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【感想】IMAX映画『NOPE/ノープ』

もし元日に「今年1本しか映画を観られないとしたら何を観る?」と聞かれたら僕は本作と答えていた。
それぐらい楽しみにしていた作品。

ジョーダン・ピールといえば黒人差別をテーマとするホラーの印象が強い作家である。

ホラーでパッケージされた強烈な社会風刺。
個人的には製作総指揮として関わったHBOドラマ『ラヴクラフトカントリー』が大好き。

これも黒人差別がテーマのSFホラー。

ただ、それらの過去作に比べると今作は社会批評性や風刺は薄めでエンタメ寄りになっている。
ジョーダン・ピール作品の中では最も入りやすいのでは?
逆に今までと同様のテイストを期待した人は肩透かしを食らうかも。
(あのチンパンジーが暗喩するものや序盤の映画撮影現場の描き方にそういった風刺は込められているのでゼロではないが)

そんなジョーダン・ピールの新作というだけでも注目していたわけだが、自分がグッと興味を持つ理由になったのが撮影監督の名前。

クリストファー・ノーランの「インターステラー」「ダンケルク」「TENET テネット」などで知られるホイテマは、IMAXフォーマットの65mmフィルムでも撮影を行ったという。
https://natalie.mu/eiga/news/455789

ホイテ・ヴァン・ホイテマ!
しかもIMAXカメラの65mmフィルム!
数年前『ダンケルク』を観るためメルボルンまで飛んだ自分には垂涎モノw

IMAXの画角とかの話は『DUNE/デューン 砂の惑星』の感想記事に書いたので今回は割愛します。

本作も1.43:1のアスペクト比のシーンかなりあるのでグランドシネマサンシャイン池袋もしくは109シネマズ大阪エキスポシティが鑑賞環境としてはベスト。

本作は間違いなく「撮影の映画」である。
それは

  1. IMAXカメラで撮影されている

  2. 何かを撮影しようとする人々の物語が描かれている

という二重の意味で。

まず1つ目について。
本作はIMAXの縦長スクリーンを活かした縦の構図が非常に多い。
カメラも縦に動く。
イメージ的には『ジュラシック・パーク』で首長竜を下からなめたあのカメラワーク(スピルバーグの素晴らしい演出)に近いか。

そのカメラワークが「空に何かがいて、人々がそれを見上げる」というストーリーと有機的に結び付いているのも見事。
本作は登場人物たちがとにかく空を見上げる。ただし見上げたら即死亡なので、同じくホイテ・ヴァン・ホイテマが撮影監督を務めた『インターステラー』にクリストファー・ノーランが込めた「スマホばかり見てないで空を見て宇宙に想いを馳せようぜ!」とは真逆のメッセージ?w
まぁでも映画館を出たら絶対に空を見上げたくなりますけどね。絶対に。

さらにその縦の構図を際立たせるのが序盤で引用される映画史のエピソード。
エドワード・マイブリッジの連続写真『動く馬』

WikipediaにGIFアニメーションが貼られています。

写真を繋げて見せることで黒人が乗った馬が左から右に走っているように見える。
これが映写機の発明にインスピレーションを与え、後に映画の誕生に繋がっていく。
そう、映画とはその誕生背景や歴史的にも、そして映画館の横長のスクリーンが象徴するように横移動の快楽。
『リコリス・ピザ』の走るシーンなんかまさにそれ。

ちなみにこれも2022年を代表する傑作。
(全米公開は去年だけど)

「映画は横スクロールの快楽」ということを映画史を引用してまで観客の意識に植え付け、そこから縦の構図を連発するショット。
痺れた。
もちろん馬やバイクが走る姿を捉えた移動ショットのカメラワークも文句なし。
そしてカラフルなスカイダンサー!
色彩設計も画面設計も最高。
グランドシネマサンシャイン池袋の巨大IMAXスクリーンの縦一杯に広がる圧巻の映像美。

スマホやタブレットはもちろん、非IMAXの横長スクリーンで観た場合でも本作の印象はだいぶ異なると思われる。
出来る限りIMAX推奨。
行ける人は池袋か大阪へ。
日本国内だからメルボルンに比べたら安いw

あと1ヶ所、開いてる窓を通って外に出ていくカメラワークでIMAX画角への変化がシームレスに感じたのだけど、あれは単に僕がそう感じただけだったのかな?
カチッと切り替わったんじゃなくてスーッと上下に広がった印象(錯覚かも)

ストーリーに少し言及すると、本作は牧場の上空に出現した謎のUFOを撮影しようとする人々の話。
前半はSFホラーのように展開していくが、クライマックスは『シン・ゴジラ』よろしく緻密に作戦を立てた4人のチームとUFOとの対決になっていく。
「いや、UFOに吸い込まれて町から一斉に人がいなくなったんだから幸い生き残ってるお前らは一刻も早く逃げろよ」という気もするがw
でも娯楽作品としてはあの展開はアガる。

そういう意味で「目の前にある何かを撮る」という本筋のストーリー的にも映画の話をしている映画と言えよう。
フィルムカメラが大活躍するクライマックスと本作がフィルムで撮られているという文脈が合わさって思わずニヤリ。

本作が「映画の映画」な理由は他にもあって、オマージュを捧げる形での過去の名作からの引用がとても多い。
最大の引用元はスピルバーグの『未知との遭遇』や『ジョーズ』か。

造形がめちゃくちゃ美しいアレはエヴァの使徒の影響とのこと。
(上で『シン・ゴジラ』の名前を出したが、本作は途中から怪獣映画にジャンルシフトしていく)

この記事内でも言及されている通り『AKIRA』オマージュもありましたね。

ほぼそのままあのシーンをw

ジョーダン・ピールの映画愛とホイテ・ヴァン・ホイテマの映像美が高次元で噛み合った“最高の奇跡”な1本。
私の2022年暫定1位です(72本中)

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