原発:運転期限撤廃の印象操作?
岸田首相は、原発の運転期間(原則40年、最大延長60年)の上限をなくす検討をさせている。が、世界で最も長く動いている原発は53年に過ぎないという事実は、検討材料としてテーブルには載せていない。
原子力規制委員長の認識違い
11月9日の原子力規制委員長記者会見。東京新聞の記者が、国際原子力機関(IAEA)の資料をもとに、「世界で長く運転している原発を見ると、53年運転したインドなどの原発が最長だった」「60年を超えた原発が海外に、日本にもないということに関しては、どのような背景があると思う」か質問した。
これに対して、山中委員長が次のように回答する場面があった。
この認識は間違っており、原子力規制企画課長がその場で訂正した。
山中委員長は、結局、「60年超の原発がない背景」を答えなかったが、もととなるデータを検索してみた。
上限「60年」超の原発は存在しない
日本語で見つけたものは、日本原子力産業協会のもの。世界の運転中原子力発電所の運転期間別基数(2022年1月1日現在) 。60年超の原発は「何基か」どころか一つもない。
同協会は「世界の運転中原子力発電所の運転年数順位」も「2020年の主な世界の原子力発電開発動向」(2021年3月)でまとめている。やはり、東京新聞記者の指摘通り、インドの原発が53年(1969年4月発送電開始)で最長だ。
英語で見つけることができたのは、IAEAのNuclear Power Reactors in the World。88ページのグラフ「稼働年数ごとの原発の数」で見ても、2021年12月現在で52年の5基が最長だ。
GX実行会議では都合のいい情報のみ
山中委員長の誤認識の理由を考えてみた。実は、私自身、海外では運転期間の延長が進んでいるという間違った印象を受けていた。
どこでその印象を受けたのか、記憶を辿ると、岸田首相が率いるGX実行会議で、8月24日にGX実行推進担当大臣(=西村康稔・経産大臣)が示した資料「日本のエネルギーの安定供給の再構築」最終ページに行き当たる。
「各国における原子力発電所の新規建設と運転期間の延長に向けた動き」の1枚に「運転期間なし」の国が目立つ。米国では「80年までの運転延長認可は6基」とあるが、「認可」=60年を超えて「稼働」だという印象を私は受けていた。
この1枚を隅々見ても、60年を越えた原発はないことや、最長稼働期間の情報は書いていない。運転期間を撤廃したい「結論」に合う情報だけがある。
上限撤廃のための印象操作なのか
同じ印象は、10月5日の原子力規制委員会に、山中原子力規制委員長が法的根拠なく資源エネルギー庁を呼んだ時の説明資料1−2「原子力政策に関する今後の検討事項について」(=経産省原子力小委員会での説明資料)でも受ける。
原発先進国で「運転期間は制限なし」が潮流であるかのような印象を与えている。
しかし、「60年超の認可も進んでいる」と記述した米国にも、仏英にも、60年を超えた原発は存在しない事実は、ここでも一言も書いていない。
意図的に意識して共有すべき事実
意図的な印象操作なら、原子力規制委員長の認識「私の知る限りでは、米国で何基か60年超の原子力発電所が実際に動いているという、そういう認識」が示すようにその意図は成功している。
しかし、運転開始から40年目に過酷事故を起こした福島第一原発の経験を持つ日本では、意図的に、強く意識をして、60年を超えた原発稼働は未知の世界であることを情報として示すべきではないか。
運転期限の上限を撤廃する政策検討プロセスで、そうしないのはフェアじゃない。
関係取材ノート
■岸田首相が指示:原発の運転期間延長の裏側 10月14日
■経産大臣:原発規制に「口は出さない」は本当? 11月9日
■老朽原発の審査はズサン:延長のリアル 11月13日
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タイトル写真【ハーネスで散歩】
はっきりとした診断はないが、アキは脳神経系の症状で四肢のバランスがうまく取れない。ハーネスで胴回りを2か所で支えれば、なんとか散歩ができる。
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