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だったらブラー観ようよ① 地獄のグラストンベリー・フェスティバル(1998年)
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ブラーがうまいとごはんがすすむ。
というわけで、今日も夜な夜なブラーのライブを見ている。
YouTubeで「Blur Live」と検索すれば、当然のように山ほどの動画が出てくる。その中には、非公式ながらバンドの歴史を語る上で非常に重要な記録も含まれている。
ライブというのは本当に不思議なもので、作品群とはまた違う形で、そのバンドの現状や本質が一目瞭然になることが多々ある。ブラーのバンド・ヒストリーについては、今後も折を見て少しずつ書き溜めようと思っているが、まずは先日のプレイリストに続いて、YouTubeで見られる「本気で見ておきたいブラーのライブ」と銘打って、幾つかの動画を紹介したい。
まず一本目は英国が誇る野外フェス〈グラストンベリー・フェスティバル〉。この栄えある舞台で、ブラーは予想と期待を大きく覆すステージ・パフォーマンスを行っている。
演るほうもつらかろうが、観るほうも修行という、地獄のステージはなぜ繰り広げられたのか? まさに大きなお世話でしかないのだけれど、理由が分かればこれが実におもしろい。というわけで、勝手に解説。
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ブラーはこれまで4回、〈グラストンベリー・フェスティバル〉に出演している。
➊1992年[ NME stage]
1st『Leisure』リリース翌年、2nd『Modern Life Is Rubbish』の前年。メインステージの各日ヘッドライナーはカーターUSM、シェイクスピアズ・シスター、ユッスー・ンドゥール。NMEステージにはプライマル・スクリーム、シェイメン、808ステイトが名を連ね、サマー・オブ・ラブの余熱を感じさせるラインナップ。
❷1994年[NME stage]
3rd『Parklife』発表、本格的ブリットポップ幕開けの年。ただし、まだメインステージには昇格していない。同ステージにはエコベリー、オアシス、チャンバワンバ、インスパイラル・カーペッツ、パルプ、レディオヘッドといった面々。ちなみにこの日朝から3番目の出演だったオアシスは翌年、メインステージのヘッドライナーに大抜擢されている。
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➌1998年[Pyramid stage]
初のメインステージ。5th『Blur』と6th『13』の狭間にあたる。中日(土曜日)のヘッドライナーとして登場し、この日のメインステージにはトリッキー、ロビー・ウィリアムス、マンサン、ステレオフォニックス、トリ・エイモス等が出演。
➍2009年[Pyramid stage]
ニール・ヤング、ブルース・スプリングスティーンら重鎮と並び、メインステージのヘッドライナーを務める。再結成後のライブだが、バンド史の中でも屈指の内容と言える。この日のライブ・パフォーマンスについては別稿で書きたい。
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今回、取り上げるのは1998年のステージである。デビューから7年。ブラーはすでに英国を代表するバンドとなり、“Song 2”の成功によってアメリカにも遂に上陸成功。この年の〈グラストンベリー・フェスティバル〉で彼らがヘッドライナーを飾るのは、もはや当然といえる状況だった。ファンにとっても実に4年ぶりのグラスト出演ということで、期待値はMAXだ。
だが、その完璧なシチュエーションの中、満を持して幕開けたはずのステージは、開始早々から不穏な空気が立ち込める。まずは動画を見てもらいたい。
これはテレビ放送の映像なので、一部楽曲が抜けている。それでも、見れば誰もが気づくだろう。
グレアムのギターの音がデカすぎる。
そして不機嫌すぎる。
これが今回の「ごはんがすすむ」ポイントである。
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この98年は、前述のとおり5th『Blur』と6th『13』のちょうど中間期にあたる。そして、『Blur』制作時からはじまったデーモンとグレアムの確執が、メディアで頻繁に取り沙汰されていた時期でもある。確執の原因としては、音楽的方向性の違いというのが通説だ。
グレアムは、よりオルタナティブなロック・サウンドを推し進めたかった。
デーモンは、エレクトロニカやヒップホップなど、後のゴリラズに繋がるような実験性を求め始めていた。
この対立の渦中で迎えたグラストンベリーのヘッドライナー。当然、ステージにはその緊張が色濃く反映されている。
分かりやすいのは、この日のセットリストだ。
1. Girls & Boys
2. On Your Own
3. Beetlebum
4. End of a Century
5. Country Sad Ballad Man
6. Trailerpark
7. Popscene
8. M.O.R.
9. There's No Other Way
10. Repetition
11. I'm Just a Killer for Your Love
12. Coping
13. For Tomorrow
14. This Is a Low
--Encore--
15. Parklife
16. The Universal
17. Death of a Party
18. Essex Dogs
19. Song 2
とにかく暗い。重い。しんどい。
代表曲を挟んではいるものの、基調となるのは“Country Sad Ballad Man”や“Trailerpark”、“Repetition”、“I'm Just a Killer for Your Love”といった、ブラーの楽曲の中でも特にヘヴィなものばかり。しかも、これらの曲はすべてグレアムのギターが支配するものである。
つまり、このセットリストは、「グレアムが弾きたい曲しか弾かない」という条件のもとで組まれたと推測される。グレアムが条件を出し、バンド側が折れた形だろう。
そうでなければ、ライブ後半、グレアムが延々と轟音ギターをかき鳴らし、他の3人が床に座り込んでそれを眺めるなどという状況は起こらないはずだ。
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グレアムの怒りと怨念が、デーモンのMCを黙らせ、いわゆるヒット・ソングもコーラス部分をわざわざノイズで潰しては、不愛想に終わらせる。
他のメンバーとは目線すら合わせないまま、会場中すべての人間に対し「楽しいライブだったなぞと思わせてなるものか」と言わんばかりの、冷水をぶっかけるような渾身のギターをかき鳴らし続ける。
もし、あなたがその場にいたらと想像してほしい。どうにか本編を耐え抜いた。これはかなり渋い、想像していたブラーとは違う。でも、さすがにアンコールでは、ド派手に騒がせてくれるはずだ。“Country House”も残っている。“Lot 105”からの“Advert”というアンコール鉄板もある。なにより、私たちには“Song 2”がある――と思った瞬間、鳴り響くのが“Essex Dogs”だ。
もし可能なら、もう一度動画を見てほしい。かの曲が始まった瞬間、最前列に立ち尽くすファンたちの表情を。唖然とする彼らの姿には、同情するより他ない。
しかしまた、この映像が伝えるのは、グレアム・コクソンという人の本質だ。どんな場所であろうと、立場であろうと、タイミングであろうと、一切忖度をしない。言葉ではなく、ギターですべてを語る音楽家=グレアムの意地である。そして、「永遠のギター小僧」たらん、大人気(おとなげ)のなさである。
このライブを経て『13』は制作された。と想像すると、アルバムの聴こえ方もまた一味違ってくるのではないだろうか。
そしてまた、今日もごはんがすすむ。
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