[三遠戦_後編]繋がり始める富山の個性 -第8節-
※こちらの記事は
[三遠戦_前編] +/-指標はチームトップ。宇都が果たした正PGの仕事 -第8節-
の後編です。
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今シーズンの富山は各自の役割が繊細に絡み合っている。
誰かの不調が予期せぬ不都合を生む玉突き事故が起こったりするが、
逆に1人のステップアップがチームに様々な相乗効果をもたらす。
そして富山は毎試合、着実に一つ一つの個性が繋がり進歩している。
前編では宇都選手の貢献について解説した。
後編では宇都の躍動によってさらに増えた富山の攻撃パターンについて解説していきたい。
1、宇都・水戸・晴山・BJ・スミスのユニット
GAME2の1Q、残り1:36。
富山は15-16の1点ビハインドの場面。
ここで浜口HCはマブンガとBJを交代させた。
これにより、コートのメンバーは
宇都・水戸・晴山・BJ・スミスになった。
これまで併用の難しかったスリーの不得意な4人選手をコートに出した。
5選手のスリー%
(11/14の三遠戦まで)
晴山 18/45(40%)
宇都 0/3(0%)
水戸 1/10(10%)
BJ 0/2(0%)
スミス 0/0(0%)
これを踏まえるとかなり運用が難しいメンバーであるように思えるが、このメンバーで計3分53秒間戦い10-8とスコアの推移は変わらなかった。
そして25-24とわずかに勝ち越し、宇都とスミスは小野とマブンガへバトンタッチしている。
動画にもあるように、シューター1人のユニットでもハーフコートオフェンスが成立している。
このメンバーのスペーシングは非常に秀逸だった。
これについて解説したい。
宇都の躍動に呼応する富山の忍者
今シーズンの低迷について富山はことあるごとに「若手三銃士が抜けたから...」という意見を持たれるが、
これはどちらかというとチームの再構築、始動の遅れ、マブンガとスミスの不調といった要素の方が大きい。
しかし、水戸健史に限っては若手三銃士移籍の影響を受けていると言わざるを得ない。
彼の昨シーズンのFG%は51.6%(2Pは57.4%)であり、若手三銃士のいたシーズンにキャリア最高の数字を叩き出した。
(↓昨シーズンの水戸選手の記事)
しかし、今シーズンのFGは36.4%まで落ち込んでいる。これは彼の特性によるものだ。
(2Pは47.8%と相変わらず高確率だが)
影は光が強くなるほど濃くなる。
黒子役に徹する彼は味方のスコアラーが目立ち、相手の注意が逸れた時にこそ躍動する。
スコアラーに囲まれれば最高の選手だが、味方が警戒されない状況下では水戸健史の良さは活きないのである。
しかしこの時、一緒にコートに出ている晴山は3FG40%越えの3Pシューターであり、
スミスは2FG66.9%と存在感が戻っており、
今節では宇都もかつての影響力が戻っている。
これにより、昨シーズンに何度も見た水戸選手の忍者のようなプレーが決まった。
これは静止画で切り取ると分かりやすい。
ややシュールな画だが、ノンシューターのスミスと宇都の2人で5人を引きつけている。
その為、水戸のリングまでの道が綺麗に空いている。
“光”が存在感を放っているのでDF全員が“影”から目を離しているというわけだ。
こういった空間を富山の忍者は見逃さない。
そして実はこの恩恵を受けるのはBJも同様である。
ここをさらに論理的に紐解いていきたい。
ノンシューター4人の同時起用が成り立つ理由
スリーが不得意な選手が4人いれば中が狭くなり、ハーフコートオフェンスが成立しない。
多くの人がそう思うだろう。
しかし、このユニットはその常識を覆した。
ここではGAME2の2Q、残り9分のオフェンスを取り上げる。
宇都はスミスのポストに入れようとするが、津屋に捨て気味に守られてパスを出せない。
ここで宇都はハイポストへアタックし、するとさすがに三遠も対応して来た。
ここで、宇都はBJのスクリーンを使いながら逆ウイングで待つ水戸へキックアウトをした。
それと同時にBJはトップからローポストへカットし、水戸からパスを受けてターンシュートを決めた。
通常、こうして両ローポストとハイポストの3箇所をフルに埋めてしまうとオフェンスは狭くなる。
オフェンダー同士が近すぎるため、ボールマンに対して1対2のような形で守られてしまうのだ。
つまりそれは裏を返せば、
・DFを振り切っていること
・その場に停滞せず、すぐに捌けること
この2点が守られていれば1対2で守られることはなく、瞬間的にこういった距離感になる分には問題にならないということ。
DFは基本的にボールと自分のマークを常に視野に入れなければならない。
