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【感想】劇場映画『ファーストキス 1ST KISS』
テレビドラマを中心にそのキャリアを歩んできたが、近年は映画での活躍が目立つ脚本家・坂元裕二
4月には『花束みたいな恋をした』の土井裕泰監督と再タッグを組む『片思い世界』が控えています。
また、松たか子とのタッグといえば数多の傑作テレビドラマが思い浮かぶわけでして。
しかし、実は最初に本作のニュースを見たときは不安がよぎった。
プロットはこんな感じ↓
カンナは結婚15年目に夫の駈を交通事故で亡くす。長い倦怠期で不仲なまま残された彼女は、第2の人生を歩もうとした矢先、タイムトラベルする方法を手に入れる。過去に戻ったカンナは、出会う前の夫と再会し恋に落ちるのだが、彼に訪れる未来が頭をよぎり……
昨今流行りのタイムリープものである。
大切な人を救うために過去に戻って未来を変えようとする的な。
設定の時点では真新しさは無い。
正直ありきたりで退屈なお話に思える。
大丈夫なのか…?
いざ映画が始まって数分、いきなり坂元裕二ワールドが炸裂する。
そう、餃子だ。
『カルテット』の第2話や『大豆田とわ子と三人の元夫』の第6話にも登場した餃子
『カルテット』第2話で松たか子演じる巻真紀に「昼から食べる餃子とビールは人類の到達点です」と言わせた坂元裕二が描く地獄の餃子パーティー #大豆田とわ子と三人の元夫 #まめ夫
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) May 18, 2021
『初恋の悪魔』の第6話にも登場した餃子
初恋の悪魔(8/20):第6話。ん?前回までは助走だったのかというほどに第2章突入と共に筆が乗っている。そして今回も見事な演じ分けで魅せた松岡茉優に続き、遂に満島ひかりが坂元裕二作品に帰還!anone的な疑似家族。馬淵兄弟の血縁というモチーフもより明確に。あと餃子。 https://t.co/SXnAdsDXvp
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) August 20, 2022
ふふふ坂元裕二だwなんてほくそ笑んでいた矢先、世木杏里(森七菜)が「中2のときに書いたSF小説」という形で『大豆田とわ子と三人の元夫』で小鳥遊(オダギリジョー)が語っていた時間の概念、ひいては決定論の話が出てくる。
過去とか未来とか現在とかそういうのってどっかの誰かが勝手に決めたことだと思うんです。
時間って別に過ぎてゆくものじゃなくて、場所っていうか別のところにあるみたいな。
人間は現在だけを生きてるんじゃない。
5歳、10歳、20歳、30、40、その時その時を人は懸命に生きてて、それは別に過ぎ去ってしまったものなんかじゃなくて。
あなたが笑ってる彼女を見たことがあるなら、彼女は今も笑ってるし、5歳のあなたと5歳の彼女は今も手を繋いでいて。
今からだっていつだって気持ちを伝えることが出来る。
人生って小説や映画じゃないもの。
幸せな結末も悲しい結末もやり残したことも無い。
あるのは、その人がどういう人だったかっていうことだけです。
だから人生には2つルールがある。
亡くなった人を不幸だと思ってはならない。
生きてる人は幸せを目指さなければならない。
人は時々寂しくなるけど、人生を楽しめる。
楽しんでいいに決まってる。
この時間の概念の説明は硯駈(松村北斗)が「ミルフィーユ」と表現する形で再登場する。
大切な人を救うために過去に戻って未来を変えようとするタイムリープものでありながら、その意味を端から完全否定という脱構築。
そこに古生物学やかき氷(時間が経つと溶けてしまう)といった時間を連想させるモチーフを散りばめるのも坂元裕二らしい。
それでも、たとえ決定論で定まった未来は変えられなくても、不仲による離婚で終わった結婚生活をやり直したい。
もう一度あの人と恋がしたい。
そういう意味で本作は『最高の離婚』の語り直しと捉えるのがしっくり来る。
(結婚生活における靴下の描き方は『カルテット』を参照したくなるけれど)
なぜだろう。
別れたら
好きになる。
まさにこのキャッチコピーだ。
尤も本作の場合の「別れたら」は「死別したら」なのだが。
つまり、
花束みたいな恋をした先に結婚したけれど、
結婚生活は上手くいかず、
しかし離婚届を出す前に夫が急死してしまい離婚は成立せず、
かといって2度目・3度目の再婚という気分でもない
そんなところにタイムリープが出来ることになり、離婚でも再婚でもない解決方法を探る話なのだ。
そして、そこにドラマを生む障壁として立ちはだかるのが決定論。
タイムリープものでありながら結末=死別は不可避なことを堂々宣言して物語を進める。
大胆不敵というかさすが坂元裕二である。
余談だが、上述の『最高の離婚』のコピーがそのまま台詞で引用される吉田大八監督の『離婚なふたり』に主演したリリー・フランキーが本作に出ているという作品外の文脈も面白いw
離婚なふたり(4/5・12):吉田大八監督による2週連続SPドラマ。リリー・フランキー演じる人気脚本家の妻役が小林聡美という時点でもう何か開き直ってるわけだが、坂元裕二『最高の離婚』の影響も一切隠さないw劇中劇と現実が混合していく演出が吉田監督っぽかった。原作にある展開なのかな?
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) April 14, 2019
閑話休題
監督は昨夏の『ラストマイル』も記憶に新しい塚原あゆ子
正直これまではテレビドラマと同じく「脚本を活かす」ことを第一に自身は職人に徹してあまり個性を出していない印象があった。
『ラストマイル』もシェアード・ユニバース作品という宣伝も相まって「野木亜紀子が脚本を手がけた映画」として世間に受容されていたと思う。
(もちろん塚原あゆ子監督に言及してる人が少なかったわけではないけれど)
ところが、本作の映像は完全に映画としての格が一段上がっている。
やはり撮影に今や日本を代表するカメラマンとなった四宮秀俊を呼べたのはデカい。
照明の秋山恵二郎とは絶賛公開中の『敵』に続くタッグ。
光の捉え方のおかげでショットが『ラストマイル』とは段違い。
(自分も『アンナチュラル』『MIU404』シリーズのファンなのでこういう言い方は心苦しいのだけど)
夏の暑さが画面から漂ってくるのが良いんですよね。
柳島克己が撮った『真夏の方程式』の映像を観たときの驚きに近いものがありました。
緑が茂った並木道を上から降りてくるショット良かったなぁ。
色彩的にも美しいし、画面に奥行きがある。
自宅(室内空間)の撮り方は『違国日記』に通じるものが。
窓から差し込む光も美しい。
スタイリストは『大豆田とわ子と三人の元夫』を筆頭に打率10割なんじゃないかという伊賀大介。
松たか子が色んな衣装を着て過去の夫と“浮気”するわけだがどの衣装も良かった。
あのTシャツも最高w
ちなみに2009年当時はカンナ(松たか子)が青い服で天馬里津(吉岡里帆)が緑の服。
運命の赤い糸はどちらでもなかったのかもしれない。
あと、めちゃくちゃ驚いたのは音楽が岩崎太整なのは妥当として、アディショナル・スコアで坂東祐大がクレジットされてたこと。
いや贅沢すぎるだろw
『竜とそばかすの姫』の音楽タッグ
劇伴も素敵でした。
他にも松たか子や松村北斗の演技が素晴らしかったとか色々ありますが、まぁその辺りは他の方が書いてくれるでしょう(他人本位)
では、今日はここらで。