ロシアによるマリウポリへの軍事侵攻で小さな命が多く失われたことが一番観るに堪えなかった『マリウポリの20日間』
【個人的な満足度】
2024年日本公開映画で面白かった順位:12/55
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★★★
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:20 Days in Mariupol
製作年:2023年
製作国:ウクライナ・アメリカ合作
配給:シンカ
上映時間:97分
ジャンル:ドキュメンタリー、戦争
元ネタなど:ロシアによるマリウポリへの侵攻(2022-)
【あらすじ】
※公式サイトより引用。
2022年2月、ロシアがウクライナ東部に位置するマリウポリへの侵攻を開始。これを察知したAP通信のウクライナ人記者であるミスティスラフ・チェルノフは、仲間とともに現地に向かった。
ロシア軍の容赦のない攻撃による断水、食料供給、通信遮断…瞬く間にマリウポリは包囲されていく。海外メディアが次々と脱出していく中、彼らはロシア軍に包囲された市内に残り、死にゆく子供たちや遺体の山、産院への爆撃など、侵攻するロシアによる残虐行為を命がけで記録し、世界に発信し続けた。
徐々に追い詰められていく中、取材班はウクライナ軍の援護によって、市内から脱出することとなる。滅びゆくマリウポリと戦争の惨状を全世界に伝えるため、チェルノフたちは辛い気持ちを抱きながらも、市民を後に残し、脱出を試みた…。
【感想】
本作は、ロシアによるウクライナ東部のマリウポリへの侵攻を追ったドキュメンタリー映画です。内容的にこれを面白いというつもりは毛頭ありませんが、マリウポリの現状がいかに悲惨か、胸がえぐられる思いでした。。。これは全世界の人々に観ていただきたいです。
<これは架空の出来事ではなく、現実>
ここで僕は政治的な発言をしたいわけではまったくありませんし、この作品自体も別にロシアの批判やウクライナの擁護といった主義・主張・意見があるわけでもなく、ただ、事実としてマリウポリで起こった事実が淡々と記録されているのみです。なので、あくまでもこのドキュメンタリー映画を観た上での感想になるんですが、とにかく戦争のしわ寄せは罪もない民間人に及ぶということが痛いほどわかる映像の数々でした。車から火の手が上がり、建物も鉄筋が見えるほど破壊され、街のあちこちから煙が上がっているんです。それこそ、まるで映画やゲームで観るような光景が目の前に広がっており、フィクションと錯覚してしまいそうになるんですが、残念ながらこれらはすべて現実のことなんですよ。。。
<尊く小さい命が失われていく惨劇>
このドキュメンタリーを観て、個人的に一番心が痛んだのは犠牲となる民間人です。彼らに罪は何もなく、戦闘行為に参加しているわけでも当然ありません。日々、平和に暮らしていただけなのに、突如として行われたロシア側の爆撃によって負傷、最悪の場合、命が奪われていくんですから。映像の中で正確に月齢が明示されていた最年少の犠牲者は18か月の赤ちゃんでした。もちろん、それよりも幼い子の遺体もありました。生まれてそこまで月日が経っているわけでもなく、これから一生懸命生きようとしていただろうに、大人たちの都合でその短い生涯に幕を閉じてしまうのは、同じ子を持つ親の身として観るに堪えない事実でした。また、ある16歳の少年は友達とサッカーをしているときに爆撃され、両足を失い、その後亡くなっていました。小児科・産科病院も爆撃され、ある妊婦は骨盤を粉砕骨折し、母子ともに命を落としていました。逆に、そんな状況にありながらも新たに生まれた命もありましたが。ロシアは民間人には手を出さないと言っておきながらも、こうやって民家や学校、病院などを爆撃しているんです。
<孤立無援の状況がさらに人々を悪行に走らせる>
人々が避難生活を送る中、電気やガス、水道が止まり、日常生活なんて夢のまた夢。それですら多大なストレスになりそうですが、それ以上にネットが繋がらず、外部との連絡がまったく取れないことも人々をイライラさせる大きな原因となっているようでした。そんな状況下で街中では略奪が起き、ウクライナ兵士も「普段使っていた店でなんでそんなことをするんだ!」と呆れる様子。実際の映像を観て驚きましたが、みんなさも当たり前かのように店に入って、しれっと物を盗っていくんですよ。人間、極限状態に陥ると本性が出るなんて言いますが、「戦争はX線。人間の内部を映し出す」って言ってる人がいて、まさにその通りだと痛感しました。
最終的に、ロシアが侵攻を開始した2022年2月24日から86日後にマリウポリは陥落したそうです。その間に約2万5,000人以上が命を落としたと報告されているけれど、実際の犠牲者数はこれを大きく上回るだろうとのこと。
<そんなわけで>
ロシアがウクライナに対して何をしているかというのがよくわかるドキュメンタリー映画なので、本当に多くの人に観てほしいです。子を持つ身としては、やはり幼い子供の命が失われることが何よりも辛かったですが、この映像を記録に残したAP通信のミスティスラフ・チェルノフにも2人の娘がいて、彼女たちに会いたいって言うんですよね。にも関わらず、命懸けでこの映像を撮って世界中に配信した彼の勇気ある行動に賛辞を贈りたいです。そういえば、こういうときってカメラマンに対して「撮ってんじゃねぇ!」って怒る人もいる気がしますが、今回の映像では、むしろ「記録に残してくれ」と言っている人が多かったのも印象的でした。
記録には残っていませんが、きっと第二次世界大戦中の日本もこういう状況だったんでしょうね。もしかしたら、もっとひどい惨状だったかもしれませんが。。。