お別れをした。

お別れをした。新しい靴を買った日だった。

最後にと、知らない歌を恥ずかしそうに、声の端っこで口ずさんでくれた。

こんなに素直なひとが居るのだとびっくりしてしまった。
映画を見て哀しむ時はのどがきゅっとなるのに、わたしたちがさよならをして寂しがる時は、体のまんなかがぎゅっとなると知った。そりゃ昔の人はこれを心と呼ぶよねと思いながら、どうやら歌い終わった素直なひとはちりんちりんと帰ったので、わたしもてくてく帰ることにする。

お別れに歌を贈ってもらったのは初めてで、寒空の駐車場、アウターの中にできるだけ体を仕舞いこんで聴くとぎれとぎれの知らない歌は、Aメロなのやらサビなのやら分かりやしない。
その可笑しさがこの子らしくてうれしい。愉しくて、寂しくなんかないけど胸がいたいよ。
耳に残った曖昧なお別れの歌は、どうせ明日になったら聞かないけど、今日ばっかりは聞こうと思う。

この靴がぼろぼろになってまた新しい靴を履く頃に、君を思い出してしまうかも。わたしは歩き方が悪いから割とすぐだね、ちょっと情緒ないね。

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