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【論文メモ5】「それって私の仕事ですか?」の認識は人によって異なる

 自分の仕事の役割ってなにかは、人によって捉え方がかなり違う。
単に気が利くとか利かないとかそういうことでもないのだろう。
その人による差が、何によって生じてくるのか?
今回は、そんなことを論じている論文を取り上げてみたい。


とりあげる論文

  • タイトル: Role Definitions and Organizational Citizenship Behavior: The Importance of the Employee's Perspective

  • 日本語タイトル: 役割定義と組織市民行動:従業員の視点の重要性

  • 著者名: Elizabeth Wolfe Morrison

  • ジャーナル名: Academy of Management Journal 1994 Vol. 37, No. 6, pp. 1543–1567

概要

  317人の事務職員を対象とした調査により、従業員によって何を職務内行動(in-role behavior)と職務外行動(extra-role behavior)と捉えるかは異なることが明らかになった。また、その違いは、組織へのコミットメントと関連しており、職務内行動と定義された行動の方が、組織市民行動(OCB)が発揮される可能性が高いことが示された。この研究は、従業員の職務責任の認識がOCBの主要な要因であることを示唆し、OCBの再概念化の必要性を提案している。

背景

 従業員が形式的な職務要件を超える行動(OCB)を示すことが組織にとって重要であるという考えが一般的であるが、OCBの概念的な境界が曖昧であり、従業員によって職務内外の行動の定義が異なることが問題視されている。これまでの研究は主に上司の視点に依拠してきたが、従業員の視点も考慮する必要があるとしている。
 本研究は、従業員が業務範囲をどのように認識しているか(in-roleまたはextra-role)が、組織市民行動(OCB)の表出にどのように影響するかを調査している。317名の事務職員を対象にした調査では、従業員間での業務範囲の認識に違いがあり、この違いは組織コミットメントや社会的手がかりと関連していることが示された。
 結果として、行動がin-roleと定義されるほど、従業員がその行動を表す可能性が高くなることがわかった。本研究は、OCBの概念化と測定に新たな視点を提供し、役割定義の再評価の必要性を示唆している。

関連する理論・概念

  • 組織市民行動(OCB):組織の正式な職務要件を超えた行動のこと。従業員のOCBは、職務範囲をどのように認識しているかによって異なると仮定している。

  • 役割定義の不明確性: 役割(in-role)とその外部(extra-role)の境界は、従業員ごとに異なり、上司と従業員間でも解釈が異なることが指摘されています。

  • 職務範囲の認識(perceived job breadth):何が自分の業務範囲かについての認知

変数

(a)説明変数 職務満足度、情緒的コミットメント、規範的コミットメント、勤続年数
(b)調整変数 上司との相互作用頻度、従業員の性別、年齢、給与
(c)媒介変数 職務範囲の認識(perceived job breadth)
(d)成果変数 組織市民行動(OCB: altruism, conscientiousness, involvement, keeping up)

方法

  • 対象: 都市部の医療施設で働く317名の事務職員

  • 手法:

    • 40項目の行動リストに基づき、従業員に各行動を「in-role」または「extra-role」と分類してもらった。

    • 職務満足度、感情的コミットメント、規範的コミットメント、上司との相互作用頻度などのデータを収集。

    • 主成分分析を使用してOCB次元を抽出し、回帰分析を実施。

わかったこと

  • 従業員と上司間で「in-role」と「extra-role」の定義に顕著な相違が見られた。

  • 従業員が行動を「in-role」と定義した場合、その行動を実際に行う可能性が高かった。

  • 感情的コミットメントは、職務範囲を広く定義することと正の相関があった。

  • 職務満足度、規範的コミットメントも特定のOCB次元における職務範囲の定義に影響した。

考察

  • 組織市民行動は、従業員が行動をどのように役割の一部と認識するかに大きく依存する。

  • 感情的コミットメントが高い従業員は、職務範囲を広く捉え、OCBとされる行動を「in-role」と見なす傾向が強い。

感想

 Perceived job breadthという概念をはじめて知ったが、確かに仕事の捉え方は人によって異なるので、これが広がるように働きかけていくというのは会社や上司側から見ると有効だろうなと思う。
 やりすぎるとやりがい搾取みたいになるので要注意かもしれない。いずれにしても素直に面白い論理展開だなと思える論文だった。

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