【感想】HBO×WOWOWドラマ『TOKYO VICE』シーズン1
アンセル・エルゴートがワーナー製作のドラマで主演を務め、その舞台が東京になるらしい。
そんなニュースが報じられたのはちょうど3年前の2019年6月。
当時まだHBO Maxはローンチされていなかった!
ただ、この時点では「まぁどうせまたハリウッド映画によくある中国や韓国と混同された“なんちゃって日本”なんだろうな」と思っていた(少なくとも自分は)
ところが、2020年11月に本作の製作総指揮である映画監督のマイケル・マン(第1話は自ら演出を担当)が直々に小池百合子東京都知事を表敬訪問。
本作がオール東京ロケであることを知って衝撃を受ける。
ちなみにこれはコロナ禍で中断していた撮影の再開に当たっての来日なので実際にはもっと早い時期から東京で撮影は始まっていた。
さらにその約2週間後に本作は日本ではWOWOWが独占放送することが発表される。
「HBO作品だからてっきりU-NEXTかと〜」と書きそうになるが、提携が発表されたのは2021年3月日なのでこの時点ではU-NEXTのことを思い浮かべる由も無いw
いやはや月日の流れは早い。
そして今年4月から遂に放送が始まり、WOWOWオンデマンドでは放送より1週早く最終話が配信されたので先ほど全話を見終えた。
素晴らしかった…!
東京の街の撮り方
本作の舞台は1999年の東京。
そう、90年代の東京。
いや、これがマジで本当に東京なのである!
は?何言ってんの?と思われるかもしれないが、こればかりは映像を見て頂くしかないw
オール東京ロケという基盤に加えて90年代を再現するために美術スタッフが相当心血を注いだのであろう。
劇中の年代は自分は小学生だったので記憶はおぼろげだが「あ、こんな感じの映像をテレビの特集番組で見たことある!」な質感の連打。
また、海外のスタッフによる東京の撮り方も新鮮。
(ただし第4・5・8話は日本を代表するカメラマンの柳島克己が撮影を担当)
中にいると「やっぱり象徴としての東京タワーかな?」みたいに観光名所を撮ってしまいそうだが、彼らの目を通して繁華街や商店街といった日常の中にある東京の街が捉えられている。
首都高や高架下といった普段何気なく見てきた景色も高い技術で撮られるとグッと良いものに見えてくるから不思議だ。
渋谷は渋谷でもスクランブル交差点は使わない。
そこが面白い。
この辺りは韓国の名手であるホン・ギョンピョが撮影監督を務めた『流浪の月』も同様。
こちらも「お、ここを切り取るんだ」みたいな驚きが多々。
日本の街や風景を見慣れていない人の目線を通すと普段の邦画や国内ドラマとは異なるショットになるということなのか。
ちなみに上記のインタビューで個人的に妙に納得した事が。
本作の時代設定は1999年と第1話で明言されている。
ただ、映像から受ける印象は何となく90年代前半っぽいんだよなーと思ってたらそういうことだったのかw
1999年の東京ということで劇中のクラブ店内には宇多田ヒカルが流れていたり。
本作の90年代J-POPの選曲はマジで絶妙。
特に第4話のホストクラブで流れる野猿や第7話のクラブで流れるhitomi!
