【読書録21】オンラインもオフラインもなく、顧客に最適のインターフェースを提供すること~藤井保文 尾原和啓「アフターデジタル」を読んで~
発行されたのが、2019年3月と3年近く前。世の中的には、いまさら感があるのかもしれないが、控えめに言って、めちゃくちゃ面白かった。
中国のデジタル先進事例を知ることができることを期待して手に取ったが、今後の企業の競争原理に対する理解や物事のとらえ方を大きく揺すぶられた。カスタマージャーニーとか、今まで散々耳にしてきたが、その意味するところなど自分は全く理解していなかったことが分かった。
コロナ禍を経験して本書の本質的な部分を実感として理解がしやすい環境となっているだろうが、本質的な課題は変わっていない。
ビービット・藤井氏の課題意識
著者の一人である藤井保文氏は、中国で、企業のデジタルUX推進コンサルティングを行っている。彼の課題意識は、日本のビジネスパーソンは、「デジタルが完全に浸透した世界をイメージできていない」ということである。
日本の取り組みは、どうしてもオフラインを軸にして、オンラインの活用をするという発想であるという。(例えば、無人レジを一部で導入するとか、オンラインでも実店舗のようなものをつくるなど)
一方で、中国をはじめ世界では、オンラインとオフラインは、主従逆転しており、「従」となった、オフラインを信頼獲得可能な顧客との接点と捉えている。
そして、このようなことができるようになったのは、Iot/センサーによりあらゆる行動がオンラインデータ化され、顧客接点データが膨大になったことが背景にある。
他国の事例を挙げて「日本は、ダメだ!!」という論調は、よく聞く話であるが、体系立てて「アフターデジタル」な企業や社会がどうあるかを説明するための例示として、中国の事例を挙げているという印象をもった。
ただ2000年代初頭に香港に駐在し、そのころの中国のイメージが強い私にとっては、挙げられた中国の事例に圧倒されたのも事実である。
「モノ」から「コト」へでは、本質をとらえられない。
「消費は、モノからコトへ」と長く言われているが、それでは、アフターデジタルの社会の本質をとらえきれていないという。使うべきは、「顧客体験」や「ジャーニー」という言葉であり、Keyは「長い間ずっと寄り添い続けるビジネスモデル」とのこと。
本書では、その例として、「スニーカー」の販売の例を挙げる。
そのような社会では、
・「デジタル」ツールではなく、もはやリアルの方が「ツール」に
・デジタルやオンラインを「付加価値」として活用するのではなく、
「オフライン」と「オンライン」の主従逆転した世界という視点
・リアルよりデジタルの方がマッチング度高い
「マッティング度」が高まるという話は、コロナ禍でオンライン化が進展したことで、今までは、決して知り合えなかった、共通の関心をもった、様々な場所に住む、様々な世代の方と知り合えたことで、実感するところである。
リアルアセットの持つ意味は?
それでは、リアルチャネルをもつ意味はあるのであろうか?著者は、リアルチャネルは、密にコミュニケ―ションとれる貴重な接点であるという。
リアルという場には、より高い体験価値や感情価値が求められ、十分に強みを発揮すべきポイントとなる
つまり、ロイヤリティを高める主要なツールある。デジタル接点が増えているからこそ、「レアな接点」に価値がある時代なのだ。
著者は、顧客との接点の持ち方として、以下の通り分類するが、「ハイタッチ」な接点としてリアルでの接点も不可欠なのである。
オンラインもオフラインもない。あるのは「ユーザーインターフェース」
オンライン、オフラインの優劣と言うよりも、モバイルもPCもコンビニ(リアル)もユーザーインターフェースの一つであり、顧客はその時最も便利な方法で買い物するだけなので様々な選択肢を提供するというのが本質である。
それが、オンライン企業がオフライン店舗を持つ理由である。そして、行動データという、オフラインでした獲得できないデータを取得する。データをできる限り集め、フル活用してプロダクトとUXを如何に高速に改善できるかが競争の原理になるという。
著者は、アフターデジタルを一言で、OMO(Online Merges with Offline)という言葉で表し、OMOにおいて重要な考え方を端的に「ユーザー起点の思考法」であるという。
データをUXとプロダクトに返すというのは、データを「公共財」と捉える考え方にもつながる。
データを公共財として捉えるというのは、データを資源と考え、水や電気と同じインフラであり、データを提供することにより、より良い生活、より良い国にしていこうという考え方である。
日本企業にありがちな思考の悪例
一方、日本企業において表面だけデジタル化を志向している日本企業の陥りがちな悪例として以下を挙げる。たしかに、この手の議論を新聞・ビジネス誌で見かけるので納得感ある指摘である。
そして、著者が日本企業に必要なこととして、「エコシステムxOMO」という概念を挙げる。
アフターデジタル時代のビジネス原理
著者は、そのような日本企業がとるべきデジタルトランスフォーメーションの道筋として、以下の2つのビジネス原理を挙げる。
(1)高頻度接点による行動データとエクスペリエンス品質のループを回す
『ループ』とは、
・エクスペリエンスの良さで優秀なユーザーと良質なデータが貯まる
↓
・得られたデータでエクスペリエンスをさらに良くしてユーザーにお返
しする
↓
・さらに良いデータ貯まる
『良いエクスペリエンス』とは、
ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチ それぞれの接点で異なる体験を
提供し、バランスよく配置・設計すること
(2)最適なタイミングで最適なコンテンツを最適なコミュニケーション
で提供
ビフォアーデジタルの時代には、「製品単体で価値提供するしか無かった、顧客とのコミュニケーションが、「体験」全体での価値提供が可能になったことである。
アフターデジタル時代の産業構造
競争原理が変わる中で、産業構造も大きく変わるという。アフターデジタル時代には、顧客との接点を持つことで「データ」を持つことでてこの原理を働かせるため、顧客との接点を持つ企業が強い。
産業構造が、製造業主体の「バリューチェーン」型から「バリュージャーニー型」に変わるという。
その産業構造化で、求められる企業改革のキーワードを挙げると以下のようなことである。
最後に
まだまだ日本企業は、従来型のビジネスモデルで戦っていると言わざるを得ない。従来型の日本企業がそのリソースを組み替えて、アフターデジタル型に大きく舵を切れるのか?まだまだ壁は厚い。カスタマージャーニー型を目指して、企業提携も進むが、データの共有化をどこまでできるか、そして何よりもそのデータを使って価値創造して顧客に返せるか、課題は大きかろう。
本書からの学びをどう活かしていくか、日本企業に問われている。