太平記 第六巻 民部卿三位殿御夢の事 1

太平記 第六巻 民部卿三位殿御夢の事 1

吉成学人(よしなりがくじん)
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この章の主人公は、大塔宮の母・民部卿三位局です。
ある時、幕府の監視を偲んで、北野天満宮に参籠します。
天皇の寵愛を受けた女性でしたが、身分を偽るために、みすぼらしい身分の低い女性のフリをします。
神社のはずですが、局がお経を唱えているのは、時代を感じさせます。
また「現人神」と云うのは「天皇」のことではなく、「菅原道真」のように「神」になった「荒人神」を指すようです。
局は、後醍醐天皇と菅原道真を重ねているようで、悲しみのあまり、涙を流し、歌を詠みます。

忘れずは神もあはれと思ひ知れ心づくしのいにしへの旅
(つらい古の筑紫へのお忘れでないならば、神も後醍醐天皇を哀れみください)

しばらくすると、局はまどろみはじめ、寝込んでしまいます。
すると、夢の中で、衣冠を正した80歳ぐらいの老人が現れます。左手に梅の花が咲いた枝を持ち、右手には鳩の取手を施した杖を持っています。
局は、老人に声をかけますが、老人は返事をせず、梅の枝を渡します。
枝には、和歌がしるされた短冊があり、読んでみると、

廻り来てつひにすむべき月影のしばしくもるを何歎くらむ
(日数がたてばやがて澄み渡る月の光が、暫く雲に隠れるのを何の歎くことがあろう)

夢から覚めた局は、この歌の意味を、後醍醐天皇がやがて帰還すること、と解釈します。
太平記の記述によれば、北野天満宮は「大慈悲の本地、天満天神の垂跡」だそうで、一度でも参拝した人には、現世の福利と来世の成仏の願いを叶えてくれるそうで、局のように、何日も籠もってお祈りすると、必ず神は応えてくれるそうです。
北野天満宮は、神社のはずですが、ご利益以外にも成仏まで叶えてくれるのは時代のせいでしょうか。

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吉成学人(よしなりがくじん)
最近、熱いですね。