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【感想】ソニー・ピクチャーズ・アニメーション映画『ビーボ』
ビーボ:ソニーの新作アニメ映画。音楽と主演を『イン・ザ・ハイツ』のリン=マニュエル・ミランダが務めたミュージカル。素晴らしい!本来言葉が通じない2人の会話から地続きのラップ作劇。ロジャー・ディーキンス監修の美しい絵。編集(トランジション)も映画的。お見事! https://t.co/sGHdhqBp80
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) August 7, 2021
『スパイダーマン:スパイダーバース』『ミッチェル家とマシンの反乱』のソニー・ピクチャーズ・アニメーションの新作。
ソニー初のミュージカル作品である本作の製作総指揮・音楽・主演を兼任しているのは舞台『ハミルトン』『イン・ザ・ハイツ』で数々の賞に輝いたリン=マニュエル・ミランダ。
実写映画化されて日本ではまさに現在劇場公開中の『イン・ザ・ハイツ』にはかき氷屋さん役で出演している。
さらに『ヒックとドラゴン』シリーズと同じく御大ロジャー・ディーキンスがビジュアルコンサルタントとして参加。
ちなみにロジャー・ディーキンスの本職(?)は撮影監督で、数々の名作実写映画に参加しておりアカデミー賞撮影賞には15回ぐらいノミネートして『ブレードランナー2049』と『1917 命をかけた伝令』で受賞を果たしている大御所中の大御所である。
そんなわけで「見るしかない!」な座組みの作品なのだが、どうも昨日ひっそりNetflixで配信開始してこのまま大して話題にもならずに終わりそう感が否めない。
まぁ劇場公開を目指していたけど土壇場でソニーからNetflixに配給権が売られたのだとしたら宣伝費用はかけられないよねぇと知ったかぶりの一つもしたくなってしまうところである。
今年の夏アニメ映画は『竜とそばかすの姫』でお腹いっぱいなんです、という方もいらっしゃるかもしれない。
いや、僕としては『サイダーのように言葉が湧き上がる』もぜひ見てほしいんですけどね。
サイダーのように言葉が湧き上がる:イシグロキョウヘイ監督の長編アニメ映画。俳句やレコードといった音のモチーフを並べながら佐倉・サクラ・山桜や葉・歯という言葉遊びがボーイミーツガールな物語に直結していく脚本がニクい!視覚だけじゃなく聴覚でも魅せてくれる広義の音楽映画 #東京国際映画祭
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) November 3, 2020
すみません、脱線が過ぎました。
たまたま見た本作『ビーボ』もなかなか素晴らしかったのでこのまま埋れさせてしまうにはもったいないと思い記事を書いてみます。
まず、本作のあらすじ。
物語はアンドレスのかつてのパートナーで有名な歌手マルタから、さよならコンサートへ招待する手紙を受け取ったことから動き出す。マルタへの愛を歌としてしたためながらも、伝えることができなかった後悔を抱えるアンドレス。再会を望む2人だが、ある悲劇によって、その思いの行く末はビーボの手に委ねられた。ビーボはドラムが得意な少女ギャビーと一緒に、ラブソングを届けるための冒険に出る。
出典:https://natalie.mu/eiga/news/439510
動物キンカジュー(サル科と思ったらアライグマ科らしい)のビーボと少女ギャビーがマイアミを目指すという、ストーリーとしては単純明快で一直線の話である。
要はこの珍道中をミュージカルが彩っていくわけだが、そこはさすがリン=マニュエル・ミランダ。
『イン・ザ・ハイツ』でも炸裂していたラップ作劇が本作でも効果的に使われている。
ミュージカル×アニメというとどうしてもディズニー作品を思い浮かべてバラードなどムード溢れるメロディアスな楽曲をイメージするが、本作は会話の延長線上に位置するラップが歌われる。
テンションが上がった結果のリズミカルな会話のように聴けるので必要以上にミュージカルと構えることはない。
この辺りは現在公開中の映画版『イン・ザ・ハイツ』が同様の特徴を兼ね備えていることもあり、私よりもはるかに優れた批評がたくさんあるので是非そちらを読んでみてほしい。
(というかそもそも『イン・ザ・ハイツ』を見てから本作を見るのが「あぁ!あの感じ」となって一番入りやすいかも)
そしてアニメーション映画として欠かせないのが絵。
『スパイダーマン:スパイダーバース』で全世界の度肝を抜いたソニー・ピクチャーズ・アニメーションだが、本作でもあるシーンになると絵のタッチが突如変わるという演出がある。
これは実写映画や舞台ではもちろん出来ない芸当なわけで、非常にアニメ的な快楽。
ネタバレを避けるためどのようなシーンか明言はしないが、絵のタッチが変わることにもきちんと意味があり、決してアニメ的快楽のためだけの演出となっていない点も素晴らしい。
さらに恐らくはロジャー・ディーキンスのコンサルティングが最も効いているであろう中盤のジャングル、特に鳥の背中に乗って雲の上まで飛んで森林を上から見下ろすシークエンスは惚れ惚れしてしまった。
そこから川を抜けて海に出て奥に夜のマイアミの街が見えてくるカットも最高!
ツイートにも書いたが編集、シーンからシーンへのトランジションもとても映画的で面白い。
冒頭約10分だけでも
- コロンビア・ピクチャーズのコロンビアレディからシームレスに始まるオープニング
- タイトルの出し方
- 人混みを抜けたら回想シーン
- 回想シーンからは帽子を編集点に戻る
- 手紙を読みながらマルタの場面に移って戻ってくるまでの一連
- 写真からマルタとの思い出へ
これだけある。あぁ編集の快楽よ。
映画における編集の話については『映画大好きポンポさん』を見ましょう。
さらにツイートには文字数の関係で書けなかったのだが、ギャビー側の物語も実に良いメッセージが込められている。
このギャビーという女の子、友達と馴染めず、それを心配した親からはガールスカウトの活動を強く勧められている。
このガールスカウトのリーダーとの衝突が爆笑ポイントというか、リーダーの正義感が暴走して大変な目に遭うのも最高なんだけどw
ギャビーが頑張って友達を得て母親からも理解を得る場面、ちょっと都合よく話が進みすぎな感もあるがやっぱり良い。
青臭いけれど、分断と不信の時代だからこそ対話によって理解し合っていくという話が子供も楽しめるアニメ映画に込められているというのは大切なことだと思う。
何より(当たり前っちゃ当たり前なのだが)ビーボとギャビーはキンカジューとヒトなので実は劇中で言葉は一切通じていない。
(正確にはビーボは人間の言葉が理解できているが、ビーボの話す言葉は人間には鳴き声としてしか伝わっていない)
そんな2人が様々な困難を乗り越えた末に「旋律」で通じ合う場面に音楽の素晴らしさが詰まっている。
ギャビーが詞を覚えており、ビーボは旋律を覚えている。
ビーボとギャビーは言語の壁を乗り越えて2人で1つなのだ。
ストーリーも絵も音楽も、とても良いミュージカルアニメを見た。
長編アニメ映画『ビーボ』はNetflixで独占配信中