り入れるかを討議した。(資料:「原子炉補機冷却系統の汚染に関する調査・分析から得られた知見の規制への反映に向けた検討状況」令和6年1月24日原子力規制庁)

規制庁がATENAから聞いたこと

規制庁の報告とは、以下のようなものだ。
原子力エネルギー協議会(ATENA)からの意見聴取の結果、

  1. 加圧水型軽水炉(PWR)は、配管は圧力容器下部になく、溶融炉心の影響を受ける配管はあるが、格納容器を貫通していないから漏洩の可能性がない

  2. 沸騰水型軽水炉(BWR)のMark-I改型は、配管が真下にないので影響を受けない

  3. 沸騰水型軽水炉(BWR)のMark-II、Mark-II改、RCCV2は落下した溶融炉心が配管を損傷する可能性があるが、配管には隔離弁などをつけたから、配管が損傷しても外に放射性物質は出ていかない(例えば柏崎刈羽6、7号)

原子炉補機冷却系統の汚染に関する調査・分析から得られた知見の規制への反映に向けた検討状況
(2024年1月24日原子力規制庁) RCCV2を筆者ハイライト

規制委員会が規制庁から与えられた選択肢

こうしたATENAの意見をもとに、規制庁は規制への反映方法の選択肢を並べ、委員たちに討議させた。

結論から言えば、山中委員長たちは、今のままでも大丈夫だと事業者ら(ATENA)が確認しているのであれば、規制としてバックフィットさせず、将来のためにポジションペーパーのようなものを残すだけでいいのではないかという方向に進んだ。

しかし、規制庁が用意した選択肢には、「現行の格納容器の隔離設計は従来の設計基準事故までを想定した設計を前提にしたものであることから、重大事故まで考慮した場合の格納容器の隔離設計の在り方については、引き続き検討していく」というのもあった。

「隔離設計の在り方」=欠陥のない設計の在り方

隔離設計の在り方については、引き続き検討」とは、伴委員と規制庁の質疑を聞くと、メルトダウンした時に配管を損失しない設計は、既にある原子炉には求めない。新たな原子炉を新設する時には反映させるという意味だ。

つまり、メルトダウンした時に配管を損失してしまう原子炉は「欠陥品」だと、事故が起きて分かった。ではその欠陥がないように規制基準に反映すれば、既存の原子炉でも設計から見直せ、つまり、その原子炉はもうアウト!「廃炉」にしろ!ということなのだ。(動画該当箇所はこちらから)

老朽原発の規制制度で議論された「設計の古さ」

こうした欠陥がわかった古い設計については老朽化原発(高経年化と彼らはいう原発)をどう規制するのかという議論の時に「設計の古さ」という言い回しで議論していた。そして、これについては曖昧な議論のまま終わっていた。

バックフィットすると柏崎刈羽原発は廃炉になる

しかし、もし、この「設計の古さ」を規制に取り入れ、バックフィットさせるということになれば、沸騰水型軽水炉(BWR)RCCV2の柏崎刈羽6、7号は、落下した溶融炉心の影響を配管が受ける可能性があるからやり直せという話になる。

そこで会見では「設計の古さ」という観点で、山中委員長に質問をぶつけてみることにした。

○記者 今日の議題1なのですけれども、補機冷却系統の汚染、1F調査で新しく分かった知見ということの反映についてなのですが、これはまさに老朽原発の議論で出てきた「設計の古さ」に関する議論だと受け止めましたが、それでよろしいでしょうか。
○山中委員長 これはもう、直接「設計の古さ」かどうかということについては議論したわけではございませんが、1Fでバルブのつけ方がこうであった、あるいは配管の取り回しがこうであったという、そういうことから鑑みて、今、日本に存在する原子力発電所について、同じようなことが起きないかどうかを調査をしていただいて、今日結果を報告いただいたという、そういうことでございます。

