詩/鴻毛の軽き
どこ行くの、と問われ、ちょっとね、と答え、そうか、と返され、薄手のスカジャンとスウェットで、階段をおり、外は、やはり劇しい風がふいていて、あちらこちらで、つむじ風があざやかに巻いており、風は、あるだけの雪をつかまえ、つかまえただけの雪を、吹きだまりへとなげ、それはまるで、蟻たちがあやまたず、おのが巣へ食糧を運ぶようであり、巨大で寡黙な海産物倉庫のすみ、ダクトが集積するあたりに、ひとつのひときわおおきな雪だまりがあって、それは、はかりおわった砂時計の、砂のかたちをしており、くるぶしまでのスニーカーで、一歩、一歩、雪だまりに踏みいれると、たちまち、腿のうえまで埋まるが、もっとも、これは質量がないので、音はせず、これは実体がないので、濡れもせず、それはただ、きん、と冷やっこいだけで、冷ましたいことがあったから、ちょうど都合がよく、一歩進み、頸のしたまでうまり、呼吸は億劫になって、頭は冴えてきて、冷ましたいことは、そろそろ十分に冷めたが、冷ましたままの方が、いろいろとよい、と思われて、除雪車のたくましい音が聞こえ、倉庫のダクトは、はるか上までまっすぐ、まっすぐにのびていて、ダクトの上に、リズミカルにとぐろを巻く、無数の雪の粉、いや、青白くまたたく星、無造作にばらまかれたダイヤ、このようないのちのかけら、眺めていて、ようやく眠気が、つかめそうだ