今回も長い取材メモとなる(読んでくださる皆様に感謝します)。
東京電力福島第一原発(1F)の廃炉を「やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原子力発電所を運転する資格はない」と6年前に原子力規制委員会が啖呵を切ったことと、今起きていることをつなげたいからだ。
求められてきた根本的な汚染水増加対策
海洋放出は134万m3だけか?東電福島第一原発で書いたように汚染水は増えている。そのために、東電は、原子力規制委員会の特定原子力施設監視・評価検討会(以後、検討会)で、根本的な止水対策を講じるよう何度も求められてきた。
「蕎麦屋の出前」みたいな返事
その都度、東電の責任者は、まだ蕎麦すら打っていないのに「今出ました」と嘘をつく蕎麦屋の出前みたいな返事をしてきた。以下の通りだ。
そして、2022年内どころか、それから1年3ヶ月が過ぎた2023年。
7月24日の原子力規制委員会の検討会で、東電は汚染水対策の現況と2025年以降の見通しについてを説明。
しかし、汚染水発生については、2028年以降に進めるイメージしか書かれていない。汚染水対策の最高責任である小野氏が2022年に言った「検討スケジュール」レベルだ。
2020年時点ですでに何度も指摘され、「今、検討を始めようとしている」と答えていた。2028年から「進め方を具体化していく」というのだ。
蕎麦はいつ届く?
規制庁2026年以降、東電2028年以降とズレ
一方、規制庁は同7月24日検討会で、「建屋外壁の止水検討のスケジュールについて、今年度中の検討会で包括的な議論を行う」とした。しかし、2026年度以降とも書かれている。
そこで、山中委員長に定例記者会見で尋ねた。規制庁は2026年、東電は2028年とずれているが、規制庁指示は「今の凍土壁ではなく止水できる工法を改めて考えていく」ということか(つまり、単に抑制策ではなく、根本的な止水策を求めているのか)を確認したかったのだ。
これに対して、委員長は、いろいろなことが「遅れている」という認識を示した。
東電を廃炉に集中させるべきではないか
そこで、質問の方向を変えることにした。
(★)「案件とは別」と言いそうな流れで、突如、山中委員長は沈黙、固まった後、「当然約束の中で含まれている」とつないだ(該当箇所を以下、頭出し)。
東電の約束ー1F廃炉と柏崎刈羽の関係ー
会見で尋ねた7つの約束について、振り返っておきたい。
2017年7月10日、原子力規制委員会は東電社長に対して、7つの論点を提示した。その1番目が「福島第一原子力発電所の廃炉を主体的に取り組み、やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原子力発電所を運転する資格はない」という勇ましいものだった。事故から5年目、過酷な原発事故を起こした電力会社が、世界最大級の原子力発電所を運営することへの違和感を反映したものだったといえる。
それに対して、2017年8月25日、東電の小早川智明社長は、1Fの廃炉を進めるにあたっては、「地元をはじめ関係者に対して理解を得ながら、廃炉を最後までやり遂げていく」と約束。
2020年10月30日に、その内容を反映した柏崎刈羽原発の保安規定を原子力規制委員会は認可した。
それはさらに、「原子力事業者としての基本姿勢」として、福島第一原発の「特定原子力施設に係る実施計画」にも反映された。
しかし、今、地下水の止水対策一つをとっても「蕎麦屋の出前」状態が続いている。海洋放出についても、政府やIAEAにお墨付きをもらう一方、東電は漁業者との約束は守っていない。
つまり2017年8月25日の東電社長の「地元をはじめ関係者に対して理解を得ながら、廃炉を最後までやり遂げていく」もまた反故にすることに等しい。
今こそ、原子力規制委員会は、「東京電力福島第一原子力発電所の廃炉を主体的に取り組み、やり切る覚悟と実績を示すことができない事業者に、柏崎刈羽原子力発電所を運転する資格はない」と言い切ったことを思い出すべきときではないか?
【タイトル画像】
2017年7月10日第22回原子力規制委員会 「参考資料 基本的考え方」に筆者赤線加筆。