『CANDY GIRL』は大根仁監督の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』でも使われてましたね。
当時の年間チャート上位に来るような大ヒット曲ではないけれど90年代を象徴するナンバーということなのか。
ちょうど先日の『POP LIFE: The Podcast』でも海外の映画やTVシリーズにあって日本のそれに無いポジションとして音楽監督のことが話題に挙がっていたけど、まさにプロの仕事。
ちなみにHBOドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』はシーズン1の方が好きでした。
ワーナー傘下のHBO製作ということで1999年公開の映画『マトリックス』を観たことをヤクザたちが楽しそうに話しているシーンもw
赤か、青か。
日本が舞台の堂々たるノワール
さて、そんな本作のストーリーは日本の裏社会を舞台とする群像劇形式のノワール。
ヤクザ、警察、新聞記者、ホステス。
映画では絶対に描けない、連続ドラマならではの多層的で複雑に絡み合う人間模様。
いわゆるジャパニーズ・ヤクザというのはギャングやマフィアとも異なる非常に特殊な存在。
裏社会といいつつ堂々と街中に看板を掲げた事務所がある。
警察とは持ちつ持たれつ。
新聞も警察の“指示”で書いていいこと・ダメなことがある。
ヤクザ映画では半ば常識となっているこれらの背景知識だが、新米記者のジェイクが裏社会のルールを一から知っていくという海外の観客にも伝わりやすい構造になっている。
また、その過程をじっくり丁寧に描いているので裏社会の闇に徐々に足を踏み入れて気付いたら引き返せなくなっていたのを疑似体験するような感覚にも陥る。
この辺りは白石和彌監督の『孤狼の血』や藤井道人監督の『ヤクザと家族 The Family』にも通じるものがある。
(前者は『LEVEL2』よりも1作目、後者は特に前半パート)
ヤクザ映画といえば北野武作品も外せない。
ツイートにも書いたが、そんな北野武作品の撮影監督を務めてきた柳島克己を起用するというのも文脈を踏まえた采配でニクい。
本作はある事件が物語の出発点にはなっているが、その事件の真相を明らかにすることがゴールになっているわけではない。
群像劇なので事件とは全然関係ない人やエピソードもたくさん出てくる。
そのためストーリーがどこに向かっているか掴みにくい、というか裏社会にいつの間にかどっぷり浸かってしまった感覚を味合わせるために意図的に脚本をそう組んでいるのだと思う。
前述の東京の描写に続き、海外作品でここまでしっかりヤクザを描いてくれるとは。
近年は韓国ノワールにすっかり押され気味の日本ヤクザ映画だが、やる人がやれば出来るという事実を見せつけられた。
俳優・笠松将の覚醒
本作は海外ドラマだが、日本が舞台なので我々もよく知る俳優が多数出演している。
渡辺謙、菊地凛子、山下智久は英語作品への出演経験あるけど他の俳優は大丈夫なのか…?拙い発音だったら冷めるよな…と心配していたが完全に杞憂だった。
みんな素晴らしい英語の台詞回し。
(1999年の日本で記者も警察もヤクザも誰も彼もが英語を流暢に話せるのはツッコミどころだけど、まぁそこはご愛嬌w)
特に素晴らしかったのはヤクザの佐藤を演じた笠松将。
事実上の主人公というか後半はアンセル・エルゴートを食うほどの存在感。
裏社会の掟と自身の感情の狭間で揺れ動き苦しむヤクザ青年を見事に演じていた。
特に第4話の冒頭、バックストリート・ボーイズの名曲『I Want It That Way』をめぐるジェイクとの会話シーンは夜の東京を走る車の映像美も相まって本作のハイライトの1つ。
一応以前から知ってはいたが、本作によって一気に今後が楽しみな俳優になった。
実は佐藤役は当初は笠松将ではなかったらしい。
当初決まっていたのは鈴木亮平!
しかも撮影は一旦始まっていた!
それがコロナ禍で延期となり、鈴木亮平のスケジュール再確保が困難になったことで笠松将に交代。
今となっては佐藤役は他の俳優では考えられないし、鈴木亮平×ヤクザは『孤狼の血 LEVEL2』が先に公開されて強烈な印象を残しているので結果的には良かったのかもしれない。
笠松将は代役だったと聞いてすぐ「え?当初は綾野剛だったんですか?」と返せるこのインタビュアーさんも素晴らしいなw
最終回の終わり方について
あのラストについて唐突だとか中途半端な終わり方だという声もあるようだが、シンプルに第1話の冒頭と繋がっている(と自分は解釈)
第1話のテロップには「その2年前 1999年」と表示されていたので、2001年まで戸澤組は続いていて、ジェイクと片桐は戦い続けているということか。
ああいう倒置法でフックを効かせる始まり方は「え?何でそんなことになっちゃうの!?」と観客の興味を惹きつける一方で、それ以外の要素への興味が削がれるリスクを伴う。
特に本作のような群像劇なら尚更。
一歩間違えればジェイクと片桐が追う事件以外の話、例えば佐藤とサマンサの恋愛模様がどうでもよくなりかねない。
そこを乗り越えて最終話まで群像劇への興味を持続させた(連ドラだから初回の冒頭を視聴者が忘れたというのを差し引いても)地肩の強い脚本だった。
リミテッド・シリーズと明言されていないのでシーズン2の可能性もゼロではない。
海外のクリエイター陣が東京ロケの煩雑さに愛想を尽かしていなければの話だが…w
<以下、2022/6/8(水)の朝に追記>
シーズン2継続決定!
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