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家族の中で唯一耳が聞こえる少女が、夢と現実の間で葛藤する感動映画『コーダ あいのうた』
【個人的な評価】
2022年日本公開映画で面白かった順位:2/9
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★★
映画館で観るべき:★★★★★★★★★★
【ジャンル】
ヒューマンドラマ
コメディ
音楽
感動
【原作・過去作、元になった出来事】
・映画
『エール!』(2014)
【あらすじ】
豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビー(エミリア・ジョーンズ)は、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聞こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。
新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズ(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)と同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。
だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし…。
【感想】
なんという歌唱力。なんという感動。なんという綺麗なストーリーライン。これはもう映画館で観るのが必須な映画です!!
本作は2014年に公開された『エール!』のリメイク作品。こっちも面白いんですが、今回のリメイク、要素が同じだけで、けっこういろいろ変わっています。例えば、主人公の家業は農業から漁業に変わったり、兄弟も弟から兄に変わったり。その上で、内容もさらに洗練されているので、とてもいいリメイクだと思います。
<主人公の置かれた状況に胸が締めつけられる>
そもそもこの映画は設定自体がある意味ズルいんですよ。ズルいと思っちゃうぐらい、主人公の葛藤が自然かつ納得できてしまう綺麗な形で。
主人公ルビーは両親と兄との4人家族ですが、耳が聞こえるのは唯一彼女のみ。父と兄は漁師をしており、ルビーは生まれてからずっとその人生を"通訳"に捧げています。そんな彼女が好きなことは歌うこと。しかも才能があるので、講師からもバークリー音楽大学への推薦を受けるほどなんですよ。
でも、どんなに彼女に歌の才能があっても、家族はそれがわかりません。なぜなら、耳が聞こえないから。本来なら自分の味方になってくれる人たちが、彼女の才能に気づく術がないって、なんて辛い現実なんだろうって思いました。歌がメインなのに、一番聞いて欲しい人たちは耳が聞こえないっていう関係性がすごく自然ですよね。
で、ルビーは音楽のレッスンを受けなければいけないんですが、家業は彼女なしには成り立ちません。なんとか両立しようとがんばるものの、どうしても時間的に不都合が生じてきます。自分には叶えたい夢、目指したい未来があるのに、家族といえども他人に縛りつけられて、自分の人生が歩めないところが、とてもモヤモヤします。
ここは共感できる人もきっと少なくなんじゃないでしょうか。例えば、経済的理由であきらめなければならなかったことや、育児や介護で選択できなかった人生など、似たようなケースは日常にもあると思います。夢と現実の間で葛藤するルビーの姿は、何も映画の世界だからこそ生まれるものではなく、身近で起こりうることだと感じます。
<ルビーを想う家族の愛>
耳が聞こえない以上、ルビーの歌の才能も、彼女の情熱も知る由がない家族。できれば、生活のためには家にいて欲しい気持ちもあります。でも、意外なところで娘の歌の才能を知った父親は、その考えを変えていきます。自分には娘の歌声を聞くことはできないけれど、彼女がまわりにどんな影響を与えるのか、それを実感してのことでしょう。父も母も兄も、娘に頼ってばかりいたことを見直し、歩み寄っていくことでハッピーな道を見つけていくのが、チープな言い方にはなってしまいますが、本当に心温まる家族の物語でした。
<感動ストーリーだけど下ネタ満載>
この映画、基本的には感動系なんですが、コメディ要素も散りばめられているのがよかったです。家族間の会話は手話しかないんですが、何かと下ネタトークが多いのが笑えるところ。ルビーの両親の性生活から友達のビッチ感まで、洋画らしいお笑いポイントはツボります(笑)こういうシーンがあるからこそ、より一層感動シーンが際立ったりするんですよね。
ちなみに、両親も兄も、実際に聴覚障害を持つ役者を起用しているんですよ。そういう徹底的な作り込みが、さらにこの映画の好感度を上げますよね。
<圧巻の歌声>
忘れちゃいけないのが、ルビーを演じたエミリア・ジョーンズの歌唱力。繊細なトーンから力強いトーンまでを出しきるその歌声はとてつもなく圧倒されます。もちろん、マイルズも歌はうまいんですが、名も無き合唱部のメンバーたちですら、みんな歌唱力が高くて。ここはオリジナル版と違って、全体的な歌のレベルが上がっているなと感じました。
なお、僕はあまり洋楽を聞かないので、作中で使われていた歌はどれも初耳だったんですが、洋楽好きな人からしたら、この映画はもっと楽しめる要素が増えると思います!
<そんなわけで>
泣けるっていう意味では、個人的には『こんにちは、私のお母さん』の方が強いんですが、全体を通してのストーリーラインや人物背景などを踏まえたら、こっちの映画の方が面白かったです。主人公の置かれた状況、やりたいこと、それが叶わない葛藤、そんな彼女を支える家族、あらゆる要素において自然で綺麗にまとまっていて、いい映画だと思いました。オススメです!