問題に向き直ることを教えてくれた『影との戦い ゲド戦記1』|2024,Week39.
この前 X(旧:Twitter)を眺めていて、【私のストレス解消法】と題した投稿が目に留まった。投稿主はサイト制作業界において一目置かれている存在で、普段からビジネス向けのツイートをしている人なんだけど、読んでいてうんうんと頷いてしまった。その投稿の一部分を引用したい。
要するに、早い話が「問題と向き合え」ってことなんだろうけど、僕もこの意見には全面的に同意です。僕もついこの間まで同じような課題を持っていた。休みというのに仕事のことが頭から離れず、あの問題はあのやり方で良かったのかとか、週明けから始まるあのPJT不安だよなとか。おまけにそういうときって問題が重なりやすく、大小様々な問題をいろいろ抱えていました。ついこの間まで優雅にヒマを楽しんでいたのに、少し綻びが生じるとドドドっと問題がやってくる。不思議な話ですよね。
でもあるときに「こんなに悩んでいるのに物事は何も前に進んでいないじゃないか。ああでもない、こうでもないと否定するだけで、僕は何もしていないじゃないか」と思い、少しずつでもいいから問題を解きほぐそうとした。何に自分が詰まっているのか、思い当たるものは何かを紙に書き出してみたり、相談できそうな人に助言を仰いだりとか、本当にその程度だけ。でも、それをするうちに今まで自分の中で抱えていたモヤモヤが吐き出され、人と会話することで勝手に思い込んでいた不安が矯正され、今では少しずつではあるが悩みが軽減されつつあるように思います。とはいえ、悩まないなんてことは無いけれど。ただ、前よりも悩む時間自体は減ったように思います。「あれをすれば解決しそうだよな」とか「あの人に聞いてみたら解決するかもしれないよな」とか。悩むというより「考える時間」が増えたように思います。
『影との戦い ゲド戦記1』
これを書きながら自分でも思い出したんだけど、アーシュラ・K.ル =グウィンの名作『ゲド戦記』の1巻『影との戦い』にも同じようなエピソードがあるので紹介をしたい。僕は今年で28になったんだけど、おそらく、僕らの年代は小説版よりもスタジオジブリの宮崎吾朗監督作品のほうを思い出すんじゃないかな。公開は2006年。あの宮崎駿の息子ということで、かなり話題になりましたよね。当時僕は小学4年生で、友達と連れ立って映画館に観に行って「あれは何の映画だったのだろう?」と頭をひねったことを思い出します。ただ、今回はそちらの映画版ではなくアーシュラ・K.ル=グウィンが書いて清水真砂子さんが訳した、岩波少年文庫のほうです。
『影との戦い』は、主人公であるゲドが大魔法使いオジオンに才能を見出され、魔法学校に行ってさらに力を磨こうとするも、禁断の魔法に触れてしまい自らの<影>を解き放ってしまうという物語。影とは、光があって生まれるもの。同じように魔法の力も危険がつきものだということを、まだ幼いゲドは理解できなかった。それがために影を呼び出してしまい、その影がゲドを苦しめることになる。
ゲド戦記の世界では、生きるものすべてに「真の名」があり、それを教えることは相手に支配を委ねるということになる。だからゲド自身も周りからは「ハイタカ」と呼ばれ、ゲドという名はほとんど知られていない。しかし、影はなぜかゲドという名を知っており行く先々でゲドを苦しめる。
最初は影を打ち倒そうと決意を固めるゲドだったが、見えない闇から攻撃を受けるたびに、その心は弱まっていく。これを初めて読んだのは中学校1年生くらいで闇とはこんなもんか〜とあまり怖さを感じなかったが、仕事をしているとこの「闇」というのが非常にリアルに見えてくる。具体的に何か課題が生じているわけではないが(生じている場合もあるが)、自分が今の仕事にきちんと貢献できるのだろうかとか、クライアントの期待を越えられないじゃないかとか、まだ現象化していないものに対する漠然とした不安感。これは、仕事をしている人間にとって非常に納得するところが多いと思う。
問題へ向き直り、その身体で受け止める。
しかし、そんな折にゲドは、恩師である大魔法使いオジオンにこんな言葉をもらい、影と立ち向かう勇気を授けられる。
「向き直る」とは、身体を動かして向きを変えることをいう。問題や課題に対して、正面から向きあう姿勢をつくること。その場しのぎでいなすのではなく、きちんと取り組む意志を持つこと。これはまさに、冒頭の問題解決の方法と似ているところですよね。もちろん、全ての問題に対して向きあうべきだとか、逃げずに戦えと言っているわけではない。逃げることもまた、一つの戦術であるわけだから。実際に僕自身は結構「逃げグセ」がついているからなかなか耳の痛い話ではあるけれど。ただ、その問題を克服したり乗り越えたりしたいと思うのならば、そのときは問題に「向き直る」姿勢が必要だと思います。
そうして、向き直ったゲドは海の果てまで影を追い詰め、その正体を突き止める。そう、影は自分の傲慢さや驕り、恐怖といったトラウマだったのだ。ゲドはそこで影に自分の真の名である「ゲド」を与え、影すらも自分の中に取り込むのだった。
映画のゲド戦記も悪くないけれど。原作版のほうも…
個人的には映画版のゲド戦記も悪くないけれど、やっぱり原作版のほうを読んでみてほしいと思います。第2巻では、映画にも登場したテナーの幼少期、第4、5巻では青年期が描かれている。
ここまで書いてみて、また読み直したくなってきましたね。新しいのを読むのも良いけど、昔好きだった本を改めて読むのも悪くないなと思います。