【読書録57】絶頂期に表れた凋落の芽~T・グリタ T・マン「GE帝国盛衰史」を読んで~
本書を読んだきっかけ
世界最強企業と言われたGEがなぜ衰退したのか?その原因やプロセスを知りたい思い手に取る。
ビル・ゲイツが、絶賛しているというのも興味を惹いた。
原書のタイトルは、Lights Out Pride,Delusion,and the fall of General Electric。直訳すると「明るみにでる~GEの誇り・妄想・凋落~」という感じであろうか。
企業の存在意義は何か?
本書の感想を一言で言って、面白かった!!
企業の存在理由(Purpose)やガバナンスについて大いに考えさせられる書であった。
くしくも、先日、京セラ創業者の稲盛和夫氏がご逝去されたというニュースが届いた。
「全従業員の物心両面の幸福」を企業理念として掲げ、会計を経営のど真ん中に置き、「キャッシュベースの経営」を唱える。
本書を通じて見えてくるGEという世界最強企業の転落を考える上でも、稲盛氏の経営哲学は参考になる。
企業価値を高め、株主への還元を積極的に行うことは悪いことではない。また毎期成長を目標として掲げ、それに懸命に取り組むことも悪いことではない。
しかし、それをどのような手段で行うのか?何のために行うのか?
企業の存在意義について考えさせられる。
GEのCEO
20世紀最高のCEOとも言われるジャック・ウェルチからCEOの座を引き継いた、ジェフ・イメルト。就任早々、9.11を経験するなど、波乱の船出となる。
ジェック・ウェルチ流のストレッチ目標、CEOへの権限集中による異論をはさませない独裁体制。
それが、金融部門を活用した会計トリックへの過度の依存、マーケティング偏重という企業文化の変遷を生み金融部門と製造部門の企業文化の分断という状態を招く。
JPモルガンのアナリスト、スティーブ・トウサはGEの評価を格下げした際にこう指摘した。
まさに東芝などでも発生したことである。
また、異論を許さないCEOへの権力集中という構造は、アストロムの高値買収という失策につながった。
本書では、CEOが取締役会会長を兼ねるというガバナンス体制の問題を挙げる。確かに異論をはさめない体制になっていることの象徴であろう。
ジャック・ウェルチからジェフ・イメルトへのCEO交代後の企業価値の低下は時代の流れともいえるが、階層別組織の復活や高値掴みをいとわないM&Aなど、経営者としてのトータルの能力の差とも言えなくもない。
ジャック・ウェルチが、最後の仕事としたハネウェル買収が欧州の規制当局の買収承認の条件の高さにより失敗に終わり、ジェフ・イメルトが異論をはさませず、欧州の規制当局の買収条件を飲み込み成功させたアストロズの買収が、GE失墜の最後の一押しとなったことに皮肉を感じる。
またジェフ・イメルトが、独善的と批判される一方で、後任のジョン・フラナリーは、優柔不断ということでわずか14カ月でCEOの座を追われる。
トップに求められるものは、企業のステージや時代の置かれた状況によって大きく異なるということを改めて考えさせられる。
現在のCEOの、ローレンス・カルプは、目指すべき方向性として、ウェルチ時代のGEの文化を挙げているという。
卓越したオペレーションを追求し、リーン生産方式で生産効率を高めていた時代の文化を取り戻すという。
カルプという外部人材による歴史ある大企業の改革の行方に注目したい。
本書からの教訓
➀「奢れるものは久しからず。」
世界最強企業と言われたGEが、このような短期間で窮地に陥るとは想像できなかった。(実態を覆い隠してきたからでもあるが)
時代の流れは急速に変わってまたこれは経営手法に絶対はなく、置かれた環境に合わせて柔軟に変化していくしかないということを痛感させられる。
そしてGEが凋落していく要因は、ジャック・ウェルチ時代の絶頂期にすでに表れていたというのが、非常に面白い。トップダウンの文化。有無を言わさぬ業績達成主義。会計トリックへの依存など。
➁「完璧な人間などいない」
スーパーセールスマンで、多くの人から「ジェフは友達だ」と言われたジェフ・イメルト。
しかし巨大なコングロマリットであるGEを一人でマネージするのは、不可能であった
環境が大きく変化する中で、柔軟に変化するには、様々なバックグラウンドを持った人の衆智を集めるしかないのではないかと思う。またそのプロセスの透明性も重要。
理由はよくわからないが、イメルトが、コーポレート・ジェットを予備機含め2機を隠蔽しながら使い続けたのも大きな示唆となる。
コーポレートガバナンス。この大切さを再認識した。
③「会社に過度に依存するな」
私という個人との絡みで言うと、会社に過度に依存するのはリスクが高いということ。
ほんの短期間で会社は傾く。
会社がどうなろうと働く先があるということ、どのようなトップや上司になろうともしなやかに生きていくこと。それが大切なのではないかと思った。
自分自身を拠り所として生きていくしかない。
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