夏の五島うどん
我が五島列島(上五島・中通島)ではうどんが名産品であり、日本三大うどんや五大うどんなんかに名を連ねることもあって、有吉弘行さんのツイッターやマツコさんとのかりそめ天国でも紹介されていて、嬉しい限りだ。
その五島うどん。いいところは数々あるんだけど、中でも『煮くずれない』ことか。煮ても炊いても鍋に入れてもとにかく水を吸ってニチャニチャには絶対ならない。見た目は細く、そうめんをやや太くした感じなんだけど、いくら煮込んでも恐ろしいほど煮くずれないのである。かといって硬いという訳ではなく、あくまでコシを失わないということが最大の美点だと思っている。
さてどうやって食べるか、しかも夏に。五島には『地獄炊き』という名前の うどん鍋ともいえるような名物もあるのだが、それは通常夏に食べるもんじゃない。暑いからね。夏はツルッとつけ麺でいただきたい。
五島では普通、改めてつけ麺用のツユを作るというより、魚を煮てその煮汁でうどんを食べるのがポピュラーである。鯛そうめんを庶民化させたようなものといえばわかりやすいだろうか。炊く(煮る)魚は、初めてトライするなら赤モノ(真鯛や金目鯛など)なんかの においの少ないものの方がいいと思う。ハマチやサバなどの青モノや、カレイやカワハギでやると 新鮮であってもどうしても臭みが消え切らないことも多く、きっと苦手な人も少なくないんじゃないかな。
前ごしらえとして、まず十分に沸騰したたっぷりのお湯に魚(アラや切身)を入れ、臭みを取る。ここで調理をするわけではないので、再びグラッと煮立てば間をおかず、すぐザルにあげる。もしよそいきの煮出汁を作るなら、ここで魚に残っている血合いなんかも取っておく。ただし漁師料理にはこの工程はない。臭みをとるのはていねいな下処理やネギでもショウガでもなく『鮮度』だというのが彼らの言い分なので(笑)
煮汁が欲しいので(というかメインなので)、水分は大目に考える。魚を食べるために煮るというより、うどんのつけ汁を得るために煮る。
水:酒:醤油:みりん:砂糖が4:4:2:2:1 位の割合で煮出汁を作るけど、魚は火をつける前から鍋に入れておく。ネギやショウガを使う場合は魚と同時に投入する。まぁショウガに関しては臭い消しという意味以外でも、味付けとしてガッツリ入れるのも夏らしくて良し。
私はひねくれものなので、店じゃないんだから毎回味が違ったっていいんじゃないの? といつも思ってる。砂糖を少なくすれば上品に、逆に多くすれば田舎風の味になる。
魚は炊き過ぎたらダメだ。落し蓋をして10分も煮たらそれで終わり。魚を取り出して(取り出さなくてもいいけど)、常温で冷ました後 ボールにとって冷蔵庫でラップをして冷やしておく。
うどんはたっぷりのお湯が沸騰したところに投入する。乾麺の五島うどんはなかなか柔らかくならないから、吹きこぼれないようにしてまず10分で様子をみる。もう少し柔らい方が好きな場合はさらに数分延長。心配しなくても決してドロドロにはならないから別にあと10分延長したって構わんけど。
もういいかなってとこでうどんをザルにあげ、氷水にとってジャブジャブ洗う。もともとヌメリが少ない麺なので表面を洗うというより、冷やすことがメインだ。十分冷たくなったら再びザルにあげる。このままの状態で置いておくと 麺同士がくっつくので、麺を茹でる作業は食べる直前がいい。
冷蔵庫で冷やしておいたツユを器にとり、わさびをきかせてうどんをすする。ツユは冷え冷え、うどんも冷たくてツルツル、お好みでネギ、金糸卵、ゴマなんかもイケるのだが、少なくとも漁師はそんなコジャレたマネはしない。
こうやって書いているだけで、五島の夏 冷たく冷やしたうどんをランニングを着て笑い合いながら食べた子供の頃を思い出す。