"Ashes of the Wake" から20年。そろそろ LAMB OF GOD の真骨頂を知ろう!
「PANTERA がいなくなって、LAMB OF GOD が王座に就いたんだ。90年代はスラッシュ・メタルにとって厳しい時代だった。でも2000年代になると、LAMB OF GOD のような若いバンドがスラッシュ・メタルをリセットしてくれたんだ」
20年前、今世紀最高のメタル・アルバム2枚が同じ日にリリースされました。MASTODON の "Leviathan" と LAMB OF GOD の "Ashes of the Wake" です。なぜ、今世紀最高のメタル・アルバムと謳われているのか。それは、この2枚の登場で、一般的なメタル・リスナーまでもがメタルにおける複雑性、そして多様性を抱擁し、愛し始めたから。つまり、モダン・メタルの先駆けであり、記念碑的な作品なのです。
逆にいえば、モダン・メタル=多様性、複雑性という定義さえ浸透していない、いまだに "近未来的モダン・ヘヴィネス" (FEAR FACTORYみたいな感じってコト?!) などという謎ワードが雄々しく闊歩する日本において、彼らの作品は明らかに正しく理解も評価もされていないといえます。
40万枚近くを売り上げた "Ashes of the Wake" は、ビルボード200で2位を獲得した作品でも、グラミー賞にノミネートされた楽曲を収録した作品でもありませんが、LAMB OF GOD で最も売れたレコードであることに変わりはありません。そして、これほど挑戦的なメタル・リフの博覧会も他にはありません。
LAMB OF GOD は、メタルコアやデスメタルなどと評されることもありますが、今では PANTERA が演奏していた音楽のある種の進化形であるというのがコミュニティーのコンセンサスだといえるでしょう。もしくは、Dave Ellfeson の言葉どおりスラッシュ・メタルの大いなる進化形。ただし、このバンドをそうしてただの "グルーヴ" メタルと決めつけるのは、彼らのサウンドの大部分を割り引いて考えることになるでしょう。
このアルバムにおける巨大で圧縮された閉所恐怖症的なサウンドは、他のグルーヴ・メタル・バンドよりも90年代後半のヨーロッパのメタル・バンドの影響を受けているからです。ドラマーの Chris Adler が最も影響を受けたのは Thomas Haake のシンコペーションやポリリズム、オフ・キルターなリズムですが、MESHUGGAH の音楽が幻惑させるものであるのに対し、Chris はそのテクニックを再利用し、"ズレた" グルーヴを推進力のある暴力的なものに変えていきました。
「音楽的には、グルーヴィーでめくるめくようなリフを書くことに集中していたし、それは今でもクールで重要なことだと思う。素晴らしいフックと意味のある歌詞を持つソリッドな構成、クールなリフの束をもつ音楽的な作品。
メタル・バンドとして、かっこいいリフを持つことは重要だと思う。でもそれは大きな絵の中の1つの要素に過ぎないと思う。今は、ただギターを弾くよりも、曲の一部として、より曲のために演奏していると思う」
Mark Morton の言葉です。そう、Mark Morton と Will Adler のギターチームは、Chris のその "オフキルター" "ズレた" グルーヴの推進力に、めくるめくリフの絵画を描いていきました。
"Hourglass" を例にとってみましょう。まず、ドロップDチューニングと三連符、二泊三連で重厚感とグルーヴを演出。特筆すべきは、彼らがリフでありながら12フレット以上の高音域を多様する点です。それまで、低音弦のリフで16フレットや20フレットを用いるバンドなど見かけることはなく、これによってリフでありながらギターソロのような "めくるめく" 多様なアプローチをとることが可能になりました。そうしてこのアプローチは、VEIL OF MAYA, BORN OF OSIRIS, THE HUMAN ABSTRACT といったメタルコアの綺羅星、ひいては PERIPHERY や ANIMALS AS LEADERS のような Djent にまで受け継がれ、ギターリフ、その可能性の扉を開いたのです。
ブレイクダウンを中心に、クロマチックなアプローチを重ねるのも当時は斬新でしたし、メタルコア的単音のリフのあとに、重厚感を加えた和音でそのリフをなぞる手法も彼らならでは。本当にこの曲はアイデアの宝庫ですね。もちろん、タイトル・トラックはオフ・キルターなリズム、三連符の魔術師たる所以が存分に味わえるリフだけで描いた名画です。(Alex Skolnick と Chris Poland の名演も聴きどころではありますが)
Chris の右手のテクニックは、シュレッド奏法の同業者とは一線を画しています。彼の手首は矢のようにまっすぐで高い。これは、彼が初期のスラッシュ・メタルで聴いたサウンドを模倣し、独学で身につけたアプローチから生まれたもの。
「誰もそんな弾き方を教えてくれないと思うよ!僕が独学で学んだ方法なんだ。幼い頃から母にピアノを習わされ、11歳頃にギターを手にしたからね。好きだったレコードで聴いていたのと同じ音を作れるようになりたいと思った。それを追い求めるうちに、自分の演奏スタイルが出来上がっていったんだと思う」
2人のギタリストの違いも、LAMB OF GOD の特別なグルーヴを生んでいます。
