生涯を船上で過ごした男の生き様に感動し、指が30本あるんじゃないかってぐらいのピアノの演奏テクニックに驚愕した『海の上のピアニスト 4Kデジタル修復版』
【個人的な満足度】
「午前十時の映画祭13」で面白かった順位:13/27
ストーリー:★★★★☆
キャラクター:★★★★☆
映像:★★★☆☆
音楽:★★★★★
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:La leggenda del pianista sull'oceano(The Legend of 1900)
製作年:1998年
製作国:イタリア・アメリカ合作
配給:シンカ
上映時間:121分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:独白劇『Novecento』(1994)
【あらすじ】
※公式サイトの文章を元に記載。
大西洋を往く豪華客船ヴァージニアン号の中で、生後間もない赤ん坊が見つかった。世紀の変わり目にちなみ、その子は1900〈ナインティーン・ハンドレッド〉と名付けられた。
船内で水夫たちに育てられ大人になった1900(ティム・ロス)は、ピアノの名手としてその名を高めていく。そんな噂を聞きつけたジャズ・ピアニストのジェリー・ロール・モートン(クラレンス・ウィリアムズ3世)が1900にピアノ対決を申し込んできた。奇跡のような早弾きを披露し、1900は見事モートンに打ち勝つ。
【感想】
「午前十時の映画祭13」最後の作品。1998年のイタリア・アメリカ合作映画。巨大な豪華客船が舞台なので、どことなく『タイタニック』(1997)のような雰囲気を感じますが、内容はラブストーリーではなく感動的なヒューマンドラマです。船上に捨てられ、やがて偉大なピアニストとなった1900の生き様を描いた濃密な映画でした。
<陸を知らない1900の放つ存在感たるや>
この映画は1900のキャラクターと、彼のピアノの演奏テクニックが見どころだと思います。彼の育った環境はかなり特殊です。そもそも誰がどんな理由で捨てたのかはわかりませんが、他に身寄りがないってんで船の上の男たちに育てられることになります。「どこかに届け出ろよ」っていうツッコミもあるんですが、出生証明書もなく引き取り手もいないのだから、船で育てた方がまだ安心だと思ったのかもしれませんね(そうは言っても、せめてトップである船長ぐらいは反対しそうですが)。
これはもう個人的な主観でしかありませんが、海の男は荒くれ者のイメージが強いので、1900も豪快な海の男になりそうですけど、彼はどちらかと言えば大人しく、さらにはピアノの才能を開花させるという文化系へと成長しました。あるときいきなりピアノを弾き出すものだから、一体いつどうやってそのスキルを身につけたのかが謎なんですけどね。せめて夜な夜な忍び込んではピアノの練習をしていたようなシーンでもあれば自然に感じるんですけど(笑)
でも、彼はそのピアノで人々を魅了していきます。中盤で彼に勝負を挑んだジェリー・ロール・モートンとのピアノ対決はすごかったですね。3本勝負だったんですけど、ラストで1900の披露したあの早弾き。なんあの、あれ。。。実際に演奏したのはプロのピアニストによる吹き替えだそうですが、それにしても人間の指ってあんなに速く動くものなのって。あまりの速さに指が30本あるように見えたほどです。
<孤独を感じていた1900>
いつもいろんな人に囲まれてはいたものの、彼は彼で孤独なんだなと思うシーンがありました。いくら海の上の男たちと楽しそうにやっていても、本当の家族ではありませんし、友達と呼べるような人もいません。特に女性との出会いがないのは彼にとっても寂しかったんでしょう。ある夜なんか、電話交換手ですかね、の女性に「おしゃべりしましょう」と話していたのが印象的です。前後の文脈なしにいきなりそのシーンだったのでちょっとびっくりしましたが、1900も普通の男性と同じで女性に近づきたい欲はあったんだなと。
だから、その後にある少女との出会いは、1900にとっては初恋のようなものだったのかもしれません。完全に一目惚れのような形で、自分の演奏を録音したレコードを渡そうにもうまく話しかけられなくて。彼女に入れ込む余り、夜、みんなが寝静まった女性専用客室に忍び込み、唇を重ねるに至るシーンがあるんですが、いくらなんでもこれはただの犯罪者じゃんって思いました。ここは映画だからロマンチックに見えるとかそんなことはなく、ちょっと気持ち悪かったです(笑)
<終わりがあるからこそ素晴らしい>
そんな1900のラストは寂しくも潔かったと思います。廃船となったヴァージニアン号は爆破されることになるんですが、彼は船からは降りず、人生から降りると言うんです。彼ほどの才能があれば、ピアノでいくらでも稼げただろうし、富も名声も手に入れることができたでしょう。実際にそう進言する人もいました。ただ、彼にとってはそんなことどうでもよかったんですよね。実は、1900は先の少女に会いたいがために、一度船を降りようと決意します。みんなに別れの挨拶をして、タラップを降りるところまで行くんですが、その途中でニューヨークのビル群を見上げて辞めちゃうんですよ。彼曰く、「あの街には終わりがない」からと。きっと、1900の中では「終わりがある」からこそ人生には意味があるんだという考えだったんでしょう。制約があるからこそ、限りがあるからこそ、その中で一生懸命に生きようとするし、素晴らしい音楽も生まれるんだと。でも、終わりのない無限に広がる街の中では、何かを選び取ることが難しく、そんな中で生きることはとてもストレスフルだったんじゃないでしょうか。限れらた空間の中で、限られた人たち(いつかは船を降りるという限定的な人たち)と触れ合ってきたからこそ、1900はそういう考えに至ったんだと思います。これはもうずっと船の中で生活してきた彼ならではの価値観ですよね。とはいえ、一度ぐらいは陸で生活した上で判断してもよかったんじゃないかなとは思いますけどね。
<そんなわけで>
海の上で生まれ海の上で死んでいった男の、よく言えば気高い、悪く言えば意固地な人生が面白い映画でした。僕もあれだけの才能を持ちながら、「いや、俗世には興味ないっす」みたいなスタンス取ってみたいですわ(笑)
そういえば、ひとつ気になったのが友達のマックス役を務めたプルイット・テイラー・ヴィンス。ずっと目が左右に激しく動いていたので、目が泳ぐ演技かなと思ったんですが、どうやら眼球振盪という病気を患っているそうで。演技と勘違いしてしまって申し訳ないなと思ったのですが、彼もまたいいキャラクターでした。マックスが1900の生きた証になりますから。
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