Please Don't Leave Me…追悼ジョン・サイクス
ジョン・サイクスが亡くなってしまった。
ショックというよりも、信じられない、現実とは思えないという感覚のほうが強い。訃報を聞いてから、ただフワフワと、浮き足立ったまま仕事をしていたら一日が終わった。そんな感じだ。
以前このnoteにも書いたんだけど、ヘヴィ・メタルのヒーローたちは、僕たちの中では今でもかつてBURRN!で見た姿のままだけど、実は思うよりも年齢を重ねている。いやまあ当たり前なんだけど。だからこうした悲しみはもはや青天の霹靂ではなく、寄せては返す波のように、緩やかに、しかし確実にやってくるはずなんだ。それはね、頭ではわかっているんだよ。
でもね、ぜんぜん受け入れられないんだよ。
だって僕にとって、BLUE MURDER の "Nothing' But Trouble" はまさにメタル世界への入り口のひとつだったから。
このアルバムはね、J-PopやJ-Rockに染まった耳でもとても快適に聴けたんだよ。だから、もっとメタルを掘ってみようと思えたんだ。サイクシーがいたから、このアルバムがあったから、今の自分がある。
例えば、"Shouldn't Have Let You Go"なんて、WANDS の "時の扉" くらいキャッチーでポップ、でもしっかりハードにロックしている。"Save My Love" の神々しいまでのエモーションや"黒さ" も、やっぱり徹頭徹尾ポップに昇華されている。
ハードにドライヴする "I'm on Fire" にしたって (ケリー・キーリングの歌唱が白眉)、壮大なエピック "I Need an Angel" にしたって、ダークな "Runaway" にしたって、これだけバラエティに富んだ楽曲群においても、すべてが一緒に歌いたくなるメロディに溢れている。これはね、あのサーペンス・アルバスにもできなかったことだよ。1987はやっぱりもっと典型的なメタルだったから。
この前代未聞な"ポップ・メタル"の完成形を実現できたのは、ひとえにギターも歌も個性的で上手すぎるサイクシーの才能による所が大きい。頭の中のメロディを両刀で具現化できたというか。
もちろん、サイクシーはギタリストだったけど、カヴァデールとライノット、ふたりの師匠がちょうどいい具合にまざりあったような彼の歌声も大好きだった。"We All Fall Down" なんてその象徴だよね。"Still of the Night" だけど、"Thunder and Lightning" というか…最後の"It's comin' to get ya Just one more hit Just another hit" のくだりなんて、完全にフィルが乗り移っている。
でもやっぱり、あの美しいブロンドで、美しいブラック・ビューティーを抱えて紡ぎ出す美しいギター・フレーズの数々は唯一無二だったよね。サイクシーは逆アングルでピッキングをするから、太くて強い音が鳴る。だからチョーキングにもコシがでる。息が長くて、ゴージャスで、狂おしいほどに胸を抉る彼のトレードマーク。あのフォームで謎に鳴らすピッキング・ハーモニクスもいちいちタイミングが最高だった。すべてが誰も真似できない。
ファストなフレーズはセンスによる所が大きいんじないかな。たぶん、あんまりスケールとかは考えていない (その分スロウなパートではコードトーンを大事にしている) から理論的には不思議な音が入っていたりするんだけど、それがとてもカッコよかったんだよね。
あんなにすごいアルバムを出しておきながら、それ以降は何枚かアルバムを出して、サイクシーは長い間隠遁してしまった。最近、何曲か新曲を公開していったけど、なにかこう、隠遁生活が長くなればなるほど、待たせれば待たせるほど、アルバムを出しにくくなっているような印象を持った。
でもね、きっと闘病の関係もあったのだろうけど、やっぱりどんな作品でもせめてもう一枚、聴きたかったよ…僕らはサイクシーの声とギターが聴ければもうそれで満足だったんだから…何にも気にする必要なんてなかったんだから…あなたが大好きだったんだから…
痛みから解放されて、今ごろ天国で早速フィルとセッションでもしているのだろうか?サイクシー、僕をメタルの世界へ誘ってくれて本当にありがとう。素晴らしい音楽をありがとう。でもやっぱりしばらくは…Darling please don't hurt me this way, Darling please don't leave me…