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心が壊れてしまった息子に向き合う父親の姿と壮絶なストーリー展開に、自分だったらもう父親としてやっていけないかもと思った『The Son/息子』
【個人的な満足度】
2023年日本公開映画で面白かった順位:3/40
ストーリー:★★★★★★★★★★
キャラクター:★★★★★★★★★★
映像:★★★☆☆
音楽:★★★☆☆
映画館で観たい:★★★★★
【作品情報】
原題:The Son
製作年:2023年
製作国:イギリス
配給:キノフィルムズ
上映時間:123分
ジャンル:ヒューマンドラマ
元ネタなど:戯曲『Le Fils 息子』
【あらすじ】
高名な政治家にも頼りにされる優秀な弁護士のピーター(ヒュー・ジャックマン)は、再婚した妻のベス(ヴァネッサ・カービー)と生まれたばかりの子供と充実した日々を生きていた。
そんなとき、前妻のケイト(ローラ・ダーン)と同居している17歳の息子ニコラス(ゼン・マクグラス)から、「父さんといたい」と懇願される。初めは戸惑っていたベスも同意し、ニコラスを加えた新生活が始まる。
ところが、ニコラスは転校したはずの高校に登校していないことがわかり、父と息子は激しく言い争う。なぜ、人生に向き合わないのか?
父の問いに息子が出した答えとは──?
【感想】
フローリアン・ゼレール監督が自身の戯曲を映画化した作品。前作の『ファーザー』(2021)に続き、"家族3部作"の第2部にあたる作品となります。その『ファーザー』がものすごく面白かったので、けっこう期待値高めで観に行ったんですが、いやはや期待以上でしたね。子を持つ親ならば、自分の子供との向き合い方を考えさせられる話で、観終わった後しばらく呆然とするぐらい、濃厚かつ衝撃的な映画でした。今年一番のヒューマンドラマと言ってもいいんじゃないでしょうか。
<当たり前の関係性でもお互いを完璧には理解できないもどかしさ>
この映画の一番の見どころは、父親であるピーターの息子ニコラスに対する接し方でしょう。一見すると何も問題ないように見えますが、それはあくまでも父親目線として。「学校はどうだったのか」、「人生はどうするのか」、そういう何気ない問いかけが、知らず知らずのうちに子供のストレスになっていったんです。
正直、この家庭は恵まれています。ピーターは優秀な弁護士でニューヨークに居を構え、何不自由ない生活を送っているように見えます。しかも、多忙を理由に家庭をほったらかしということはなく、彼なりに誠実に接しているように見えました。
が、ニコラスがピーターを受け入れられない一番の要因は両親の離婚なんですよね。離婚の原因は語られていませんが、ピーターは家を出て、他の女性と新たに家庭を築いています。劇中では、そのことについてはすでに片付いている印象を受けますが、思った以上にニコラスに与えた影響が大きく、そこにピーターも母も気づかなかったんですよ。なぜなら、これまでニコラスには表立った変化が見られなかったからです。
ところが、実際に彼は学校へは行っていないばかりか、自分の中にある大きな不安や怒り、憎しみなどを消化しきれてません。それをうまく言葉では説明できず、日に日にネガティブ感情が募るばかり。家を出て行った父のせいで母はひどく傷つき、そんな母の姿を目の当たりにして、父に対してそれまで持っていた尊敬の念と、裏切られたという憎しみの念によって、ニコラスは体が引き裂かれそうな精神状態でした。
ピーターは自分の人生も大切にしたいという考えがありますが、別にわがままな感じは一切なく、どちらの家庭も大事にするいい人に見えます。まあ、本当にいい人なら離婚はしないかもしれませんが(笑)ニコラスにも全力で向き合っていますし、それでも我が子を理解できないというんだから、もどかしさしかないですよね。むしろ、ちゃんと向き合っていても完璧にはお互いを理解し合えないんだなという"どうしようもなさ"みたいなのを感じました。
<ピーターもまた親から見れば"子">
そんなピーターですが、なかなかニコラスとの溝が埋まりません。というより、ニコラスの心の闇が消えないんですよ。なぜでしょうか。それはピーターのコミュニケーションの取り方に問題がありそうです。彼は何かとニコラスに説明を求める節があったり、ああしろこうしろと指図する部分があります。言っていることは親として普通のことではあるんですけど、ニコラスからしたら、自分や母親を傷つけた父親の言うことにはもう信頼を置いていないのかもしれません。ただでさえ、17歳という思春期真っ盛りですからね。親がうざったいなと思う年頃ですよ。
でも、ピーターがそういうコミュニケーションを取ってしまうのは、彼の父親であるアンソニー(アンソニー・ホプキンス)の影響がありました。ピーターもまた、学生時代に父親に対していい思い出がありません。仕事で家を空け、母親が病気のときもろくに看病をしなかったそう。それに対して、「だからなんだ?」というような人です。ピーターは自分が父親にされて嫌だったことを、自分でも無意識のうちにニコラスに同じようなことをしてしまっていたことに気づくんですよ。そういう意味では、タイトルの『The Son』というのは、ピーターから見たニコラスだけでなく、アンソニーから見たピーターも内包されているように感じられて、なかなか深いなと感じました。
<ヒュー・ジャックマンの熱演>
この映画の見どころとして挙げたいのは、やっぱりヒュー・ジャックマンの演技ですよ。自分が置かれた状況も複雑ながら、愛する我が子の考えていることも理解できず、いろいろ難しい役どころだったと思いますが、彼が思わず感情が爆発してしまうシーンはかなり鬼気迫る感じでした。『X-MEN』シリーズのウルヴァリンで超絶アクションをこなし、『グレイテスト・ショーマン』で熱唱し、今回は息子とわかりあえない父親ですよ。役柄が幅広いったらありゃしません。
<そんなわけで>
これはぜひ映画館で観ていただきたい作品です。派手な演出はありませんが、鑑賞環境が整ったところでじっくり堪能してほしいですね。父と子という強い繋がりをもってしても、お互いを理解することができないもどかしさを通じて、自分のまわりの人との接し方を改めて振り返るきっかけになるかもしれませんから。