[第16節_富山vs島根] ‐宇都選手をシックスマンで起用するメリット-[21/1/2-3]
第16節。富山vs島根は富山グラウジーズが95-75、101-79で勝利し、連勝を4に伸ばした。
前節に引き続き、エースの宇都選手は今節もベンチスタートとなった。
しかし、前節広島戦の不調を踏まえたうえでのやむを得ないベンチスタート起用とは異なり、今回の起用は戦術的なベンチスタート。つまりシックスマン起用だったように思う。
そもそもスタメンの定義は "最初にコートに立つ5人" であり "一番上手い5人" ではない。
そういう傾向があるだけで、チームによってはそうとは限らない。
シックスマンでスタメン以上に得点する選手も世の中には多く存在する。
今節の宇都選手もそういう類のシックスマンだった。
今回は、好調だった序盤の宇都選手と島根について解説した後、有料部分で"宇都選手をシックスマンで起用するメリット"について解説したいと思う。
1戦目。1Q途中に出てきた宇都選手の様子は?
この日、宇都選手は1Qの残り3分52秒にコートインした。
ブースターにとって気がかりだったのは宇都選手のプレーに自信や積極性が戻っているかだった。
しかし彼がコートインした直後、富山に2回連続でターンオーバーが発生してしまう。
これは奇しくも宇都選手がスタメンを外れるきっかけになった前節広島戦のGAME1の4Qと同じ流れだ。
2回目のターンオーバーでは島根に速攻を出され、セーフティは宇都選手1人の状況。
ステップを切り、オーバーハンドでダンクモーションに入ったトラビス選手に対し、宇都選手は正面からブロックに行く。
ダンクは阻止したものの、これは惜しくもファールとなった。
しかし、外国籍選手にもブロックに跳ぶその姿はいつもの強気な宇都選手だった。
さらに続くオフェンス。
次もターンオーバーとなれば3回連続となり、最悪タイムアウトも考えなければならない場面。
PGの心理としてはなるべく味方とボールをシェアしつつ、最低でもシュートで終わりたい場面だ。
しかし、宇都選手はそれとは真逆のオフェンスを選択する。
ボール運びから一度もボールを離さず、ミドルレーンの密集地帯、ターンオーバーと隣り合わせのゾーンへドライブを仕掛ける。
山下選手に覆いかぶさられながらも2点を押し込んで強引に流れを切ると、この強気なプレーに後押しされるように他の選手達にも積極性が灯る。
宇都選手投入後、富山は最初こそ2連続ターンオーバーとなったが、なんとそれ以降の6回のオフェンスでは5回成功して10得点を記録
さらにそのうち3回の得点は宇都選手のドライブである。
ベンチスタートながら完全にチームのファーストオプションとなってグラウジーズを牽引していた。
ノンシューターを活かす"時間差ペイントアタック"
浜口HCは宇都選手とインサイド陣を共存させるオフェンスを前節の広島戦でも試していた。
このオフェンスについては記事の有料部分でも触れたとおりだ。
(前節の記事→ https://note.com/masafu1030/n/ne3ab6d3b1f28#E4XkG )
しかし浜口HCは今節、これに加えてさらにもう1つのオフェンスをデザインした。
それがこちらの"時間差ペイントアタック"である。
【動画解説】
①マブンガがオフボールでポストへフラッシュ→DFが外へと連れ出され、次はソロモンのドライブ
②松脇がペイント内へカット→DFが外へと連れ出され、次は宇都のドライブ
③岡田のドライブに宇都が合わせでダイブ→パスのタイミングが流れたのでさっさと掃ける→DFが外へと連れ出され、次はソロモンのダイブ
チャンスがあれば誰でもオフボール、オンボールに関係なくペイント内を使いたいもの。
しかし、自分のカットが味方のドライブと被ってしまえば、味方のドライブコースに自分のDFを連れてくることになってしまう。
ならば、タイミングをずらせばいい。
ペイント内を使いたい選手が多くても、時間をずらせば問題ないのだ。
住宅でも、オフィスでも、誰かが共有スペースに居座り続けていたら皆が困る。だから共有スペースは皆で譲り合って使うのがマナーだ。
この発想に近い。
