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経産大臣:原発規制に「口は出さない」は本当?

原子力規制委員長に取材したことを書いた「岸田首相が指示:原発の運転期間延長の裏側」の続報。今度は、経済産業大臣に取材に行った。

2022年11月8日筆者撮影

委員会の最重要ツールは原子炉等規制法

福島第一原発事故の前は、原発の「規制」も「利用」も同じ官庁が担っていた。事故はその馴れ合いの結果だ。教訓として、国会が原子力規制委員会を誕生させた。

原子力規制委員会設置法で、「原子力規制委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う」(第5条)と定め、任務の中心は「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資するため、原子力利用における安全の確保を図ること」(第3条)。だから「原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」(第1条)。

その原子力規制委員会の最重要ツールは、原子炉等規制法。この法律で国会が原子力規制委員会の誕生と共に定めて託した原発の運転期間(40年ルール)が削除されるかもしれない。金儲け優先でヨボヨボでボロボロになった原発を使い続けたいと思う電力会社の言う通りにしたら、事故はまた起きる

原子力規制委員長は「委員会が判断することではない」

10月12日に山中伸介・原子力規制委員長に「運転期間という原子炉等規制法で定めてきている規制について、口を出すな」と言えばいいのではないかと会見(*)で聞いたところ、以下のように繰り返した。

山中伸介原子力規制委員長: また繰り返しになりますけれども、原子炉等規制法で運転期間延長認可制度について定められている条項については、運転期間の定めと高経年化した原子炉の安全性を確認する定めの二つから成り立っていると考えています。その一方の運転期間についての定めについては、政策側が御判断されることであって規制委員会が判断することではない

出典:10月12日原子力規制委員長定例会見

そこで口を出している側にも見解を尋ねに行った。原発の推進官庁の長である西村康稔経済産業大臣だ。

西村経産大臣は「口を出すことは一切ありません!」

11月8日の閣議後の定例会見。予定から約10分遅れで会見時間はたった10分。3番目に質問機会が回ってきた!短く聞くしかない。

2022/11/08大臣/西村大臣閣議後記者会見

まさの:GX会議の原子力政策についてですが、まず運転期間の延長について、カーボンニュートラルと電力の安定供給のためとはいえ、GX会議、あるいは経産省で原子炉等規制法に書かれている運転の期間について口を出すということは、やや筋悪ではないかと思いますが、「利用」と「規制」の分離の重要性についての認識をお願いしたい。

西村康稔経済産業大臣: 私どもから安全規制の在り方について、何か口を出すということは一切ありません。これは原子力規制委員会が、世界で最も厳しいと言われる安全基準を持っているわけでありますが、まさに安全のことについては原子力規制委員会が検証されているものというふうに承知をしております。私どもは利用する観点からさまざまな政策をまさに今エネルギー庁の審議会、総合エネルギー調査会において審議をしているところであります。

2022/11/08大臣/西村大臣閣議後記者会見

新増設なら原発ゴミ処理を条件に

まさの:新増設についてですが、EUでは、EUタクソノミーというグリーンな投資を推進するための規則案で原子力を入れようとしていますが、その条件として、高レベル放射性廃棄物の(用地と)資金の確保ということを条件にしている。日本も、もしも利用政策として原子力の新増設を認めるのであれば、高レベル放射性廃棄物の(用地と)資金確保を条件とすべきと考えますが、大臣のお考えを聞かせください。

西村康稔経済産業大臣: 私ども、利用政策の観点から、原子力の在り方について岸田総理の指示も踏まえて今検討を進めているところであります。現時点ではまだ具体的な方向性が決まっているわけではありません。総合エネルギー調査会においてですね、フルオープンで多くの専門家の皆さんの意見をいただきながら、国民の皆さんにもフルオープンで理解を深めていただきながら議論を進めているところであります。年末に向けてしっかりと議論を進めていきたいというふうに考えています。

2022/11/08大臣/西村大臣閣議後記者会見

政策大転換は国民参加で

まさの:フルオープンというのであれば、国民にとっては原発の新増設というのは大転換なわけですから、運転期間の件も含めてパブリックコメント、あるいは公聴会といった本当の意味での参加型政策決定をすべきだと思うが、どうでしょうか。

西村康稔経済産業大臣: 今の段階はまだ審議の途中でありますので、専門家の皆さんからいろんなご意見もいただいております。また、国民の皆さんにもフルオープンで見ていただける形をつくって議論しております。私どもとしては、年末に向けてしっかりと議論を深めていきたいというふうに考えております。

2022/11/08大臣/西村大臣閣議後記者会見

玉虫色の大臣見解と審議会

原発推進官庁である経産大臣に「安全規制の在り方について、何か口を出すということは一切ありません」と断言させることはできたが、「利用する観点からさまざまな政策をまさに今エネルギー庁の審議会、総合エネルギー調査会において審議をしている」と審議会に丸投げとなった。

「審議会」は官僚と業界の癒着をベースとした政策決定の隠れ蓑であることが多い。西村大臣は経産省出身官僚だ。阿吽の呼吸なのか?

実際、同8日の午後、大臣が言う「総合資源エネルギー調査会」の下に設けられた「電力・ガス事業分科会」のそのまた下の「原子力小委員会」で「原子力政策に関する今後の検討事項について」が議題となった。経産省(資源エネルギー庁)が、利用政策の観点から「原子炉等規制法」に口を出している。ただし、大臣の明言した「口を出さない」選択肢も<1>に入ってはいる。

出典:資源エネルギー庁「原子力政策に関する今後の検討事項について」p.24

国民主権と原発政策

どうなるかは国民の意識にもかかっている。国民主権の国だもの。だから、大臣のいうように「専門家」の意見だけではなく、国民はどう思うのかを、聞いてもらわなければならない。原発事故前も直後も頼りにならなかったのが「専門家」だったのだから。この件は、更なる続報をしたい。

(*)言い間違えの訂正

10月12日原子力規制委員長会見で質問の際、「原子力等規制法(と言ってしまったが、正しくは原子力規制委員会設置法)で委員会は独立してその職権を行うとあるわけなのですよね。そうすると原子炉等規制法で定めている運転期間だから、推進官庁は口を出すなということを、これも原子炉等規制法第4条第2項(と言ってしまったが、これも正しくは原子力規制委員会設置法第4条2項 。黒字の通り訂正します。

タイトル写真【会見を終えて急いで帰ると】

会見を終えて急いで帰ると自力で起き上がれないアキはペットシートにお漏らしをしたまま寝ていた。午後は抱っこしてオンラインで審議会をみた。


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