ネコ好きな人にオススメしたいゲーム - 『のらねこものがたり2: お外は危ないよ』
『のらねこものがたり2: お外は危ないよ』は、迷子になって帰れなくなった飼い猫の「シナモン」となり、路上で野良ネコの生活を体験するアドベンチャーゲーム。食べ物を拾い、狩りをして空腹を満たすサバイバル生活をしながら、全10章のメインストーリーを楽しもう。さまざまな事情を抱えた野良ネコや人間にプレゼントをして交流を深め、サブクエストを達成していく楽しみもある。
本作はPC版がSteamで発売中で、ウィンターセールに参加。また、Nintendo Switch版の発売も予定されている。
この記事は「ゲームとことば Advent Calendar 2023」の企画に向けて書いたもの。「ネコ好きな人にオススメしたいゲーム」として本作をご紹介したい。
なお、開発元PPIYO STUDIOの代表HACOBE氏は、翻訳者のクレジット記載に協力してくださった、ありがたい方である。日本語翻訳の担当は、フリーランス韓日翻訳者の「ふじこ」さんこと、向井志緒利氏(向井氏のブログ)。
筆者は本作に関して開発者と翻訳者が交流を持てるように協力しており、韓国のインディーゲーム展示会でHACOBE氏と向井氏が対面する場に同席させていただいた。こうした交流もインディーゲームの良さの一つだと感じたので、この記事に書かせていただければと思う。
ネコ同士が仲良くなって可愛い!
先に、ネコ好きな方に向けて本作の可愛いポイントをご紹介しておこう。
まず、シナモンが飼い主のヘーゼルお姉ちゃんと会えなくなって寂しがる姿が切ない。どうかプレイヤーのみなさんに、健気にずっと飼い主を探し続けるシナモンを導いてあげてほしい。
シナモンが身を寄せる野良ネコのアジトには9匹のネコがいる。他にも、街に出れば人間、イヌ、その他の動物のキャラクターもいて、会話やプレゼントをして仲良くなれる。キャラクターごとに用意されたサブクエストを進めていきながら、それぞれの事情を知り、相手の心に寄り添うような温かい交流ができるだろう。
相手の好きなものをプレゼントすれば、可愛い笑顔を見せてくれる。恋愛ゲームではないのだが、コツが分かってくると、プレゼント攻勢で次々とキャラを攻略していくのが楽しくなってくるはずだ。
野良ネコと住民たちの関係を考えさせられる
本作は、野良ネコをめぐる社会問題を題材として扱っており、ゲームを起動したときの注意書きに「この作品はストーリーの流れ上、動物虐待を連想させる場面が含まれています」と書かれている。
ネコがひどい目に遭うのを見るのがツラい、という理由で購入を迷うプレイヤーもいるかもしれない。多少ネタバレになるが説明をさせていただきたい。
例えば、見知らぬ子ネコの遺体が公園で見つかるという事件が発生する。ただし、白い布がかぶせられてネコの姿はほぼ見えないようになっており、血の描写もない。
公園に姿を見せた不良少年たちは、近所迷惑な動物は減ったほうがいいと言い、事件への関与を疑われても気にせず開き直っている。
この不良少年たちが悪意のある人間として描かれる一方で、善良な人々が子ネコの遺体を丁重に埋葬する描写や、公園の管理人が不良たちを注意して秩序を守っている描写もある。
ネコ好きな方々の気持ちを代表しているかのように、ネコと良い関係を築いていく人間も登場するので、どうか安心して結末まで見守っていただければと思う。
さらに、シナモンと知り合いのネコたちも被害に遭ってケガを負うのだが、知り合いのネコの命が奪われるようなことはなく、物語はシナモンの仲間たちが幸福な結末を迎えられるように進んでいくということは、あらかじめお伝えしておきたい。
どんどんお腹が空く!食べ物探しで忙しい日々
基本のゲームシステムも説明しよう。時間の経過と共に「満腹度(Hunger)」の数値がどんどん減っていくので、ごみ箱や茂みをあさって食べ物を探し、ネズミなどを狩ってなんとか食いつないでいかなければならない。
ごみ箱からは主に「生ごみ」などが手に入る。食べると満腹度は増えるが、HPが減ってしまうので注意が必要だ。
まともな食べ物を手に入れるには狩りをしよう。ネズミやカエルなど、近づいてくる敵を迎え撃つようにして攻撃すればいいだけなのでシンプルだ。獲物を食べて満腹度を回復させよう。
ポイントは、何かを攻撃するとシナモンの満腹度が減るということ。活発に狩りをして、木箱を壊して探索もしていると、お腹が空くのも早く、そのぶん何度も食事をして補うことになる。
おすすめは、攻撃しなくても食べ物が手に入る場所をたくさん回ることだ。ごみ箱しかない道路沿いよりは、アイテムの手に入る茂みがたくさんある場所を見つけて、そこに毎日のように通ったほうがいい。
また、初期状態では持てるアイテムの数が少なく、すぐ枠がいっぱいになってしまう。のちに何かに使えそうな素材やクエスト用アイテムを大事に持っていると、食べ物を持ち運ぶスペースが足りない。
市場の西にある「繁華街」エリアに行けるようになったら、お店に素材を納品してアイテムの所持数を増やすアップグレードができる。ごみ箱をあさるだけでなく、茂みを調べたり、木箱を壊せることを知っていれば素材は集まるはずだ。
各種のアップグレードを取得し、行けるエリアも広がれば、食べ物を確保しやすくなっていくだろう。アジトにある寝床をアップグレードすれば、何度も休むだけで体力も満腹度も最大まで回復できる。日数が経過しても困ることはない。むしろ、きついと感じるのは序盤だけかもしれない。
倉庫番パズルの下水溝を通って新しいエリアに!
