エキストラ役の香川照之がその存在感ゆえにエキストラになりきれていないのがジワる『宮松と山下』
【個人的な満足度】
2022年日本公開映画で面白かった順位:152/192
ストーリー:★★★☆☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★☆☆☆
【作品情報】
製作年:2022年
製作国:日本
配給:ビターズ・エンド
上映時間:87分
ジャンル:サスペンス
元ネタなど:なし
【あらすじ】
宮松(香川照之)は端役専門のエキストラ俳優。ロープウェイの仕事も掛け持ちしている。
時代劇で大勢のエキストラと共に、砂埃をあげながら駆けていく宮松。ヤクザのひとりとして銃を構える宮松。ビアガーデンでサラリーマンの同僚と酒を酌み交わす宮松。来る日も来る日も、斬られ、撃たれ、射られ、時に笑い、そして画面の端に消えていく。そんな宮松には過去の記憶がなかった。
ある日、谷(尾美としのり)という男が宮松を訪ねてきた。宮松はかつてタクシー運転手をしていたらしい。藍(中越典子)という12歳ほど年下の妹がいるという。藍とその夫・健一郎(津田寛治)との共同生活が始まる。自分の家と思えない家にある、かつて宮松の手に触れたはずのもの。
宮松の脳裏を何かがよぎっていく…。
【感想】
あの大ベテランの香川照之さんが、まさかのエキストラ役をやるという設定に興味が湧いて鑑賞しました。主役級の方がエキストラというギャップに期待が持てますよね!
<エキストラ現場の描き方がリアル>
宮松のエキストラっぷりはリアルでしたね~。とにかく斬られて、撃たれて。いくつかの作品に出ていましたけど、セリフなんてほとんどありません。やられた後に服を着替えて"別人"の設定で、またシーンに参加します。エキストラは体力勝負であることがよくわかりますね。
また、現場でいっしょになった他のエキストラの方とのぎこちない会話。別に友達でもないですし、次も会うとは限らないわけですから、空気が探り探りになるのも頷けます。でも、ひとたびカメラがまわれば、与えられた設定に入り込む。声が拾われないように、ほぼ口パクでの演技。それをあの香川照之さんがやっているというのが面白いです。
<エキストラになりきれない存在感>
とはいえ、そのちょっとした演技でさえ、妙な怖さを身にまとっているので、存在感がありすぎるんですよ。さらに、普通だったらカメラはキャストに焦点を当てるので、まわりのエキストラはボヤッとしか映らないのに、一応これは宮松が主人公なので、彼に焦点が当たり、キャストがボヤるという逆転現象(笑)現場の描き方はリアルでしたが、宮松自身がオーラがありすぎてエキストラと思えない風格だったのはちょっと笑えます。
<どういう展開になるのか予想がつかないところにそそられる>
さらに面白いのは、前半部分における宮松の時間の流れ方です。彼が今過ごしているのはプライベートこ時間なのか、エキストラの時間なのかがわからなくて。そりゃ時代劇だったらすぐにわかりますが、現代劇になると見分けがつかないんですよね。プライベートかと思いきや撮影現場だったり、撮影現場かと思いきやプライベートだったり。どういう展開になっていくのかが予想できないサスペンス風の作りに引き込まれました。
<全部が描かれるわけではないところがモヤる>
ただ、後半がちょっとわかりづらかったんですよね。そもそも記憶を失って、なんでエキストラやってるのかが明かされません。もともと演劇をやっていたとかならまだしも、宮松は野球がうまいのと手先が器用ってことぐらいしかわかりません。まあ、記憶がなく"何者でもない"からこそ、同じ"何者でもない"エキストラ、いや、もしくは"何者かにはなれる"エキストラをやっていたのかもしれませんね。
でも、記憶を失ってから突然いなくなって12年経つらしいんですよ。その間は家族とも連絡を取っていなかったっぽいので、さすがに捜索願は出るだろうし、すぐに見つかりそうなものですけどね。記憶を失った"フリ"をして、うまく回避していたんでしょうか。ここらへんは観た人の考察次第ではありますが、ちょっとモヤモヤするところでもあります。
<そんなわけで>
エキストラ役のはずなのに、圧倒的な演技力(特に表情)を見せつけてくる香川照之さんに見入ってしまう作品でした。全体的にセリフが少ない分、あれこれ想像しながら観れるのは楽しかったです。