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【感想】劇場映画『デッドプール&ウルヴァリン』
2021年2月、MCUフェーズ4の幕開けにして世界中を熱狂させた『ワンダヴィジョン』のピエトロ・マキシモフのrecast
MCU版でピエトロ・マキシモフを演じていたのはアーロン・テイラー=ジョンソン
20世紀FOX製作『X-MEN』シリーズで同役を演じていたのはエヴァン・ピーターズ(要は原作の同じキャラをそれぞれのシリーズで演じる役者がいた)
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』で亡くなったピエトロが『ワンダヴィジョン』ではある方法により復活…と思ったら出てきたのは何とエヴァン・ピーターズ!
マーベルと20世紀FOXがディズニー傘下になった頃から噂されていたMCUとX-MENのクロスオーバーが遂に実現!?と世界中が大騒ぎ
しかし、最終話で「単なる偽物(字幕はニセトロ)」という真実が明かされてあっさり退場w
そこから約1年後に『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』で今度こそX-MENと本格合流と思ったら再び匂わせで終了w
そうこうしている内にマルチバースを持て余したMCUはグダグダになり、世界No.1エンタメの座からは完全に陥落。
今作でデップーのマルチバースdisの台詞で爆笑が起きてたのはみんなそう思ってたってことなんだろうな…w
三度目の正直とばかりにMCUの未来を託された『デッドプール&ウルヴァリン』
蓋を開けてみれば、第四の壁を破ってメタな台詞を連発するデップーによる20世紀FOXへのラブレターにしてレクイエムでした。
基本ずっと笑ってたけど要所要所でグッとくる。
ただ、そういった解説・考察は他にもっと詳しい人が大勢いるし既にたくさん出回っている。
自分は本作をショーン・レヴィの新作としても楽しみにしていたのでその視点から感想を書こうと思う。
ショーン・レヴィは基本的には楽しい娯楽作品を主戦場としてきた人である。
監督作として一番有名なのはまだ洋画が日本でも元気だった頃の『ナイト ミュージアム』シリーズかな?
近年では『フリー・ガイ』『アダム&アダム』とライアン・レイノルズとのタッグの印象が強い。
ちなみにヒュー・ジャックマンとも『リアル・スティール』で組んでいる。
こう考えると20世紀FOXという“過去の遺産”をメインに据えてライアン・レイノルズとヒュー・ジャックマンが出演する映画の監督としてはこれ以上ない人選だったのかもしれない。
さらに『フリー・ガイ』『アダム&アダム』から自己の存在意義・存在理由というテーマも受け継がれているし。
デッドプールの過去2作品のテイストをMCUやディズニーの枠に収まるギリギリのラインを狙って残した職人的手腕もさすが。
ただし、ショーン・レヴィはスピルバーグと同様に脚本を書かないタイプの映画監督であるという点には留意する必要があるだろう。
プロデューサーとして企画に一定の関与はしていると思われるが、脚本で語られているテーマにショーン・レヴィの思想がどれだけ反映されているかは不明である。
(ちなみに今作『デッドプール&ウルヴァリン』においては珍しく脚本にもクレジット)
しかし、ショーン・レヴィ最大の功績は何といってもNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』を置いて他には無い。
どのスタジオに企画を持ち込んでも断られていたダファー兄弟に文字通り救いの手を差し伸べてNetflixに繋いだ歴史的ファインプレー。
自身も各シーズンの第3・4話で監督を務めている。
特にシーズン4の第4話はケイト・ブッシュの『Running Up That Hill』のリバイバルヒットを生んだ神回。
あのエピソードは素晴らしかった。
そういう意味ではテレビドラマで一躍有名になったマシュー・マクファディンとエマ・コリンが今作に抜擢されているのは非常に納得感がある。
特にマシュー・マクファディンは「ローガン」という単語が飛び交う作品の中で『サクセッション/メディア』のトムそのまんまの小物を再び演じていて最高だったw
さて、そんなショーン・レヴィのフィルモグラフィーにおいて実は本作を語る上で外せないのが公開の順番的には前作にあたるNetflixドラマ『すべての見えない光』だと思う。
原作はアンソニー・ドーアのピューリッツァー賞受賞のベストセラー小説
主演はNetflixドラマ『DARK/ダーク』のルイス・ホフマン
娯楽作品中心のキャリアの中では異色のシリアス路線な1本
エミー賞ではリミテッドシリーズ部門の撮影賞にノミネート
新境地開拓なるか?と期待したものの個人的にはもう一歩な印象だった。
正直「これ別にショーン・レヴィが撮らなくてもいいのでは?」と思ってしまったというか。
ただ、今回『デッドプール&ウルヴァリン』を観ると全体的なテイストは娯楽の楽しい路線に回帰しているものの、この作品で2人の心が近付く美しいドラマを丁寧に演出した経験は活かされたのかなと思い改めた。
中盤の少し湿っぽいトーンになる場面は人によっては(むしろそっちが多数派?)退屈と感じたかもしれないが、自分は『すべての見えない光』の影を感じられて興味深かった。
個人的には久々にMCU作品を観たのだけど本作は面白かった。
終盤の
過去は修正しなくていい。
※一言一句は正確ではないかも
という台詞は一種の自己批判にも思えたり。
別スタジオが作った過去の映画まで歴史修正するのはやはりパンドラの箱だったよな…
フェーズ3を〆る『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』で自己批判していた内容を『ノー・ウェイ・ホーム』がもろにやっちゃってて残念だった自分としては、まだMCUにこういう良心があるなら少しは期待してもいいかなと。
まぁ穿った見方をすればMCU立て直しのためにデッドプールがディズニーに体よく使われたとも言えるので少し複雑な気分ではあるのだけど。