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「天城山からの手紙」14話

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ある冬の日に、私は雪の天城で命を救われた。この日、めったにないチャンスを見過ごす訳には行かず、細心の注意を肝に銘じて強行したのである。道行く景色は、すべてが素晴らしくシャッターを押す手が止まらない。入山が午後とあって、帰りのタイミングを計りながら奥へ奥へと吸い込まれていった。慢心もあっただろう。まだ大丈夫と、タイムリミットぎりぎりに帰路に着いた。しかし、いつもの道は、全く別世界でホワイトアウトしていたのである。危なさを感じた時、人間の心には光と影の想いが根を下ろす。最初は50:50のイーブンなのだが、”冷静”という光を”絶望”という影が食い始めるのだ。普段の自分なら気付くような浅はかな考えをしてみたり、はっとそんな訳は無いだろうと我に帰ったり。それを何十回何百回と繰り返し影が支配していく。まるで諦めと希望を天秤に乗せて、自分で運命を計っているようにだ。積雪も20センチを超え、どこで夜を越そうか?寒さに耐えられるのだろうか?体力も奪われ希望が絶望に食われそうになった瞬、目の前にこの倒木が姿を現したのだ!私は、この木の前で膝から崩れ落ち、目に涙を滲ませた。「ありがとう助けてくれて」なぜなら、来る時に、この倒木を撮影したからこそ自分の帰る道がはっきりと光の筋になって見えたのだ。こうやって私は、命を終えた木に命を繋がれ、天城の山に生かされたのである。


掲載写真 題名:「命の恩人」
撮影地:手引頭
カメラ:Canon EOS5D MARK3 EF24-105mm f/4L IS USM
撮影データ:焦点距離50mm F16 SS 1/50sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2015年2月17日PM14:53


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