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【ネタバレあり】今年一番泣いた。タイムトラベルのセオリーを覆した夫婦の愛に3回も号泣した『ファーストキス 1ST KISS』
【個人的な満足度】
2025年日本公開映画で面白かった順位:5/13
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:-
製作年:2025年
製作国:日本
配給:東宝
上映時間:124分
ジャンル:ラブストーリー
元ネタなど:なし
公式サイト:https://1stkiss-movie.toho.co.jp/
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
結婚して15年になるカンナ(松たか子)は、ある日、夫の駈(松村北斗)を事故で失ってしまう。いつしか夫婦生活はすれ違っていて、離婚話も出ていたが、思ってもいなかった別れ。しかしカンナは、駈とこちらも思ってもいなかった再会を果たす。
しかもそこにいたのは、初めて出会ったときの駈。ひょんなことから、彼と出会った15年前の夏にタイムトラベルしてしまったカンナは、若き日の駈を見て思う。やっぱりわたしはこの人が好きだ。まだ夫にはなっていない駈と出会い、カンナは再び恋に落ちる。
時間を行き来しながら、20代の駈と気持ちを重ね合わせていく40代のカンナ。事故死してしまう彼の未来を変えたい。過去が変われば未来も書き換えられることを知ったカンナは、思い至る。わたしたちは結婚して、15年後にあなたは死んだ……だったら答えは簡単。
駈への想いとともに、行き着いた答え。わたしたちは出会わない。結婚しない。たとえ、もう二度と会えなくてもーー 。。
【感想】
※以下、敬称略かつネタバレあり。
タイムトラベルを題材にした映画なんて今まで散々作られてきましたが、まさかこんなありそうでなかった展開になるとは。。。もうね、死ぬほど泣きましたよ。かけがえのない夫婦の愛に。特に、夫の選択に。
<坂元裕二の脚本は神がかっている>
この映画、とにかく脚本が素晴らしすぎます。さすが、坂元裕二。最近だと『花束みたいな恋をした』(2020)もよかったですけど、個人的にはもう『東京ラブストーリー』(1991)の頃から好きです。多くの人が共感できるであろう最大公約数的な表現が刺さるんですよね。今回もカンナの「(結婚における)恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなるんです」や「恋愛感情がなくなると正しさが入ってきます。正しさが入ってくると離婚に繋がります」など、妙に腑に落ちるセリフの数々は職人芸だなと感じました。昔、ちょろっと脚本家スクールに通った身だからこそ、このセリフのうまさはもう努力や練習で身につくものではないのではないかと思います。
<制約の多いタイムトラベル>
そんな本作の目的はすごくシンプルで、カンナが事故死した夫を助けるために、15年前にタイムトラベルし、死を回避するためにあの手この手で未来を変えようと四苦八苦するというものです。タイムトラベル自体、古今東西こすりにこすられまくった設定ではありますが、今回の映画で特徴的だったのは「制約が多い」ということです。『ドラえもん』(1969-)のようにいつでもどこでも好きな時代の好きな場所へ行けるなんて都合のよさはありません。本作では首都高のトンネルの崩落事故が原因でタイムトラベルできるようになり、そこへの出入りで現在と過去の行き来は自由にできます。が、過去は同じ日の同じ時間にしか行けません。つまり、一度トンネルを出てまた入った場合、前のことはすべてリセットされて同じ日時からスタートすることになります。そして、同じ時間軸に同じ人物は2人以上存在できないらしく、過去のカンナが駈と出会う20時までしかいっしょにいられません。さらに、トンネルが修復されてしまうともうタイムトラベルできないので、トンネルが直る数日しかその機会がないんです。
<好きになってもらうことでこちらの意見を通すよう画策>
カンナがまず考えたのは、駈が死亡に至るまでの要素を書き出し、そのひとつひとつを潰していくことでした。例えば、駈がコロッケを買ったことで事故発生の時間に現場に居合わせることになったのなら、そのコロッケを買わなければいい。それなら、15年前に戻ってそのコロッケ店で買い物をしないような理由を何かしら伝えればいいんです。しかし、初対面の人にいきなりそんなことを言われても当然聞く耳など持ちませんし、そもそもコロッケを買わなくなったらなったで、別のものを買って事故現場に居合わせる形となってしまったんですよね。