これならばノンシューターの宇都選手やスミス選手、ペイント内で暴れたいマブンガ選手やソロモン選手も共存しながら持ち味を出せるというわけだ。
富山の球泥棒
決して悪くなかった島根
島根スサノオマジックのストロングポイントはブルックス選手とトラビス選手だ。
2人とも中と外の両方から点が取れ、機動力の高いビッグマンである。それは得点面からもわかるように、1戦目では75得点のうち、43得点をこの二人が占めている。
そうなると、ウイング陣が彼らのマークを引き付ける脅威をどれだけ与えられるかがポイントになってくる。
それは島根もわかっているようで、阿部選手、白濱選手、杉浦選手らがファーストオプションを担う機会を増やすべく、"アレンアイバーソンカット"(※)という動きを導入している。
※アレンアイバーソンカット(通称AIカット)
NBAの76ersというチームのレジェンド、アレン・アイバーソンが使っていたことからこの名がついた。
ちなみに富永啓生選手率いる桜丘高校もこれを使用していた。
ウイングの選手がハイポストのスクリーン2枚を使って逆サイドのウイングへとカット。
↓
その間にもう一人のウイングは入れ替わるようにゴールの裏を通って移動することで自分のマークを連れ去ってスペースを空ける。
↓
そしてボールを受けたウイングが広いスペースを使って勝負する。
こういった取り組みもあり、実は島根の日本人選手の平均試投数は富山と遜色ない数字なのである。
両チームの日本人選手の平均試投数と平均得点。
1戦目 富山5.5本(9.4pt)
島根6.0本(5.2pt)
※出場時間5分以下の選手は計算から除外
これらを踏まえると()内のスコアの差からもわかる通り、決定力や仕掛けの質を上げる必要があるということになってくる。
そして、この点を改善したのが2試合目だ。
2戦目 富山5.8本(9.4pt)
島根5.5本(8.3pt)
試投数をそのままに平均得点が伸びていることがわかる。
杉浦選手を筆頭に6人の日本人選手がスコアを伸ばし、1戦目で26得点にとどまった日本人選手の得点が2戦目では50得点まで上がったのである。
2戦目ではブルックス選手がファールトラブルになったこともあり、4得点しか上げられなかったが、その穴を埋める力があることを日本人選手達は証明できた。
後半、なぜ点差が開いたか?
しかし、それでも後半富山に離された。
これには2つ理由がある。
1つ目は後半のゾーンディフェンスだ。
富山のスリーが後半に突然入りだしたのは偶然ではなく、島根のゾーンディフェンスのシステムにミスが頻発したのだ。
1人のペネトレイトに3人集まってしまったり、裏から逆サイドのコーナースリーへ移動した選手に気づかなかったりと富山のシューター陣相手には命取りとなるミスが多く出てしまった。
これにより失点が増えたのが1点目だ。
2つ目は各オフェンダーの連動の弱さだ。
この映像ではたまたま2回ともトラビス選手だが、他にもブルックス選手やフォワード人にもこのような"1on1中にフリーの選手を見逃すプレー"が散見された。
特にこういったインサイドプレーヤーとアウトサイドプレーヤーの繋がりが途絶えるケースは後半に増えていた。
序盤やクォーターの始まりであれば、事前にフォーメーションを打ち合わせることでこの不安定さは補える。しかし、後半の長くラリーが続いた場面では、チームにどれほど共通認識が習慣付けられているかがものを言う。
これによって得点も止まり、点差が開いた。
逆を言えばこの2点が改善され、そこに橋本尚明選手が戻ったとすれば、4月の第31節の島根戦は今回ほど楽にはいかないだろう。
このチームは侮れない。
宇都選手をシックスマンで起用するメリット
冒頭でも話したように、スタメンとは1番上手い5人というわけではない。
上手い選手を敢えて途中から出す方が良い場合もあるのだ。
浜口HCのデザインする、富山のスタメンからシックスマン宇都へのリレーは見事だ。
シックスマンの役割はよく起爆剤や、戦況を変えるなどと言われたりするが、このシックスマン宇都はもっと明確な理詰めのメリットがある。
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