
祖国からの亡命やゲイというアイデンティティに悩みを抱える男性の人生が壮絶すぎた『FLEE フリー』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:29/84
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★★☆
音楽:★★★★☆
映画館で観るべき:★★★★☆
【ジャンル】
アニメ
ドキュメンタリー
【元になった出来事や原作・過去作など】
とある人物の半生
【あらすじ】
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼い頃、父が当局に連行されたまま戻らず、残った家族と共に命がけで祖国を脱出した。
やがて家族とも離れ離れになり、数年後、たった1人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり、研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。
だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。
【感想】
アニメで描かれたドキュメンタリーという珍しい作風の映画です。もちろん、それにはきちんと理由があります。「当事者の安全を守るため」。これは、祖国を抜け出した1人の男性にまつわる話ですからね、身バレするとどんな危険が襲ってくるかわかりませんから。
<日本にいたら想像もつかないような壮絶な人生>
アミンはもちろん仮名です。劇中での彼は現在40歳ちょいぐらいでしょうかね。1984年の時点で3~4歳と言っていたので。今の僕とそう大差ない年齢です。目立ちたがりだった幼少期、突然父親が当局に連行されてしまいます。しばらくは面会もできたそうだけど、3ヶ月経って忽然と姿を消したらしく、その後の生死は一切不明だとか。
10代になるとアフガニスタンでは徴兵の義務があるようで。戦地へ送られたら戻って来れる保証もないですよね。そのため、家族でまずはロシアへ逃げることにするんですが、ロシアはロシアで警察が腐敗しきっており、理不尽なイチャモンに怯える日々でした。
そこからスウェーデンへ逃れようとするんですが、正面きっては行けないため、密入国という形を取ります。狭い船倉内に何十人と押し込められ、嘔吐と浸水に見舞われるという悲劇。ようやく外に出てノルウェーの豪華客船と出くわすものの、沿岸警備隊に通報され、再びロシアへ強制送還です。せっかくここまで来たのに水の泡ですね。その後、新しい密航業者を見つけるんですが、安全を第一にしたため高額になってしまい、アミン1人のみデンマークへと亡命することになりました。
亡命する人は多かれ少なかれ同じような経験をするのかもしれませんが、改めて日本という国が平和であることを痛感しますね。
<アミンの秘密>
さらに、アミンはゲイだったんです。当時のアフガニスタンにはゲイの人も、ゲイという概念もありませんでした。なので、これがまわりに知れ渡れば、家族が恥をかくことになります。彼は誰にもそのことを言えずにいるので、とても肩身が狭い思いをしたんじゃないでしょうか。命が危険な環境に身を置きながら、自身のアイデンティティにも悩むアミンの人生に衝撃を受けます。
<1人の人生を追いつつも、テーマは社会全体に通ずる>
この映画は、アミンという1人の男性の半生を綴ったとても個人的な話ではあります。しかしながら、アフガニスタンで起こった辛い現実を通じて紛争問題を、祖国から逃れる人々の過酷な日々を通じて難民問題を、ゲイであるアミンの苦悩を通じてLGBTQ+の生きづらさをそれぞれ描いており、現代における様々なテーマを扱っていました。それらのトラウマと向き合うことで、気持ちに整理をつけ、未来を向こうとしているアミンの姿勢はとても立派です。むしろ、置かれた環境のせいで他人を信用できない人間になってしまった彼が、再び心を開けるパートナーに出会えたことは感動的でさえありました。ちなみに、家族は父親以外は存命で、今では欧州の各地に暮らしているようです。
<そんなわけで>
アニメという手法でややマイルドな印象になっていますが、中身はとても重いです。自分と同じ時代を生きながら、遠い海の向こうでは日本では考えられないような人生を送っている人がいるということを実感できる映画なので、ぜひ多くの人に観ていただきたいですね。監督自身も、迫害から逃れるために、ロシアから離れたユダヤ系移民の家系だそうで、この作品には並々ならぬ想いがあると思います。