「Will はビートの上に乗って演奏している。基本的にグリッド上で Will が4分音符の上にいて、僕がほんの少し後ろにいるのがわかる。リズムに対する感覚が違うんだ。すべてがロボットのような正確さである必要はない。
スピーディーで正確なメタルの世界でも、個性を輝かせる余地はある。同じタブ譜で同じリフを弾いたとしても、鼓動が違うし、人間も違う。だからギターはとてもクールなんだ。ギターの解釈は人それぞれで、その人固有の自然なスタイルがある」
Mark 自身の解釈は、ロックとブルースの伝統に根ざしたプレイヤーで、Will はとてもアクロバティックなプレイヤー。
「Will は驚くほど型にはまらない音符の選択と抽象的なアプローチをする。僕が聴いて育ったミュージシャンは、Will が聴いていたようなミュージシャンとは違う。彼はメタルの純血主義者みたいなものだった。僕の演奏のルーツや音楽体験はストーンズやツェッペリンで、そういうものではないんだ。だから、僕はもっとブルース志向で、たぶんもう少しハモっている」
"メタル純血主義" というのは強引かもしれませんが、Chris は幼少期から幅広いヘヴィ・ミュージックに親しんできました。
「"Kill em All" がリリースされたときはテープに録音していたし、CoC のファースト・アルバムもテープに録音していたし、ピストルズのレコードも全部持っていた。ハードコアの一群はもちろん、Agnostic Front, Sheer Terror, 7 Seconds, Shelter といったバンドも聴いていた。彼らははみんなスーパー・パンク・ロックで正確さに欠ける。でも初期の METALLICA のテクニカルな面は、僕が本当に真似したかったものだよ。でも最近は、ニック・ドレイク、レオ・コトケまでメタルの世界からは完全に離れたギタリストからも影響を受けているよ」
そして彼らは "Sacrament", "Wrath" とその音の葉を広げていきました。
「僕らには何のルールもない。何かが非メタルとして受け取られるかもしれないということを、私たちは抑制していない。Randy は特にメロディックなシンガーではないから、99パーセントの曲は常に不機嫌で攻撃的な歌声になる。とはいえ、クリーンなボーカル・パートもいくつかある。"To the End" のように。リフが "Just Got Paid" に似ているから、最初は "ZZ Top "と呼んでいたんだ。今までやった曲の中で、最もロックンロールな曲のひとつだよ」
そう、そして LAMB OF GOD を他のバンドと画しているのはフロントマンの Randy Blythe であり、"Ashes of the Wake" は彼のアルバムだともいえます。深くもあり鋭くもあり、激情的で、エクストリーム・メタルが提供する最高の声。
いわゆる NWOAHM と呼ばれるバンドが、エモーショナルでロマンチックな歌詞とクリーンなコーラスを自分たちのサウンドに取り入れていたのに対し、LAMB OF GOD は人生のダークサイドに焦点を当て続けていました。80年代のハードコア信奉者であることを公言していた Randy は、当時優勢だったブッシュ政権と、終わりの見えないイラク戦争に怒りを集中させたのです。Randy がチェコ共和国に収監されてもなお、活動的で安定した状態を保っているのは、彼らのアンダーグラウンド・メタル的なアプローチの証でしょう。
つまりエクストリーム・メタルとは、何よりもまず攻撃性を追求する音楽であり、"Ashes of the Wake" の臆面もない政治性と正直な怒りがこの作品を高みに導いたのです。このアルバムがリリースされた当時、アフガニスタン戦争は3年目に突入し、イラク戦争は2年目に入ろうとしていました。アブグレイブでの拷問と囚人虐待のスキャンダルの最中に書かれ、ファルージャでの最初の戦いの最中に制作されたこのアルバムは、"ヨハネの黙示録" に登場するサタンの頭のように暗闇から生まれ出たのです。
"Now You've Got Something to Die For" は、潜在的な入隊者である聴衆に直接語りかけながら、ブラック・ユーモアを交えた米軍政策への痛烈な非難とした楽曲。"民衆を自由にするための爆弾、ドルの木を養うための血/スクリーンに映る棺桶のための旗、機械のための油"
政治への怒りはハードコアだけでなく、良質なメタルをも生み出します。MEGADETH の "Peace Sells" もそうでしょう。しかし、政治的な作詞家でこれほどまでに極端な歌詞で怒りを表現する人はほとんどいません。
このアルバムで最も強い言葉を発しているのは、元海兵隊二等軍曹のジミー・マッセイのもので、彼の声はタイトル曲に流れています。唯一のインストゥルメンタル曲であるこの曲の痛烈な特徴は、やはり罪のない人々の命を奪ったマッシーの実体験にありました。たいていのデスメタル・バンドは殺人者の心境に栄光を見出すものですが、この曲では悲しみと恐怖を見出しています。
争いは悲しみと争いしか生まない。"Remorse is for the Dead" でレコードを締めくくった彼らは、そこにイラク人の心が戦争の代償を目の当たりにし、非戦闘員から将来の反乱分子へと変化していく様を描きました。あれから20年。残念ながら、今でも世界は LAMB OF GOD を必要としています。悲しみと痛みの灰から目覚め、立ち上がるために。