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【感想】HBOドラマ『ステーション・イレブン』

相変わらず傑作続きのHBOドラマ。
本作もニューヨーク・タイムズが2021年ベストドラマの1本に選出。

原作は2015年出版の世界的ベストセラー小説。
なんだけど、今改めてドラマ化されるとどこからどう見てもCOVID-19を描いたものにしか思えない内容になっている。

人類の大半がウイルス感染により死滅し、文明が崩壊して20年ー。パンデミックを経験した者たちの数奇な運命が、時代を超えて交錯する傑作サスペンス『ステーション・イレブン』。

世界的人気ベストセラー小説をもとに、生き残りをかけたサバイバル、登場人物たちの過去が複雑に絡み合うサスペンス、そして、失われたものを大切にしながら、新たな世界を創造しようとする人々の再生のメッセージを含んだ「現代の物語」として生まれ変わりました。
https://www.unext.co.jp/ja/press-room/station-eleven-coming-2022-4-21

いわゆるポストアポカリプスもの。
このジャンルの作品で史上No.1はやはり『ウォーキング・デッド』か。

ただ、やはり2020年のパンデミック以降は感染症という設定が純粋に作品をエンタメとして楽しむ上ではノイズになってしまう面は否めない。
例えばデンマークのNetflixドラマ『ザ・レイン』やロシアのNetflixドラマ『湖へ』

やっぱりどうしても現実世界と比べてしまうというか何か妙な地続き感があるというか。
どっちも楽しんだけど、やっぱりフィクションとして純粋に見たかったよなー

ポストアポカリプス作品は

  1. 恐怖のパンデミック描写

  2. 多くの人が死んで文明が崩壊

  3. 生存者たちは数人単位の小さなコミュニティで暮らし始める

  4. その小さな集団内の権力争いや他の集団との交流・衝突

といった感じで入り口こそホラー的であるものの最終的には政治の話になっていくパターンが多い。
まぁ我々は小学校のクラスの頃から人が集まればそこに小さな社会が生まれてきたわけで。
世界が一度リセットされたなら社会を再構築するために政治が盛んになり、そこにドラマが生まれるのは必然か。

  • ただただ生き延びたい人

  • 人生逆転して上に立ちたい人

  • その暴力性に抵抗する人

  • 自身の過去を捨てて再出発を図る人(実は犯罪者だったetc.)

  • 悟りの境地の人(ほっといてくれ的な)

なので自分はゾンビ作品やポストアポカリプス作品を見る際は政治ドラマを期待して見ている。

ところが、なんと本作『ステーション・イレブン』は政治ドラマ色はかなり薄い(!)
第1話はパンデミックが幕を開けるエピソードなのだが、第2話からは20年後の未来に飛んで一応そこが現在の時制に設定される。
(ただし時系列を目まぐるしく入れ替える構成になっているので第1話と同時期のエピソードもかなりの割合で描かれる)

パンデミックから20年後の世界で主人公は旅の楽団の一員。
1年間の移動ルートが決まっており毎年同じ時期に同じ場所で公演を行なっているらしい。
つまり演劇で飯を食っている。
そう、コロナ禍に突入した頃に真っ先に不要不急に位置付けられた文化的活動である。
20年も経つと世の中も安定するということなのか。
劇中では国やそれに準ずる何らかの統治の様子は見られない。
あくまで村の規模・単位で暮らしながら文化的なものを楽しむ余裕も生まれているようだ。

このように本作のテーマは「文化・芸術」
何せ第1話でパンデミックの幕開けとなる場所が『リア王』上演中の舞台なのだから。
登場人物たちは生き延びた後の世界で演劇や音楽といった活動を楽しみ、そして次世代に語り継ごうとしている。
政治や経済はとっくに崩壊している。
でも文化は残り、そして続くのだ。
それこそが人間的な営みであるという作り手の強いメッセージ。
エンタメが好きな人には必ず刺さるはず。

個人的にはまだパンデミックが終息したのかどうかも分からない状況下で家に閉じこもって暮らす3人で小さな劇をやる(観客がいないのでごっこ遊びに近いか)第7話にグッと来てしまった。
文化というものは食事の栄養と異なり生命維持には不要に思えるが、心を豊かにして安定させるには必須。
決して不要不急で片付けていいものではない。

ちなみに本作のタイトル『ステーション・イレブン』は劇中に出てくる本の題名。
インターネットも消滅してデジタルデバイスが化石となった時代において書物は何かを語り継ぐ重要な手段かつ貴重な娯楽になっている。
本もまた重要な文化資産だ。

さて、ここまで読むと本作は何やら高尚ぶった説教を聞かされるドラマに思えてしまうかもしれないが、そんなことはない。
エンタメとして楽しめるように第一層にミステリー要素を持ってきている。
(ちなみに宣伝ではSFサスペンスと謳っているが、危機的状況下でのサバイバル劇や感染症に隠された謎を解く話ではないのでそこに期待しているとミスマッチ起きるかも)
前述の通り第1話のラストでいきなり20年後に飛ぶので

  • あれ?一緒にいたあの人はどうなったの?

  • そもそも20年の間に何があったの?

  • てか正直こいつ誰?

といった謎が一斉に生じる。
そこに興味を持ちながら見られるので、テーマに入る前にまずきちんと面白い。
それらの要素を時系列を目まぐるしく入れ替えて散りばめ&回収しながら終盤きちんと1点に収束させた脚本も素晴らしかった。

映像面の話も少しだけ。
製作総指揮と第1・3話の監督でヒロ・ムライが参加している。
『アトランタ』でエミー賞にノミネートして『This Is America』のMVでグラミー賞を獲得した稀代のクリエイター。

基本的には群像劇で一人ひとりのドラマをじっくり楽しむ作品なので、撮影や編集でこれでもかと色気を見せる演出は少ない。
(ヒロ・ムライ以外が演出した回も同様)
※あくまで演出で押し切る作品ではないというだけで撮影や編集が凡庸という意味ではありません。念のため。

個人的には随所に挿入される引きのロングショット、特に雪をはじめ白を美しく捉えた画がとても良かった。
高層マンションもどこか幻想的。
やっぱりああいう風に白を綺麗に撮ってくれると見てる側としてはアガるw

過去のどの作品とも異なり、鑑賞後に心温まる新たなポストアポカリプス作品の傑作でした。
政治や経済が崩壊しても文化は続く。

The world ends beautifully.
The show must go on.

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