何時間も音楽に揺れ動き 疫病に罹るように ビートに罹る身体 グルーブに罹る魂 午前4時 ダンスフロアはトランス状態 そのフロアを後にして 夜明け前の公園に急ぐ アメ村スクエアビルの地下から 地上への階段を一気に駆け上がると 一陣の風が桜の花びらを運んでくる 熱くハグを交わした女子たち 熱くハグを交わした男子たち その感触の残り香が 桜の花びらとなって体を覆う ビートに罹った身体 グルーブに罹った魂 を愛おしく抱きながら ぼくは歩く 去年 春の冷たい夜明け前 一匹の雄猫の屍骸
もうすぐクリスマスだし その後すぐに正月だから 妻は何か少し派手なことをしようと 知り合いのネイリストに頼んで マニュキアをしてもらった メイクをしたことのない妻だが 色はこれしかないよと言い 濃い赤の茜色 食事の時はちょっと華やいだ空気が流れて ぼくもいいな って思った でも 介護をしていて股間を拭うとき ネイルの茜色が刺すように目に飛び込んでくる そのときキツい虚しさに襲われ 除光液を買いにコスメショップへ走った コスメショップへ急ぎながらぼくは17才に見た映画を思った
夜中に何度もトイレに立つ トイレを出るたび妻のベッドの横に立ち 掛け布団を整える 妻はぼくの気配で目を覚ますと 夜警さんおつかれさま と言うが 今夜は 起きてるよ って言う 夜中に目覚めて眠られないと 昼寝のし過ぎだよ とぼくが答える 温かいものを飲みたい と言うので生姜湯を作る 小さなスプーンに少しづつすくい 何度も口元に運ぶ 美味しいと妻 気持ち良く寝られると言う 自分の寝床に戻る前 外気に触れようとぼくは窓を大きく開ける 目の前に満月が浮いている 満月にたじろぐ快晴の
メロディアスなハウスミュージックの流れる部屋で 安ウィスキーを飲みながら 正月三が日が終わった 特別な三日間だった 妻の朝の身支度の毎日のヘルパーが来ない ゆるゆると寝ていた特別な日々だった ゆるゆると起き出して シャワーを浴びアロマオイルをブレンド ホホバオイルに ジンジャー ラベンダー 全身をマッサージ それから妻を起こして ゆるゆると朝の身支度 入念に股間をぬぐうとき 終わりなき日常を生きろ と 誰かが囁く ゆるゆると妻の身支度が整う と もう昼前 窓を開けると快晴の青