市場から西に行くと「繁華街」、東に行くと「公園」。隣接するエリアに向かう道路は、最初は通行止めになっているが、下水溝の通路を通って新しいエリアに行くと、その後は通行止めが解除されて行き来できるようになる。
下水溝の通路は、「倉庫番」パズルになっており、箱を押してスイッチの上に載せて、仕掛けを作動させて進む。
少し気になる点は、この倉庫番パズルの難易度である。たしかにパズルゲームよりは解きやすく設計されているようだが、倉庫番パズルをやったことがない方にも解けるかがやや心配だ。可愛いネコのゲームだと思って本作を手に取った方が、パズルを解けずに進めなくなることもあってもおかしくない。
しかも、パズルに苦戦してあれこれ試しているうちにも満腹度は減っていくので、食べ物を確保していなければ飢え死にしてしまいかねない。いくつかパズルを解いて、奥の部屋までたどり着いてから死んで戻されるとツラい。パズルに挑戦する前に、アジトの寝床でセーブしておこう。
開発者がゲームに込めた思いを知りたい
筆者が本作を今年のうちにプレイしておきたいと思ったのは、開発者がどんな思いを込めてゲームを完成させたのか、興味があったからだ。ただの可愛いゲームではなく、野良ネコをめぐる社会問題に向き合い、メッセージを込めつつ、愛情も感じられるゲームを作るという試みは、見ていて応援したいものだった。まず筆者がプレイして人に伝えていきたい。
先述の通り、PPIYO STUDIOの代表HACOBE氏は、翻訳者の名前をクレジットに記載してくださった。英語圏ではクレジット記載がなければ「フェアではない」と批判されることもあるが、韓国のゲームで日本語翻訳者の名前が公開されたケースは極めて少ない。本作の日本語翻訳を担当した向井氏は、80作品以上(現在は90作品以上)の翻訳に関わったとプロフィールに書いておられたが、自分が翻訳したと公言できるようになったゲームは本作が最初である。韓日ゲーム翻訳者がどれほど守秘義務契約に縛られているかが、うかがえる。
HACOBE氏は、翻訳者をクレジット記載するのが当然のことだと思って翻訳会社に問い合わせたという。「1ヶ月間一生懸命翻訳してくれて、翻訳者の方々もゲームを一緒に作っていく方々として当然のことだと思って記載しました」と述べていた(HACOBE氏のコメント)。偶然、その翻訳会社が協力的で、ゲーム開発者から問い合わせがあれば名前を知らせるという方針だった。
筆者がお手伝いしたのは、本作のPC版が2023年6月に発売された時に、クレジットを確認して、翻訳者の名前が載っていると気づき、開発者と翻訳者が知り合って連絡を取り合えるようにしたということである。
8月にプサンで開催されたBIC Festivalに筆者が取材に行った際は、向井氏も会場に来ておられて、PPIYO STUDIOのブースでHACOBE氏にお会いして直接お礼を言っておられた。その後、12月の展示会に本作が出展された時もブースにご挨拶に行ったと聞いている。
本来は、こうして展示会に行けば開発者に会えるというのが、インディーゲームの良さだと筆者は思っている。特に韓国の場合は距離が近いので、お互いの国を行き来しやすいし、フリーランス韓日翻訳者には韓国在住の方も多い。
それでも大半は秘密保持契約に縛られて、開発者と翻訳者はつながりを持てないというのが実状だが、一方で、韓日ゲーム翻訳においても、フリーランス翻訳者の方々がインディーゲーム展示会を見て回るという新しい試みが始まっている。
そのきっかけを作ったのは、野良ネコの境遇に心を痛めてゲームを作った、心優しいインディ―開発者だったということをここに記録しておきたい。良いきっかけをくださったことに感謝を込めて。
そんなHACOBE氏のチームが作った『のらねこものがたり2』がどんなゲームに仕上がっているか、興味を持っていただければ嬉しい。
のらねこものがたり2: お外は危ないよ
開発:PPIYO STUDIO
販売:CFK Co., Ltd.
配信日:2023年6月2日 / 日本語有り
定価:1,540円(Steam)