【感想】WOWOWドラマ『フェンス』第1話
社会派エンタメ作品を得意とし、今やトップクラスの人気脚本家の1人である野木亜紀子。
作家性の分析・批評はわざわざ自分が駄文を書くまでもなくリアルサウンド映画部による書籍『脚本家・野木亜紀子の時代』に詳しくまとめられているので割愛。
2020年に『MIU404』を手がけた後は原作もの映画や劇場長編アニメが続き、連ドラからは遠ざかる形に。
そんな野木亜紀子が久々の連ドラの題材に選んだのは沖縄の米軍基地問題。
『フェイクニュース』で組んだNHKの北野プロデューサーとの再タッグ。
ちなみに本作はWOWOW放送だけど製作にはNHKエンタープライズが名を連ねている。
裏を返せば題材的に民放はおろかNHKでも難しかったということだろうか?
というわけで第1話を早速観た。
ちなみにこれを書いている時点ではWOWOWオンデマンドで第2話まで先行配信中。
アバンタイトルは米兵によるレイプ被害を訴える桜(宮本エリアナ)
そこから物語は東京のキャバクラへ。
あれ?松岡茉優が今回演じるのはキャバ嬢だったっけ?と思ったら、実は写真週刊誌の記者で潜入取材をしていたというツカミ。
この決して長くはない尺のオープニングシークエンスに「追いかけてくる男性から女性が走って逃げ、追いつかれて体に触れられるも護身術で振り切る」という、本作が扱う事件を踏まえると非常に示唆的なアクションが含まれている点も見逃せない。
そして舞台は再び沖縄へ。
第1話では「桜が警察に被害を訴えている米兵のレイプは本当にあったのか?」というミステリー要素が軸。
ここで編集長(光石研)との会話という形でかなり説明的に沖縄の歴史・背景がキー(松岡茉優)の口から語られる。
正直ここはさすがに説明台詞過多でドラマのテンポを落としてしまっているが、本作が伝えたいテーマを考えると視聴者の目線を丁寧に整えておく必要があるということなのかなと。
ここ以外にも第1話は沖縄の現状(日米地位協定や辺野古基地埋め立て)を伝えるための説明台詞がかなり多い。
野木亜紀子がたまに見せる悪癖として「問題意識が前傾化しすぎてエンタメ作品としてのバランスが崩れる」というのがあると思っているのだけど、今回は作品全体のテーマ的に周到なセッティングが必要な第1話特有の事情かもしれないので判断するには時期尚早か。
逃げ恥SPとかはその傾向がちょっと顕著だったかなぁ…
第1話は舞台のセッティングに多くの時間が割かれ、ラストにレイプ事件の真相が明かされたことで次回以降はミステリーではなくサスペンスに移行するようだ。
人種差別や沖縄県民間の分断といったテーマも示唆されていた。
こうなってくると気になるのは物語をどこに着地させるのか?
「レイプは言語道断の蛮行である」のは当然の大前提としても「では米軍基地は無い方が良いですね」という結論に即到達するほど単純な構造の話でないのもまた事実。
また、個人的に「作品は脚本家の主義主張をただ訴えるためだけの場ではない。それは陰謀論やプロパガンダ映画と変わらない」と考えている。
そういう意味で米軍基地の闇に光を当て、そこからどういう結論を導くのか最終話まで見届けたい。
この点、渡辺あや脚本の『エルピス』は実に客観的な着地点を見出していた。
作り手の考える正義もまた絶対的な善とは限らないという境地。
(念のため書くが私は決して「国家安全保障という正義のためにはレイプ被害という個人レベルの問題は我慢せよ」などという暴論を言うつもりは一切無い)
ここまで脚本の話に終始してしまったが、本作の演出を担当しているのは松本佳奈監督。
フィルモグラフィーを眺めるに本作のような骨太な社会派作品というよりは温かいコメディタッチの作品を手がけてきた方なのかな?
自分が観たことあるのは『デザイナー 渋井直人の休日』ぐらい。
初回は随所に挿入される引きの構図のショットが良かった。
映画的で重厚な安っぽくない画作りという演出効果もあるし、作品のテーマ・メッセージとも直結している。
沖縄の街や自然もまた本作の大切な一部なのだという静かな宣言。
俳優陣も素晴らしい。
松岡茉優は言わずもがな、その相棒役として堂々と渡り合う宮本エリアナ。
『コタキ兄弟と四苦八苦』や『MIU404』といった野木亜紀子バディ名作群に連なる新たな女性バディ誕生の予感。
また、本作は沖縄出身キャストが多数起用されている。
第2話からは野木亜紀子の盟友・新垣結衣も出演(現代劇の連ドラはかなり久々?)
あと、沖縄米軍基地のレイプを描いた作品といえば李相日監督の映画『怒り』が思い浮かんだが、あそこで苦悩していた少年役だった佐久本宝が警官役に!
広瀬すずが演じたあのシーンは辛かった…
予告編にも出ていたキーの台詞。
本作は「正しさ」をどこに置くのだろうか。
しっかり見届けたい。
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