リカちゃん
昨年末、大掃除のついでに押し入れの奥の方をひっくり返していたら、どうしてそんなモノがこれまで残っていたのか、娘が小さい時に買い与えた『サイクリングリカちゃん』の箱が出てきた。そのリカちゃんは名前の通り、膝や股関節が自転車に乗れるように自在に動くような仕様になっているモノだ。
古いリカちゃん人形は独特の味わいがある。遠くを見るあの目つき。歴史が刻まれたあの佇まい・・・。やはり彼女はただものではない。美容師の性(さが)で 髪にクセが付いていたり もつれているのがどうしても気にはなったが、それ以外はまだまだキレイなものだった。
妄想癖の強い私は リカちゃんを再び箱に納めながら、至極勝手に色んな『◯◯リカちゃん』を思い浮かべ、一人ニヤニヤしていたのだが、その間大掃除の手が止まっていたのは言うまでもない。
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《アイドルリカちゃん》
リカちゃん、ルカちゃん、ロカちゃん 3人のユニット。男女問わずあらゆる年齢層にアピールできる全方位型アイドルである。しかしアイドルとしては根本的に足りない部分があった。それはやる気がないことだ。そしてリーダーのリカちゃんは お嬢様育ちゆえ全く堪え性がない。ちょっとSNSで悪口を書き込まれたりしたら『私帰る』と言って生放送さえブッチぎるのである。
こんなセットで歌うのは嫌だ、ミニスカートは穿きたくない、アイツと一緒の番組に出たくない・・・。そんなわがままが出るたびに、ルカとロカが なだめてすかしてなんとか乗り切るのだが、マネージャーや周囲のスタッフはいつもヒヤヒヤしている。
《女流棋士リカちゃん》
香山リカ六段が挑戦する 女流名人七番勝負は、そのタイトルを賭けて今年も各地を巡りながら行われる。香山六段は弱い訳ではないのだが、追いつめられるとシクシク泣き出すという面倒クサい特徴がある。先日のTV対局でも 劣勢が続く局面で、あろうことか『その銀、取っちゃヤダ』と涙目で相手を見つめ、それを見た解説の加藤一二三氏が『アホらしくてやってられない』と、解説者が投了するという前代未聞の出来事があったばかりだ。
しかしそんなリカちゃんが愛らしいと、身につけたフリフリの衣装と共にオタクからの熱い視線を受けている。『月刊 将棋界レディ』は彼女が表紙になった号は 売上がいつもの3倍を超えるのが当たり前だし、近々写真集も出るらしい。
《家政婦リカちゃん》
1時間あたりの報酬が10万円を超える 超高額な家政婦さん。もっぱら金持ちのおじさんやおじいさんがクライアントである。もちろん仕事中は彼女に指一本触れてはいけないし 撮影もご法度である。万が一にもそんなことをすれば、違約金として 軽い場合でも300万円は払わなければならないのだ。最近ではテキサスの自宅にリカちゃんを招待したイーロン・マスク氏が、1週間の契約で3,000万円を超える報酬を支払ったというが、金額を考えると密室で色んなオプションを付けたのだろうと憶測を呼んでいる。
しかし特筆すべきは 多くの人が想像する通り、リカちゃんが家事など得意なわけなどないし、そもそもそんなものを求めてはいないような、金持ちで道楽者の楽しみ以上ものではない。
《柔道リカちゃん》
リカちゃんは女子柔道48キロ級の日本代表である。世界選手権フランス大会の準決勝では、韓国選手による無理のある危険な関節技により 右肘靱帯を損傷し、それでも歯を食いしばって痛みに耐えながら放った巴投げにより、逆転の『技あり』を奪って勝利した。しかしもはやリカちゃんの右腕は試合ができる状態ではなく、直後の決勝には 日本チーム監督の苦渋の決断によって 棄権を申し出ることになったのだった。
テーピングで右腕を胴体にグルグル巻きに固定した状態のリカちゃん自身は、あくまで決勝に臨むつもりだったのだが、戦えないことを知り これまでお世話になった人たちに対する申し訳なさで、にじむ天井を見上げながら畳の上に崩れ そのまま気を失ってしまう。
その年の『世界に影響を与えた女性100人』にも選ばれた リカちゃん=香山リカ五段 は、世界各国のメディアに取り上げられ、一躍世紀のヒロインとなったのだった。 (次に続く)
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