【感想】劇場映画『プアン/友だちと呼ばせて』
ウォン・カーウァイ。
言わずと知れたアジアの巨匠。
ストーリーのテーマ以上に演出(特に映像面)に作家性を感じる監督だと思う。
思い入れがある方もきっと多いはず。
アカデミー賞を獲ったバリー・ジェンキンスやクロエ・ジャオも影響を公言している。
長編映画は2013年の『グランド・マスター』を最後に撮られていない。
その代わり(?)過去作の4Kリマスター版の上映企画がもうすぐ開始。
ちょうど今回観に行った映画館で予告編が流れていたが、あの短時間でもため息が出るほど美しかった。
そんなウォン・カーウァイが自らプロデュースを買って出たという本作。
何でも監督のバズ・プーンピリヤの才能に惚れ込んでウォン・カーウァイの方から「一緒に映画を作ろう」とオファーしたそう。
バズ・プーンピリヤの名前が広く知れ渡ったのは前作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
カンニングという小さな入り口からサスペンスをどんどん展開させる手腕が凄かった。
これは娯楽性の強い作品だったが、今回は趣の大きく異なるロードムービー。
あらすじはこんな感じ。
カクテルを作る工程に合わせてオープニングクレジットが表示される冒頭でもう完全に心を掴まれた。
MVのようにリズミカルな編集。
そこからは歴代元カノとの再会がロードムービー形式で描かれていくのだが、ここで挿入される回想シーンがまさにウォン・カーウァイ風と形容する以外に言い表せない美しさ。
現在パートに重要なアイテムとして登場するカセットテープも合わさって極上のノスタルジー。
てっきりウォン・カーウァイが撮影にも結構関わったものかと思っていたら何と現場には一切顔を出さなかったのか!
正直『バッド・ジーニアス』では映像面よりもストーリーテリングの腕が印象に残っていたので、あんな美しい画を撮れる監督だとは思わなかった。
「ですから、私は監督として、その“魂”をビジュアルに落とし込むだけでした。」って本当にそれをやるのがどれだけ難しいか。
とはいえ叙情的なカットが続いて湿っぽくなりすぎないように前半はちょくちょくコメディ要素も設けられている。
特に『バッド・ジーニアス』で主演を務めたオークベープ・チュティモンが女優役で登場するシーンのジョン・ウー作品パロディは最高だったなぁw
二丁拳銃からの鳩www
ウォン・カーウァイのプロデュースの上でジョン・ウーという文脈も面白い。
映像面が非常に優れた本作だが、ストーリーにも大仕掛けが施されている。
前述の通り重要なアイテムとして登場するカセットテープ。
そう、カセットテープはA面が終わったら裏のB面が流れる。
本作は男性2人のロードムービーだが、後半は主人公が入れ替わり、歴代元カノ挨拶回りとは異なる真の目的が明かされるという構成になっている。
乾くるみの小説『イニシエーション・ラブ』で食らったトリックなのに今回も全く気付かずまた食らってしまうとは不覚。
ただ、自分はこの構成に感心しながらもどこか寂しさも覚えてしまった。
それは去る者と残る者の対比がそのままウォン・カーウァイとバズ・プーンピリヤを表しているように、特にウォン・カーウァイからの餞別に思えてしまったから。
残される側のボスが真の主人公になり、ウードはスマホにラジオというオールドメディアの体裁のメッセージを遺して退場する。
動画配信サービスの隆盛によって映画の本質が揺らぐ時代にどこか意味深。
ストーリーもノスタルジーを描いていたから尚更。
前述のようにウォン・カーウァイは2013年を最後に長編映画を撮っていない。
本作には脚本段階ではかなり積極的に関わっていたそう。
最初に提示したアイデアは「死ぬまでにやりたいことリスト」だったという。
確かに年齢・キャリア的には締めくくりフェーズに入ってきているかもしれないが…
バズ・プーンピリヤに魂を託して自分はもう撮らないってことはないと思いたい。
本作は間違いなく傑作。
だからこそ僕はバズ・プーンピリヤの次回作もウォン・カーウァイの新作も観たい。