夜警のアバター
夜中に何度もトイレに立つ
トイレを出るたび妻のベッドの横に立ち
掛け布団を整える
妻はぼくの気配で目を覚ますと
夜警さんおつかれさま
と言うが
今夜は
起きてるよ
って言う
夜中に目覚めて眠られないと
昼寝のし過ぎだよ
とぼくが答える
温かいものを飲みたい
と言うので生姜湯を作る
小さなスプーンに少しづつすくい
何度も口元に運ぶ
美味しいと妻
気持ち良く寝られると言う
自分の寝床に戻る前
外気に触れようとぼくは窓を大きく開ける
目の前に満月が浮いている
満月にたじろぐ快晴の午前四時
まだ暗い
瞬く星もない
流れる雲もない
まるで作為的にシンプルな風景
メタバースな風景の中に
こちらに近づいてくるアバターたち
夜警の作るアバターは
みんなぼくの友だち
同い歳の二人を除いて
みんな年下
ぼくに年上の友だちはいない
癌で逝った友だちが多い中
飛び切りに若い友だちは自死
彼らは手を繋ぎ
踊るように近づいてくる
ハウスパーティのような笑顔あふれる
メタバース
つい先月急病でそのまま逝ってしまった先頭の友だち
がぼくにグッと手を伸ばす
ぼくはピシャリと窓を閉ざす
改めて
妻のベッドの横に立ち
妻の伸びやかな寝息に聞き入る
如何やら
我が家にカタストロフィはまだ来ない
(2023/01/07)