科学そのものに罪はなく、使う人間にすべてが委ねられることを痛感した『オッペンハイマー』
【個人的な満足度】
2024年日本公開映画で面白かった順位:15/36
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★★
映像:★★★★☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:Oppenheimer
製作年:2023年
製作国:アメリカ
配給:ビターズ・エンド
上映時間:180分
ジャンル:ヒューマンドラマ、伝記
元ネタなど:伝記『American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer』(2005)
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。これに参加した J・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。
世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。今を生きる私たちに、物語は問いかける。
【感想】
原作となった伝記は未読ですが、「原爆の父」と呼ばれた理論物理学者、J・ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落を描いたとても興味深い内容でした。唯一の被爆国である日本で生まれ育った人には特に観てほしい作品です。
<情報量が多く、映画としてはわかりづらい>
この映画、原爆を作った人間を描いているがゆえに、様々な意見や感情が飛び交うでしょう。個人的には、映画としての側面と、オッペンハイマーに対する評価は分けてもいいかなと思いました。
まず、映画そのものについてなですが、これはちょっと難しいというか不親切という印象でしたね(笑)伝記映画ではあるんですが、時系列的に順を追って展開していくわけではないんですよ。ロシアのスパイ疑惑をかけられたオッペンハイマーに対する聴聞会から始まり、回想する形で原爆開発に焦点を当てていくんですが、時系列が行ったり来たりする上に、テロップもないから今がどの時代で場所がどこなのかがわかりません。さらに、ダイジェストかってぐらい場面がコロコロ変わりますし、登場人物も多いため、あらかじめオッペンハイマーに関する知識がないと混乱すると思います。
で、その聴聞会なんですが、これがルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)という人が仕組んだ罠でして。もともと軍縮を提言していたオッペンハイマーとは意見が合わなかったんですが、そんなときにストローズはオッペンハイマーに恥をかかされたことがあって、その恨みを晴らすためにもオッペンハイマーをハメたんですよね。ただ、このストローズに関する描写がほぼないので、「何か嫌な思いをしたんだろうな」という雰囲気は察することができるものの、そもそもこの人が誰で、どういういきさつでオッペンハイマーに嫌悪感を抱いたのかがわからず、感情移入ができませんでした。ストローズとオッペンハイマーの関係性がわかれば、映画としてもう少し楽しむことができたかもしれないなあと思いますね。
この手の映画はある程度知識があった方が楽しめると思ったので、一応ですね、僕は予習として、2024年2月19日にNHKの『映像の世紀バタフライエフェクト』で放送された「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄光と罪」を観たんですが、あんまり意味なかったですね(笑)それぐらい、映画本編の情報量が多かったです。
<オッペンハイマーに対する個人的な意見>
次に、このオッペンハイマーをどう見るかです。別に彼の肩を持つ気はありませんが、僕としては彼もただ国に利用されただけだなという印象を持ちました。結局、彼もただの雇われの身なんですよ。会社勤めのサラリーマンのように、「業務上得たアイディアや知的財産はすべて会社に属します」って感じで、原爆は作ったけどその使い道は国次第なんです。オッペンハイマーは開発はしたものの、その威力の大きさにもともと実戦投入にはあまり乗り気ではなかったようですが、そう提言はできるものの実際に使用を禁ずる権限まではありません。じゃあ、辞職するか、そもそも途中で開発を辞めればって話ですが、多分そうする意味はなかったと思うんですよ。誰かが引き継ぐか、もしくは家族を人質に取られて強制的に開発させられるかしてたんじゃないかなあと。それに他の国も原爆の研究開発は進めていましたからね、アメリカが完成させなくてもどこかが作り上げていたとは思います。
で、ちょっと話は逸れますが、他の映画を観ててもいつも感じることがあります。それは、アメリカって国は何でも自分が一番じゃなきゃ気が済まないし、力を誇示したい国ですよねってこと。特にロシアの存在はかなり意識していて、宇宙開発もそうですが、「ロシアにだけは負けたくない」という姿勢をビシビシ感じます。今回だってどの国にも先がけて原爆を完成させたがり、できたらできたですぐに実戦に投入しました。戦況としては日本の負けがほぼ確定してたから原爆を落とす意味はなかったかもしれないのに、軍事的優位を見せつけるためか、わざわざ投下しました。「戦況が長引いて無駄に失われる命を救った!」とアメリカは思っていたそうですが、いやいや、結果的に日本では21万人が亡くなっているんですよ。。。あんたらの自己顕示欲のせいでどれだけ罪なき人々が死んだか。。。もし、当時SNSがあったら広島と長崎の状況が世界中に拡散されて、アメリカ国民もあんなに両手を挙げて喜ぶようなことはなかったと思いますし、オッペンハイマーもより大きな自責の念に駆られたかもわかりません。
ひとつ、印象的なシーンがあって、それは広島への原爆投下後、オッペンハイマーがロスアラモスにて人々の前でスピーチをするところなんですけど、彼が幻を見るんですよね。強烈な光と、人々の皮膚が火傷で剥がれる様子、降り注ぐ灰、そして黒コゲになった遺体。オッペンハイマー自身は原爆投下後の様子を目にしていないので、ここでの幻は現代だからこそできる演出ではあるんですけど、「もしオッペンハイマーがあの惨状を目にしていたら、こういう幻を見たかもしれない」というのを感じられてグッとくる演出でした。
<そんなわけで>
映画としては情報がいろいろ錯綜するような作りではありましたが、題材としては観てほしい映画です。原爆や戦争についていろいろ考えさせられるきっかけになりますから。写真や映像で原爆投下後の人々の姿を観るとね、、、複雑な気持ちになりますよ。。。そういえば、オッペンハイマーって戦後、日本に来てるんですよね。日本もよく受け入れたなと思います。感情的に「絶対来んな!」ってなりそうですけど、当時の日本人はどう感じたのでしょうか。
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