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同性愛を隠すためにカップルの“フリ”をする男女の友情を超えた関係性に涙した『恋人はアンバー』

【個人的な満足度】

2022年日本公開映画で面白かった順位:59/177
  ストーリー:★★★★★
 キャラクター:★★★★★
     映像:★★★☆☆
     音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★☆

【作品情報】

   原題:Dating Amber
  製作年:2020年
  製作国:アイルランド
   配給:アスミック・エース
 上映時間:92分
 ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
元ネタなど:なし

【あらすじ】

1995年、同性愛が違法でなくなってから2年後のアイルランド。同性愛者への差別や偏見が根強く残る田舎町で、自身がゲイであることを受け入れられない高校生・エディ(フォン・オシェイ)と、レズビアンであることを隠しているクラスメイトのアンバー(ローラ・ペティクルー)。

家族や同級生にセクシュアリティを悟られないように平穏に卒業を迎えるため、2人は“ニセモノの恋人”を演じることに!性格も趣味も全く違う2人だったが、ぶつかり合いながらも、悩みや夢、秘密を打ち明けるうちに、唯一ありのままの自分をさらけ出せる、かけがえのない存在になっていく。

しかし、いっしょに訪れた都会・ダブリンで、運命的な出会いによって新たな世界に触れた2人は、“理想的”だったこの関係にも終わりが近づいていることに気づいてしまう…。

【感想】

こういう邦画ではなかなかお目にかかれない設定の作品が好きです。同性愛者である苦悩という背景がありつつも、いい意味でそこに頼らない青春物語で楽しめました。

<同性愛者が生きづらい時代>

wikipediaでパッと見たぐらいでしかないので、厳しく突っ込まないでいただきたいのですが、舞台となる1995年は、いくつかの国で同性愛に関する偏見や差別を無くそうという運動が出始めた頃っぽいんですよね。でも、国や団体がそう言っているだけで、きっと一般にはまだまだ浸透していなかったんじゃないかなって思います。それが都会ならまだしも、田舎ならなおさらですよね。エディとアンバーが住んでいる町も田舎の方だったので、すごく生きづらかったんじゃないかなと思います。

<自分の素性を隠さないと生きていけない>

最近の洋画ではあまり見かけないですが、少し前だったら、女っ気のない男に対して「おまえゲイかよ!」みたいなセリフはよく見たような気がします。その場合も大抵はブラックジョークみたいな感じで済まされますが、そうはいかないのが本作の主人公であるエディです。なぜなら、彼は本当にゲイだから。でも、ゲイであることを自分でも受け入れられない彼は、ひたすらその事実をなかったことにしようと、無理矢理、女子生徒とキスをするほどです。これは思春期の若者には辛いですよね。とはいえ、キスすること自体は別に問題ではありません。この年頃の男女はみんなそういうことに興味津々なので、エディに限らず、学校中ではいろんな男女がいろいろ「お盛ん」っていうのも、文化や国民性の違いだなと刺激を受けます(笑)

そんなエディを冷めた目で見ているのがアンバーです。無理して取り繕おうとしている彼が滑稽に見えるんでしょうね。彼女は自らレズビアンであることを自認してはいるものの、やっぱりまわりには隠しています。バレたら最後、まわりからいじめられることは目に見えていますから。

<居場所のない2人がお互いの居場所になるという奇跡>

この2人が同じ学校・同じ学年にいるのはまさに運命でした。パズルのピースがピッタリ合わさったように必要な存在ですよね。お互いに同性愛者だとバレないようにするためには、2人でカップルのフリをするのが最適解だということで付き合い始めるのがこの映画の面白いところです。最初はぎこちなかったんですけど、だんだんと慣れてきて、傍から見ても普通のカップルにしか見えなくなっていきます。

<エディとアンバーの行く末が見ごたえバッチリ>

ただ、控えめなエディと違って、アンバーは積極的。性格だけでなく趣味も異なり、将来の方向性が真逆なのも物語を進める上で重要な設定でした。町を出て自由になりたいアンバーとは対照的に、エディは軍隊に入って一生自らの秘密を隠し通すつもりなんですよ。2人の関係に暗雲が立ち込めてくるのも時間の問題となっていきます。

若者はその若さゆえに選択肢が少ないことがあります。そんなとき、一時的な感情や家族の介入で、自分が納得していない道を歩もうとすることもしばしば。それはエディの方が色濃く出ていましたね。同じ年頃の男女だと、男の子は子供っぽく、女の子は大人っぽいとはよく言われますが、それはこの映画でも顕著だったんじゃないかなと。エディはけっこう極端な行動に出がちなんですが、アンバーは冷静に自分自身を見つめてたように思います。そもそもエディに付き合うことを提案したのも彼女ですし、母親に自らの主張をきちんと伝えているのも、アンバーの中で自分の立場を客観視できており、将来の道筋も何となく見えていたからじゃないかなって感じました。

このエディとアンバーのバランスがよかったんですよ。単に真逆のタイプというだけでなく、自分を客観視できているかどうかっていうところも大きいと思います。最後、エディは救われましたよ。異なるタイプの人間といっしょにいることで、「自分が本当に求めていること」と向き合い、一歩前進できたんですから。エディとアンバーの関係は、もはや友達を越え、恋人すらも超越するかけがえのない関係だと思いますよ。

<そんなわけで>

同性愛を題材にした、真面目さとコミカルさが絶妙なさじ加減の面白い青春映画です。ティーンエイジャーが自分のアイデンティティに苦悩し、葛藤しつつも、「自分の本心」と向き合う姿は、いろんなことに当てはまりそうなので、感情移入しやすいんじゃないでしょうか。ぜひ、映画館で観てほしい作品です。

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