そこでカンナは「彼の未来を変えるようなアドバイスをするには、まず自分を好きになってもらわないといけない」とし、手を変え品を変えで駈の気を引こうとします。幸い、トンネルを出れば状況はリセットされるので、ひたすらトライアンドエラーを繰り返し、カンナは初対面ながらも一気に駈との仲を縮めていくコツをつかんでいきます。ここらへん、カンナは失敗するたびに「やりなおしまーす!」と言ってその場から逃げる姿がコメディチックで笑えます。
<出会わないようにするためにあえて嫌われるように>
しかし、何をどうやっても現代において駈が死亡する事実は変わりませんでした。そこでカンナが思いついたのが、「出会わない」ということです。自分と結婚したことで駈の未来が死へと向かい始めるのならば、彼を生かすためにその出会いをなかったことにすればいいんです。だから、今度はカンナは徹底的に駈に嫌われようとするんですが、それがもう観ていて辛くて辛くて。確かにこの夫婦は離婚に合意するぐらい仲は冷え切っていましたけど、それでもカンナは駈のことが好きだったんですよね。だから、こんなに何度も何度も15年前にやって来ていたわけで。本当はいっしょにまた人生を共にしたいのに、駈に生きていてほしいからあえて嫌われる選択をするって悲しすぎですよね。ここが最初の号泣ポイントでした。
<死ぬとわかっていてもその道を選ぶ>
で、ひょんなことから駈は自分が15年後に死ぬことを知ってしまい、カンナもこれまでの事情を話すことになります。そこで駈が言った言葉に胸が締め付けられました。自分が死ぬ未来がわかっていても、カンナと結婚する道を選ぶって。駈も出会ったときからカンナにビビビッってきていたんですよ。もともと女性が苦手なのに、自然と話すことができるカンナはそれだけで特別な存在だったんでしょう。夫婦仲が冷め切って離婚に至ることまで知った上で、駈は死を回避するよりもその15年をやり直したいって言ったんです。なんて素敵な人なんでしょう。ここが2つ目の号泣ポイントでした。
<変えたのは結果ではなく過程>
結局、駈は15年前のカンナと出会い、結婚することになります。15年後に亡くなる未来を知ってはいたし、死を回避することには前向きに対応していくとは言っていたんですけど、結局それは叶いませんでした。やっぱり、カンナと結婚したことが彼の死を決定づけてしまったのではないかという因果関係は崩れませんでしたね。でも、駈がひとつだけ変えたものがあります。それは離婚の未来です。タイムトラベルしてきたカンナからあらかじめ自分の嫌な部分を指摘されていたこともあり、きっと円満な家庭生活を心がけたんでしょう。タイムトラベルしてきたカンナの回想シーンにあったような喧嘩はなく、離婚届の書類もありませんでした。死ぬその日の朝も、最初は喧嘩別れみたいな形でしたけど、最後は仲のいい夫婦の見送りという未来に変わっていました。駈が亡くなった後、カンナは駈からの手紙を見つけて読むんですが、そこに書かれていた感謝の言葉にもう全身の水分が洪水のように目から噴き出ましたね。。。ここが3つ目の号泣ポイントです。
<吉岡里帆は嫌な女が似合う>
この映画はストーリーの素晴らしさが一番のウリですが、個人的に推したいのが、駈が学んでいる教授の娘役を演じていた吉岡里帆です。今や彼女も主演を張れるほどの演技力と知名度を誇っていますが、個人的には彼女は主演よりもこういう助演で嫌な女を演じるのがすごく似合っている気がするんですよね。まあ、もともとそういうキャラクターで知ったのでそういう印象が強いっていうのもあるとは思うんですけど、今回もあの嫌味なキャラクターが見事にマッチしていました。
<そんなわけで>
タイムトラベルという使い古された設定でよくもここまで感動話にできるなと感心する内容でした。タイムトラベルの話って未来の"結果"を変えようとする話が多いですが、今回は"結果"よりもそこに至る"過程"を変えたことで新鮮さを感じたのかもしれません。そうすることで、駈の死という"結果"を変えることはできなくとも、駈もカンナもネガティブな感情でそこに至るのではなく、幸せに満ちた感謝の気持ちで胸がいっぱいな状態でそれを迎えられるという点で、同じ愛する人の死でも受け取り方が180度変わるなと感じましたね。これはぜひ映画館で観てください。