○記者 それは原子炉の下に、そのまま貫通している部分があるので隔離されていないので、メルトダウンすると、その下にある補機冷却系統が損傷して、外部に汚染が漏れてしまう。今日出してきた規制庁の選択だと、設計までバックフィットするというのが最後にあったと思うのですけれども、そうすると、今の原発は使えなくなる。事実関係としてそういう理解でよろしいでしょうか。
○山中委員長 今回の調査で分かったことは、少なくとも日本に存在する原子力発電所で、炉心が溶融して、その溶融した炉心がペデスタル下部に落下したときに、配管を仮に傷つけたとしても、外に汚染が広がらないような対応が全ての、やり方は違いますけれども、全ての原子力発電所で、もう実質実施をされているということが確かめられたという、ハードウェア上そういう対策がとられているということが確かめられたという調査報告を受けました。

○記者 委員長もそのように、委員会の中で今日整理されていたと思うのですけれども、原子力村と言われるATENA(原子力エネルギー協議会)との意見交換の中で、ATENAがPWR(加圧水型原子炉)は大丈夫だと、BWR(沸騰水型原子炉)に関してはMARK-Iは影響がない、MARK-IIと改良型のABWR(改良型沸騰水原子炉)も大丈夫だとATENAが確認した。だから規制には反映しない、バックフィットはしないというふうに聞こえましたが、そういう理解でよろしいでしょうか。
○山中委員長 これは事業者が確認したのではなくて、規制庁の職員が確認したという報告を受けましたので、ハードウェア上、そういう構造になっているということを規制庁の職員が確認したと、そういう報告を受けました。

○記者 そこはまたちょっと規制庁さんのほうに確認したい(*)と思うのですけれども、1Fで、今、2号機については耳かき一杯、メルトダウンしたものを取り出すことにも苦労しているので、やはりきっちりと隔離する設計を新しく求めるべきではないかというふうに思うのですけども、事業者の言い分を聞いた、規制庁が確認したということではちょっと信用できないというと語弊がありますけれども、希望的観測すぎるのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
○山中委員長 まず、加圧水型原子炉、PWRと沸騰水型原子炉で状況は違うということで、PWR、加圧水型原子炉の場合には、そういう配管系統が格納容器外に出ることはないということで、特段対策は必要ないと。BWR、沸騰水型原子炉の場合には、MARK-Iの下位と呼ばれる原子炉の場合には、ペデスタルの内部にRCW(原子炉補機冷却水系)の配管がないということで、これも特段の対策は必要ないと。
 MARK-IIと、ABWRについてはペデスタルの下部にそういう配管、あるいはポンプがあるので、格納容器のいわゆる内外に二つの弁をつける必要があるという、そういう対策を取る必要があると。その対策がハードウェア上、各原子炉で取られているということを規制庁のほうで実際に確認をしたという報告を受けましたので、この点については特段、その報告で問題がないかなというふうに思います。
 これからどういう対応をするのかということは、委員会で議論していくことになろうかと思います。バックフィット、どういう形でバックフィットするのか、あるいはバックフィットせずに、何か別の方策を取るのかということについては、いま一度、委員会で議論したいというふうに思っています。

2024年1月24日原子力規制委員会 会見録
(*)については、規制庁広報に確認すると、事業者が示す「図面」で確認しただけだという。

委員会では、ポジションペーパーでとお茶を濁す雰囲気が漂っていたが、「どういう形でバックフィットするのか、あるいはバックフィットせずに、何か別の方策を取るのかということについては、いま一度、委員会で議論したい」と山中委員長は発言した。

次の日(1月25日)は東電で中長期ロードマップの進捗会見が行われる予定で、そこでは、上記会見で山中委員長につぶけた「今、2号機については耳かき一杯、メルトダウンしたものを取り出すことにも苦労している」ことについて、新たな発表があることが予測されていた。

柏崎刈羽原発6、7号機の原子炉には欠陥がある。

柏崎刈羽原発6、7号機の原子炉の設計には欠陥がある。
柏崎刈羽原発6、7号機の原子炉の設計には欠陥がある。
「明日は東電会見に行かなければ」と心の中で思った。

【タイトル画像】
原子炉補機冷却系統の汚染に関する調査・分析から得られた知見の規制への反映に向けた検討状況」(2024年1月24日原子力規制庁) RCCV2を筆者ハイライト。ハイライトをしていないが、Mark-II、Kark-II改も、設計には欠陥がある)


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