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夢のない男

「わたしには夢があります」と、彼らは言う。

「わたしには夢がありません」と、わたしは言う。

朝は6時半に起きる。白米と味噌汁と、それから小粒の納豆。

いわゆる満員電車に乗る毎日。横から飛んでくる誰かの罵倒。

改札前はいつも、どこにSuicaを入れたか忘れてまごつく。

朝から晩まで、0と1の世界に潜り込んで、夜になったらまた元の世界に戻る。
木々が生い茂るところ。塩がしょっぱいところ。海が青いところ。肌を貫くただの風のあるところ。

また、朝が来る。朝の方が、夜より寒いのはなぜだろう。

白米と味噌汁と、今日は温泉卵。それが、うれしい。明日は何を食べようか。

「わたしには夢があります」と、彼らは重ねて言う。

「わたしには夢がありません」と、わたしは重ねて言う。

夢は叶う。努力は人を裏切らない。夢を語るやつはかっこいい。

夢がない。それでも今を生きている。そんなわたしはかっこよくない。

夢なんかなくなって、あったって、わたしは今日も生きている。

あなたには夢がありますか?そうか、それはとてもよいことだね。

わたしは明日、サバの塩焼きを食べたいな。だから明日も生きることにするよ。

「わたしには夢がありません」

でも、それでいいじゃない。

わたしは明日も、それが、うれしい。

2020年1月14日
オチのないショートショート.





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原田 透
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