強制送還によって家族が引き裂かれる危機に瀕した姿が辛い『ブルー・バイユー』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:11/39
ストーリー:★★★★★
キャラクター:★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★★☆
【ジャンル】
ヒューマンドラマ
移民
強制送還
【原作・過去作、元になった出来事】
何人か実体験を元に製作。
【あらすじ】
韓国で生まれ、わずか3歳でアメリカに養子に出されたアントニオ(ジャスティン・チョン)。しかし、自身は知る由もない30年以上前の書類不備で、国外追放命令を受けてしまう。
アメリカの移民政策で生じた法律の隙間に落とされてしまった彼は、愛する家族との暮らしを守れるのだろうか。
【感想】
とても心が痛む映画でした。主人公の見た目が同じアジア人っていうことで、感情移入しやすい分、より辛かったですね。。。
<自分に落ち度がないのに法的に裁かれてしまう現実>
この映画の題材は、移民の強制送還です。でも、そのきっかけは不運すぎる偶然だったんですよ。
アントニオは妻のキャシー(アリシア・ヴィキャンデル)と娘のジェシー(シドニー・コワルスケ)と3人で仲良く暮らしていました。ジェシーはキャシーの連れ子で、アントニオと血の繋がりはないんですけど。
ある日、スーパーでアントニオとキャシーが些細ことから口論していたところを、巡回中の警官が見つけちゃって。それが、ジェシーの実の父親でもあるエース(マーク・オブライエン)と、同僚のデニー(エモリー・コーエン)。エースはともかく、このデニーが本当にひどい野郎なんですよ。アジア人のことが嫌いなんだろうか、アントニオは何も悪いことしてないのに、ちょっとした言い合いから逮捕です。
で、アントニオも前科があるから、捕まった後にいろいろ調べられちゃうんですよね。そこで、国際養子縁組でアメリカに渡ってきたことがわかるんですけど、30年前の書類に不備があって、韓国に帰らないといけない状況に陥ります。まあ、その書類の不備の責任はアントニオの養父母にあるんですけど、すでに他界してしまって。自分のまったく知らないところで、自分に何の責任もないのに、国外追放されちゃう状況って、ちょっと想像しがたいんですけど、いきなり住む場所を奪われるみたいな感じで、とても辛いですよね。しかも、彼にはキャシーとの間に新しい子供を授かっていて、このままだと家族がバラバラになっちゃう危機なんですよ。
<アントニオに訪れる不幸の連続>
残された選択肢は強制送還を受け入れるか、もしくは公聴会でアントニオの有用性を訴えて判決を委ねるかの二択しかありません。前者は受け入れ難いので、後者でがんばろうとするんですが、、、これがまたアントニオにとって辛いことで。有用性を訴えるってのは、彼がいかにまわりに貢献していて、このまま国外追放されるとデメリットになるかを証明するってことです。もちろん、タダではなく、高額な費用が必要になります。そんな精神的に追い詰められている状況の中で、自分が実の親に捨てられたという事実にも向き合わなければなりませんし、そこにまたあのアジア人嫌いのデニーも絡んでくるし、「こんなに不幸なことって連続するの?」っていうぐらいアントニオの置かれた状況が辛すぎました。
<決してフィクションではない出来事>
この映画のストーリー自体はフィクションではありますけど、何人かの実体験をインタビューして、それを元に作られています。なので、アントニオのようなケースは多いらしいんですよ。1945年~1998年の間に国際養子縁組を結ばれてアメリカに来た人たちの中には、今でも市民権を持たない人が大勢いて、実際に強制送還された人もいるとか。
日本にいると、まず移民とかって目にしませんよね。映画ではあっても、白人以外の外国人がそういう役どころだったりするので、かわいそうだとは思いつつも、遠い海の向こうの話として、身近に感じることはありませんでした。でも、今回アントニオを演じたジャスティン・チョンは韓国系アメリカ人で、見た目的にはアジア人です。だから、それだけで感情移入しやすいってのはありますね。
デニーからの絡みだって、アジア人差別の延長だよなって感じるんですけど、こんないたたまれない気持ちになるのかって思いました。黒人差別はよく映画の題材でもあって、それはそれで心が痛む話ではありますけど、実際に同じ人種の人がそういう目に遭っているのを見ると、より胸が痛みましたね。。。アジア人への差別だって現実にもあるとは思うんですけど、映画では観たことないですね。昔の映画だと、アジア人をバカにしたような役にしているのはありますけど。『ティファニーで朝食を』(1961)に出てきたユニオシのメガネ、出っ歯、つり目とか。
<そんなわけで>
内容的にはとても興味深いのでオススメです。主人公の置かれた立場に加えて、娘ちゃんの演技にも号泣なので、ハンカチ必須です。海外の子役は本当にすごい演技しますね。