そのため、“ボールが速く大きく移動したとき”は一旦自分のマークから目を切ってボールを追うことがある。
宇都・水戸・BJはこの瞬間を狙って中へカットし、DFを振り切った状態でこのエリアへ飛び込んでいるため狭くならないのだ。
なにより、これは宇都のようにボールを速く大きく動かすクリエイトでなければ得られない効果だ。
マブンガとスミスのP&R等では同様の効果は得られない。
このユニットのルールをまとめると、
・スミスはローポスト
・晴山は外
・宇都、水戸、BJはローポストとハイポストを順番に使う
というような住み分けをしているということだ。
人とボールが目まぐるしく動き、その中で瞬間的に空いたノーマークへパスが出される。
その中でスミスへのダブルチームも継続しなければならないとなると、これはかなり煩雑なDFになる。
そのため、ノンシューター4人であっても意外に守れないのである。
【結論】BJも忍者。
2、スミス&4アウトをより盤石にするハイ&ロー
富山には“スミス&4アウト”という鉄板セットオフェンスがある。
スミスがローポストで1on1をし、ダブルチームには逆サイドの選手がゴール下と3Pシュートをクリエイトするカウンター攻撃だ。
ガラ空きになった裏へのロブパスは逆サイドの3線が対応するというものだ。
この図でいうと、スミスにDFを2人使ったことで逆サイドが晴山&上澤と岸本の2対1の状況になっている。
ここで晴山と上澤が近い、もしくは2人ともボールから遠いと岸本1人で守れてしまう。
そうさせないように晴山がダイブし、上澤が3Pに備え、相手にダブルチームの代償を払わせる形でイージーシュートを作る。
しかし、これはスミスにボールが入った場合にできるオフェンスである。
三遠は富山のこの方程式を崩すべく、フルフロントという仕掛けを行ってきた。
太田がスミスの前に立ってバウンズパスを切り、ガラ空きになった裏へのロブパスは逆サイドの3線が対応するというものだ。
こうなるとスミスへは入らない。
コーナーの選手がゴール下へカットしてもアリウープ系のパスしか成立しないため、これはできる選手が限られる上にリスクが伴う。
逆サイドのコーナー、ウイングの選手へスキップパスを出しても距離が長いのでDFがローテーションする時間があり、ワイドオープンの3Pシュートにはなりにくい。
そこでこのDFのカウンターとなるのが"ハイ&ロー"というオフェンスである。
別の選手がハイポスト(もしくはトップ)でパスを受け、そこからローポストへ配球する。
ウイングからは直接入らないが、ハイポストに角度を変えればスミスへのパスが通るというわけだ。
GAME1では中々これが出来ずにスミスが太田に上手く封じられてしまっていた。
しかし時間が進むにつれ、これが成功する場面は徐々に増えていた。
これがスムーズにできればより富山のシステムは盤石になる。
しかしこの試合を見る限り、現時点でこの閃きを持てていたのは阿部・宇都・BJ・スミス・飴谷くらいだ。
こうしてDFに応じてセットオフェンスを変化させるには練習を重ね、ゲームの中で瞬間的に閃くようになっていく必要がある。
バイウィーク明けではここは全員が迅速に行えるようにしていきたい。
3、繋がり始める富山の個性
まだまだ粗は目立つが、富山は着実に攻撃の厚みが増している。
それは一人一人がステップアップをしてきたからだ。
プレシーズンから一定の活躍をする晴山。
第2節の東京戦で見せ場を作ったKJ。
第3節からシュート力を見せ始めた上澤。
第4節から復調し始めたマブンガとスミス。
そして今節。
チーム内での自分の役割を見つけ頭角を現した宇都と、それに連動して良さが出始めた水戸とBJ。
各々が出場時間中に自分の役割を果たすことは重要である。
仮に宇都・水戸・BJのユニットが点差をつけられてすぐに交代となっていたら、そのしわ寄せは交代するメンバーにいく。
もしもここでKJのプレータイムが多くなっていたならば最後の決勝点は外れていたかもしれない。
富山がクロスゲームを勝ちきれない流れを絶つことができたのはこういった部分もある。
このように、一人一人のプレーは繋がっているのである。
チームの基盤はある程度出来た。
そして、富山の個性は繋がり始めている。
次はどの選手が躍動するのか。
富山は現時点で4勝10敗の西地区9位だが、ここまで勝率5割以下のチームには負けていない。
さらに言えば初勝利を挙げた大阪戦以降は天皇杯を含めると7勝2敗であり、今の富山に勝ったのはリーグ首位の川崎だけである。
ここから富山の順位が上がっていくのは間違い無いだろう。
バイウィーク明けの天皇杯5次ラウンド。
川崎との再戦で、さらに変化する富山のバスケットに注目したい。
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