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「天城山からの手紙」15話
今回画題に「ブナの想い」と付けたのだが、見る人によって思い方が変わってくるのではないだろうか。私達の住む土地にある天城山は多くの恵みを私達に与えてくれる。改めて考えると、伊豆の大地に立つ天城の存在は私達の宝なのだ。森は私達の計り知りえない時間をかけて、その場所に出来上がっている。たかが少しと木1本を切るのも”時間”という取り返しの付かないものを壊しているのだ。それこそ森を切り開くなんてどれだけの”時間”を無にしてしまうのだろう?写真を撮っていると”人間の欲”がとやかく邪魔をする。どれだけ自分で欲を捨てるかで、目の前の光景はまったく変わってくる。真っすぐに向き合うほど景色はいろんな光で包まれていくのだ。最近は自然と向き合う事は自分と向き合う事ではないだろうか?と思う事もある。そして、この日、陽が暮れた森を歩いていると、森の奥から、滲み出るように光が漏れて来た。なんだろうか?と目を凝らすと燦燦と溢れる街の光だったのだ。この瞬、森に住む者達から問いかけられた様に感じた。「明るすぎやしないか?」私は素直に申し訳ない気持ちで一杯になった。そして、これ以上進むと、きっと自然に見放されるんだろうなと切に思ったのである。果たして自然は、私達を生かすのだろうか?その答えは、これからの私達次第なのだろう。そして、この日ほど、重いシャッターはなかった。
掲載写真 題名:「ブナの想い」
撮影地:伊豆稜線歩道
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF24-105mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離24mm F4 SS 30sec ISO1600 WB太陽光 モードAV
日付:2015年1月12日PM18:53
土屋正英写真集「深淵の森」伊豆天城連山
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