【人材開発研究大全⑩】第1章 採用 服部泰宏
10回目となる今回は、第1章に遡って、採用についての論考を取り上げたい。
欧米における「採用研究」を踏まえて、日本の特殊性(前提の違い)を浮き彫りにしていく論考がなかなか興味深かった。
欧米と日本では、ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用と人と職務の結びつけ方が異なる中で、その入り口である採用のあり方も異なり、採用研究の方法も異なるのも当然といえば当然かなと思う。その違いがどのようなものかをしっかりと認識できた意義は大きい。
また数年前まで採用を担当をしていたため、「なるほどな」と身近に感じる部分も多かった。
欧米における採用研究
著者は、採用に関する欧米の産業・組織心理学者によって行われてきた研究蓄積を以下の2種類に分類する。
(1)リクルートメント研究の例としては、既存の71の実証研究を対象とした、Chapman et al.(2005)のメタ分析を以下のように紹介する
たしかに自分のことを考えても、採用過程における、リクルーターや採用プロセスの良し悪しの影響は大きいと思う。
(2)セレクション研究では、どのような採用手法が将来の仕事業績をどの程度予測するかということに関する研究が蓄積されているとして、Ryan&Tippins (2004)の研究を以下のように紹介する。
非構造化面接よりも構造化面接のほうが将来の業績予測力が高いというのはなぜだろうか?相対評価がしやすいからであろうか?
日本の「採用研究」
一方で、日本では、経営学および産業・組織心理学の視点に立った研究は極めて少ないとして、日本の採用上の課題を3点にわけて浮き彫りにする。
各々についてもう少し具体的に見ていくと以下の通りである。
(1)曖昧にされる期待
この背景には、以下の2点があるという。
①入社後にどんな仕事に従事させるか、どんなキャリアを歩ませるかが採用時点で明らかでないという日本企業のキャリアマネジメント上の特徴
②募集段階でできる限り多くのエントリーを募りたいという日本企業の採用上の特徴
(2)曖昧で画一的な能力評価
日本企業は、採用後、仕事をしながら教育訓練(OJT)によって育成されるという前提から出発するため、採用時点で「優秀な人」ではなく、採用後に「優秀な人」になるための訓練コストが低い人材、「訓練可能性(Trainability)」の高い人材を採用することを望む特性があるという。
この訓練可能性のシグナルになってきたのが学歴であるというが、このようにとらえると、就活で学歴を指標として使ってきたのは理解できる。
一方で、日本企業が重視する能力が、大きく変容してきているという本田(2005)の研究を紹介するが、とても興味深い。
【従来】基礎学力としての能力と、組織における順応性や協調性を高く評価
【2000年代はじめ以降】対人能力、知的能力、創造性といった「ポスト近代型能力」へとシフト
(3)曖昧さの帰結
(1)(2)で指摘した、採用時の相互期待の曖昧さ、能力評価の曖昧さが、各企業の採用活動の同質化と密接に関わっていると指摘する。
同質化には、以下の2つの側面があるという。
①企業が評価する能力の同質化
「対人関係能力が高く、物事に挑戦するエネルギーを持った人材を求めている
②各企業が実施する採用活動の中身の同質化
この3つは相互に関しているだろう。確かに、結構曖昧で、結果として企業間の差別化が難しく同質化しているなあと思う。
欧米との前提の違い
著者は、以上のように欧米と日本の採用研究の違いが生じる理由を、こういう。
リクルート研究でもセレクション研究でも、以下を前提としていると指摘する。
私なりの理解では、「ジョブ型雇用」を前提とする欧米では、その定義がはっきりしているが、「メンバーシップ型雇用」の日本では、何をもって「優秀」とするのが曖昧で、他企業と同質化しやすいという事なのかなと考えている。
本章における研究
企業の採用意欲が旺盛であった2016年卒採用において、日本の各企業がどのように動いたのかについて調査した。
結論としては、以下の通りであったという。
③の「新しい採用」のバリエーションとしては、以下の表のような調査結果であった。
この「新しい採用」のバリエーションの分析を通じて、このような新たな取り組みは以下のような意義があるのではないかとする
①新しい「優秀さ」を作り出す
今まで、優秀さが曖昧な中、「図らずも」採用できていた優秀な人材を意図的に、戦略的に、採用できるようにしようとする取り組みであるとする。
今後の研究課題ついて、企業が新しい採用によって生み出した新しい「優秀さ」はどのような意味の「新しさ」で、面接やテストで測定する能力とそのツール、およびそのツールと優秀さの間の関係などを挙げる。
②採用と育成の接近
新たな取り組みとして、一部の求職者との間で濃密な関係を築くというのがあるが、その最たるものが採用の育成化であるとする。
そして本章を以下の通り締めくくる。
感想
どんな人材を優秀とするのか?「評価」をするということは、人材の「価値を創り出す」ことでもある(Vation 2013)というのがとても興味深かった。
企業の採用、「採用研究」と一言で言ってもいろいろな研究があるものだと思う。
本章の研究のベースとなった2016年卒採用から時間がたち、新たな動きはいろいろと出ており、企業と求職者の期待の相互の曖昧さに、本質的な変化があったか?
求職者の意識や人口減に伴う人手不足の状況を考えると、まだまだこれから大きく変化していくのかなと思う。
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