【感想】劇場映画『ハウス・オブ・グッチ』
1/13(木)放送のドラマ『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』第2話で仁和(安藤政信)は言う。
本作もまさにこれである。
誰もが知る世界的高級ブランドであるGUCCIの創業家一族の内幕で何が起きていたのか?
それを知ったところで自分がGUCCIを買うか買わないかにはほとんど影響しない。
でも知りたいし見たい。
ちなみに私とGUCCIの接点はかまいたち濱家ぐらいしかありませんw
ちょうど昨晩の『千鳥かまいたちアワー』の放送にもグッチ濱家の映像がw
本作を監督したリドリー・スコットは御年84歳の大御所も大御所。
代表作を挙げようとすればキリがない。
しかもプロデューサー業に専念して現場からは引退するどころか今なお精力的。
そんな彼の前作は昨年10月に公開された『最後の決闘裁判』
あまり宣伝されてなかったせいか興行的には日本のみならずアメリカでも大コケしたらしい…
いや、批評的には成功してるし、自分もかなり良い作品というか傑作だと思うんですけどね。
そんなわけで劇場公開は早々に打ち切られて昨年12月からDisney+で見放題配信中。
こちらも是非。
これではマズい!と担当者が思ったのかどうかは知らないが『ハウス・オブ・グッチ』の宣伝はそこそこ力が入れられていたように思う。
テレビCMやネット広告を結構見た。
やはりGUCCIという映画を見ない層にも浸透してるキーワードがあるからそこに訴求していこうという狙いなのだろうか。
GUCCI製品を愛している人たちが本作を見てどう感じるのかは若干アレな気がするけどw
そう、本作で描かれているのはGUCCIが世界的ブランドになるまでのサクセスストーリー…ではなく創業家一族の骨肉の争い。
何と実話らしい。衝撃。
このストーリーと脚色の妙だけでも存分に楽しめるのだが、自分が最も印象に残ったのは映像、特に色彩設計と編集(音楽を含む)
本作はファッション映画でもあるわけだが、カラフルな場面は最低限に絞られている。
ちょうど現在公開中でロンドンのデザイン専門学校とショービジネス業界が舞台のエドガー・ライト監督作品『ラストナイト・イン・ソーホー』とは対照的。
あとカラフルな映画で思い浮かぶ人といえばやはりウェス・アンダーソンか。
『グランド・ブダペスト・ホテル』とかね。
最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』が1/28(金)から公開予定。
昨年の東京国際映画祭でひと足早く見ましたがこれも最高に最狂でした。
こういった作品と比べると、ファッション業界が舞台なのに本作の画面は白と黒を基調とした落ち着いたトーンで統一されている。
これは一見華やかな高級ブランドの裏で世にも恐ろしい骨肉の争いが繰り広げられているというストーリーの構造そのもの。
文字通り光と陰。
色彩設計がストーリーに直結するという見事な映像表現。
さらにそれを際立たせているのが編集。
本作はある意味で映画の教科書に忠実というか明暗のコントラストを効かせた編集が徹底されている。
暗いシーンが来たら次は明るいシーン、その次は暗いシーン、その次はまた明るいシーン…
例えばカットを切り替えながら夜のシーンが続くといった演出はあまり無い。
前述の通り画面の色が白と黒で統一されてるから切り替わった際の印象がより鮮明になるんですよね。
あれこそまさしく映画を見る醍醐味。
ストーリーやテーマを台詞で説明するのではなく映像で語っている。
カットが切り替わる度に「明るい!」「暗い!」と映画館でニコニコしてしまったw
さらにさらにこの編集をドライブさせているのがノリノリの選曲。
レディー・ガガという稀代のシンガーをキャスティングできたからなのか「イェーイ!やっちゃうぜぇ!」みたいな良い意味で陽のバカっぽさw
いや、最高なんです。褒めてます。
てか間違いなく確信犯的に狙ってやってるんだと思います。
そんな音楽も合わさった編集と色彩設計で描かれるGUCCI創業家一族の光と陰の物語の中に要所でビビットに画面に差し込まれるのが赤。
真っ赤なスポーツカーや真っ赤なドレスが美しく画面に映える。
これは純粋なビジュアル設計(ずっと白と黒が基調だとさすがに退屈)と血のモチーフとしての側面があるのだろうと思う。
主要登場人物で唯一グッチ家の血を引いていないパトリツィア(レディー・ガガ)が赤を画面に持ち込むと毎回ハッとさせられる。
その赤い彼女という異分子を取り入れたことで男性主義の権化のようなグッチ家が崩壊していくストーリーは『最後の決闘裁判』とはまた異なる角度からの男性主義への批評でもある。
(ただ、本作は男の愚かさみたいなものはテーマとしてそこまで前傾化してないかなとも思う)
御年84歳でこんな映画を撮るリドリー・スコット、キャリアを締めくくるどころかまだまだ未知の扉を開いていきそうだ。恐ろしい。