![マガジンのカバー画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/28138636/165de62be440e6a7f56a7eab25c896fc.jpg?width=800)
- 運営しているクリエイター
2020年8月の記事一覧
「天城山からの手紙」17話
真冬の天城は、騒めきが無くなり、ただ静まり返る。まるですべての時間が止まり、生きる為の情熱も消えてしまった様にだ。暗闇の森を歩いていると、一歩踏み占める度に、15㎝以上ある霜柱が折れて「ザクザク」と森に響き渡る。自然の造形を一歩一歩壊し歩くのはとても気が引けてくるが、暗闇を歩く為の気晴らしには丁度いいのである。そして息が切れてくると、真っ暗なブナの森で、ライトを消し、霜柱の上に、そっと腰を落と
「天城山からの手紙」16話
天城山の冬景色は、なかなか出合う事が出来ない。大雪になると道は寸断され、ちょっと積もったかといっても物足りない。そんないい塩梅のチャンスは、年に数回だろうか。この時期になると天気予報とライブカメラをチェックするのが日課となっている。実は14回目でお話しした命を救われた数時間前に撮影したのが今回の写真だ。この時はまだあんな事が起きるなんて夢にも思わず、夢中になって撮影していたとは恥ずかしい。この
「天城山からの手紙」15話
今回画題に「ブナの想い」と付けたのだが、見る人によって思い方が変わってくるのではないだろうか。私達の住む土地にある天城山は多くの恵みを私達に与えてくれる。改めて考えると、伊豆の大地に立つ天城の存在は私達の宝なのだ。森は私達の計り知りえない時間をかけて、その場所に出来上がっている。たかが少しと木1本を切るのも”時間”という取り返しの付かないものを壊しているのだ。それこそ森を切り開くなんてどれだけ
「天城山からの手紙」14話
ある冬の日に、私は雪の天城で命を救われた。この日、めったにないチャンスを見過ごす訳には行かず、細心の注意を肝に銘じて強行したのである。道行く景色は、すべてが素晴らしくシャッターを押す手が止まらない。入山が午後とあって、帰りのタイミングを計りながら奥へ奥へと吸い込まれていった。慢心もあっただろう。まだ大丈夫と、タイムリミットぎりぎりに帰路に着いた。しかし、いつもの道は、全く別世界でホワイトアウト